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おクルマの営業  作者: たんぴん
10/13

初任給

説明が多い回になります。

 

 初の車検を獲得してから暫く経過した。

 俺は外回りを継続しているものの、1日の中での時間を決めて行うことにした。一件の車検獲得により、外回りだけをやっている訳にはいかなくなった。

 同然に本分である新車の販売を狙う訳ではあるが、お客様がいないので外回りは辞められない。

 だが、豊川自動車より、フリーダムという車種にてリコールが発表された。

 当然だが、リコールとなればお客様へは無償での修理となる。


「そんなん販社は丸損やんけ」


 そう思っていたこともあったが、実はそんなことはない。販社が負担するならば破綻する会社が多数出ても不思議ではない。

 費用負担をするのは豊川自動車である。交換部品は無償であるし、工賃についても豊川自動車へ請求できるのだ。疎遠になったお客様も来店せざるを得ない上に、営業のチャンスが生まれる訳だ。そう、自動車販社にしてみればリコールはオイシイのである。ご迷惑をお掛けしてますと、言いながら内心ではボロい商売だと、ほくそ笑んでいる訳だ。


 また、俺にとってもリコールはオイシイ。担当のついていない、地域の該当車種保有者には、電話なりをすることで来店を促すことになる。当然DMが届いているはずだが、それでも来ていただけない方には、こちらからの訪問となるのだ。


 これほど、楽な仕事はないものだと舌なめずりをしたい気分だ。住所もわかっているし、電話か訪問をすれば大半は来てくれる。


 そうして、当分は平日は外回りを中心に、リコールのご案内のお電話を。土日は外回りと雑用をやりつつ、チャンスを伺ってショールームへ来た一元客を狙うスタンスに切り替えた。


 実は今月で車検は3件の実績を挙げている。

 先日は谷部長が来た際には、それはもう、ベタベタと誉められたものであった。


 ちなみに、北大阪豊川自動車における、車検1台の獲得インセンティブは¥300である。バイトした方がマシだな…



  ―5月25日―


 今日は何の日だ。そう、給料日である。北大阪豊川自動車においては、締めが末日で給与振り込み日が毎月25日となっている。

 基本給は¥181000となっており、そこに諸手当が付与される。各種インセンティブや超過勤務手当や通勤手当などである。

 新人においては、1年間は実績がなくとも¥15000のインセンティブが救済措置として与えられる。要するに、1年やるからその間にお客様を増やせ。後は知らんということだ。


「お先に失礼します」


 俺は定時で退社をする。待ちに待った初任給だ。普通ならば、母親や千紗にプレゼントだとか、何か良いものを買うだとか考えるだろう。


 だが、俺は違う。


 駅には向かわずに千林大宮駅付近のパチンコ屋へ入店した。我ながらこの畜生ぶりには惚れ惚れしてしまう。台の釘をしっかり見極めて、よく回りそうな台を吟味した。


「おぉ。こんなん20以上は回る良釘やんけ」


 俺はすぐさま着席し、遊戯を始めた。





「ただいま」


「おお、お帰り馬鹿息子。初任給でなんかええモンでも買うてきたか」


 母親は期待に満ちた表情だ。


「スった」


「は?!」


「やからスったからプレゼントはなし。残念やったなお疲れさん」


「頭オカシイんとちゃうの、本間アホやわ」


 母親の意見はごもっともだ。俺は熱くなり、¥30000をスってしまった。


 死にたい。寝よう。


 そういやあれから千紗とも会ってはいない。土日が休みの千紗とは都合が合わず、メールだけで他愛のないやり取りのみを続けていた。千紗には辛い思いをさせているかもしれない。


 よし、次の休みにパチンコでリベンジしてプレゼント代を稼ごう。


 そう考えながら、現実とうつつの狭間をうつらうつらとさ迷った。



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