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Scarlet Loved

作者: 浅色
掲載日:2008/10/02

背景が真っ赤なので、ご注意下さい。

アタシは愛しているわ

こんなにも強く


深く



ねぇ、知ってた?


これは最高の愛情表現なの


だから・・・



ねぇ・・・・




あはははははははははははははははははは






交易の盛んな小さな街ジェノア。

ここの名産物は真っ赤な薔薇。

もちろん薔薇は、恋人へ贈る需要が最も多い。

ジェノアは愛の豊かな街としても有名である。

今日もまた、薔薇に導かれた青年が一人。

真っ赤な薔薇を携えた青年はフラベール通りの時計塔の下で思い人を待ち続けていた。

花束は優しい風になびき、花びらを何枚か飛ばす。

待ち人はいつになっても現れない。


「あぁ、慈悲深き愛と豊穣の神ラティスよ。どうして彼女は来ないのだろうか!」


オペラのように嘆き、天を仰ぐ様は実に滑稽である。


時計塔の影が夕刻を示す。

それまでたわいもない日常を紡いでいた人達も、忙しそうに帰路につく。

もうこの時計塔の下には彼一人。

日差しがだいぶ傾いた頃、遠くより人影が現れた。


「あぁ慈悲深き愛と豊穣の神よ。私はまだ見捨てられていなかったのですね」


どうやらようやく待ち人がいらっしゃったようだ。

実に待ち合わせ時刻より4時間が過ぎた頃だった。


「ごめんなさい、待ったかしら?」

「いいや、僕も今来たところさ〜。今日のドレスも素敵だ!荒野に咲く一輪の花のように僕の心を潤してくれるよ」


お決まりの文句を吐く男。

だが女も悪い気はしなかったようだ。

帽子の下からほんのり朱色な頬が覗く。

赤い帽子に真っ白なワンピースの女。

またしても劇中の主人公のように男は言う。


「あぁ愛しているよマリアベル」

「えぇ私もよジョニー。だからね・・・」

「なんだい?」


何か買い物でもねだってきたりするのだろうか。

もし指輪だったらその場でプロポーズしよう。

今日はきっと特別な日になるだろう。

男はそんな妄想を張り巡らせていた。

そして彼女の答えは・・・。


「死んでちょうだい?」

「え・・・?」


真っ白なシャツに真紅の血が広がる。

それはかくも魅力的なものを見るかのように女は恍惚の表情を浮かべる。

妖艶な女の色香。

彼女の眼《まなこ》は愛する人を見るウットリとしたそれ。

だというのに、今起った事とはあまりにもかけ離れている。


「な、なに・・・を」


その場に崩れ落ちる男。

愛おしい者の手には真っ赤な果物ナイフ。

あれほど愛し合っていたのに、男の頭は疑問が渦巻く。


「僕を、そこまで・・・嫌いだったのかい、殺したくなるほど、憎かったのかい・・・?」

「違うわよ?」


とまるで何も知らない子供のように、不思議そうな顔の真紅の悪魔。

男の返り血で真っ白なワンピースは赤く汚れ、顔も血の化粧が施されている。

不意にも男は、この殺人鬼を美しいと思ってしまった。


「私はあなたを愛しているのよ?だから殺すの。私の手で。他の誰にも殺されないように」


艶やかなその手は愛おしい者を抱く。

豊穣の神のような優しい抱擁。


「愛してる、愛してるのよ!わかるぅ?!!あははははははははははははは」


愛し合っているという満足感。

この上ない悦び。

少なくとも彼女はそう確信している。


「どう?素敵でしょ?アナタの血に染まったのよ私!いっぱい!いっぱい!!」


それは狂宴の幕開け、ただの序説。


「あははははは 私あなたの血でいっぱいなの!あなたを着たの!見て、あなたと同じ色!」


そして狂者は問う。


「どう、私キレイでしょ?」


事切れた人形(ひとがた)にはもはや答える術など持っていなかった。





---






ここはフランティス国のとある田舎。

少し外れると長閑のどかな田園風景が広がる。

色鮮やかな景色。

空は、木漏れ日は、宝石のようにキラキラと輝いていて

恋とはかくも世界を美しくさせるのだろうか


「昔から君の事をずっと見ていたんだ」

「え・・・・」

「だから・・・その・・・・」


男は小声で、間がもどかしくもようやくその言葉を告げる。


「好きなんだ・・・」

「私も・・・です」


この日、幼い二人は結ばれた。

嬉しい気持ち。

何でも出来そうな気持ち。

もう他に何もいらない気持ち。

そんな気持ちで満たされていた。



あの星空の下で永遠を誓ったのに。

あのカフェで未来を語り合ったのに。


「一生君を守り続けるから」


その言葉だけで幸せだったのに。

幸せな日々。

輝くような時間の流れ。

時は思えば思うほどに、流れを止めてはくれない。

あぁ愛し合う二人はかくも哀れなのか。

永遠の愛だと信じ、強く崇高なる絆だとまどろみ。

愛し続けていたというのに。

なのに・・・。

こうも愛していたというのに。

愚かな彼は過ちを犯してしまった。

彼女は愚かにもそれを知ってしまった。

女の知らない笑顔の彼と、彼に寄り添って歩く見知らぬ女とを・・・。

二人を繋ぎ止めていた運命の赤い糸は、誰にも聞こえない音を立てながら千切れてしまった。



「誰?あの女」

「いいえきっと友達よ」

「そんなわけないわ!不倫してるのよ」

「私が信じないで誰が彼を信じるというの?」

「目の前の現実を受け入れなさい、彼は裏切ったのよ!」

「いいえ私は信じるわ!ただの勘違いからくる嫉妬、そうよきっとそう!!」


彼女の中で二つの声が否定した。

だが残酷にも現実は加速してゆく。


夜の公園で彼と女は足を止める。

見つめ合う二人。


「やめて」


草むらからは彼女の声は聞こえない。

視線の先、二人の時が止まる。


「やめて・・・」


声に出したつもりだった。

声は溢れる事もなく、かすれて消えてゆく。

せばまる二人の距離。


「いや・・・」


そして二人は・・・・。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」







(嘘なの?私はあなたの都合のいいだけの女?)


翌日、女は男に問い詰めた。

昨夜の事全てを。

すんなり白状し、開き直る男。

そして突きつけられた現実。


「分かれよう。束縛に耐えられない」

「待って!何でもする!私あなたがいないとダメなの!」

「しつこい!俺達はもう終わったんだ!」


信じたくなかった。

信じられなかった。

こんな現実を望んではいなかった。

乱暴に振りほどかれた腕を掴もうと、必死で手を伸ばす。


「待って、待って!あぁぁぁ・・・・」


願いを掴み取るには女の手は短すぎた。

閉まるドアの音と共に、彼女の中の歯車が迷走する。


「・・・・・ははは」


ふらふらと家を後にする。

彼の後を追いかけてきたつもりだった。

いつの間にか、街頭が一点だけ灯る公園の広場にいた。

芝を(むし)りながらつぶやく。


「愛してるのに、こんなに愛してるのに・・・・アルフレッド!そうよ、しんじゃえ死んじゃえしんじゃえしんじゃえしんじゃえ」


運命はどこで狂いだしたのだろうか。

一途に尽くしてきたつもりだった。

彼のためにめいっぱいおしゃれも磨いた。

料理だってこんなにも上達した。

だというのに。


「まだこんなに愛してるのに!どうして!どうして!どうして!」


農作業を知らない彼女の手はあまりにも柔らかい。

雑草を無心に毟っているその手は、彼女自身の血で染まっていた。

何かを思い出したように立ち上がる。


「あぁ、そうだ。・・・・あなたに会いに行かなくちゃ」


女の時間は歪み、なおもその軌道を進み続ける。

声にならない悲鳴が夜空に木霊する。

同時に自分の内側から声が聞こえた。

殺せ・・・・と。


「そうよ、こんなにも愛しているもの」


夜の空を見上げて叫ぶ。

今宵の月は一片も欠けていなかった。


「あの女になんか渡さない。彼を一番愛してるのは私だもの」


いつしか星は歪んだ軌道を描き始めた。





5年後、ジェノアで殺人事件が多発する。

標的は決まって色事師と呼ばれる男達に限られた。

どの遺体も、見るも無残な姿で発見された。

歴史上かつてないほどの殺人事件。

男は魔女に唆されたと、噂が広まる。

犯人は捕まる事無く、事件の真相は闇に葬られた。

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