第七話 「全てが敵となる日」
ノートは科学者として活動していた。だが、その事実を知る人は少ない。
その夜は、植物園で明かすこととなった。だが、すぐ近くに死体がごろごろ転がっていると思うと呑気に寝られる気がしない。というより、寝られない。
ノートは気分転換を兼ね、植物園を見回ることにした。
「…どれも、まだ咲いているのか。」
彼らが休憩場所に選んだのは、植物園の入り口付近で、植物が植わっているであろう場所はそこからでは見えなかった。今、この花壇の前に来てわかったのだ。
まだ、花が枯れていないのだ。彼は、「たまにブランシュの人間が来ている。」と言っていた。
その時に花の世話をしているとすれば、花が咲いていることなど普通なことだ。
だが、明らかにおかしい。この園内全ての花々が凛々しく咲き誇っているのだ。枯れ葉の一枚も見受けられない。とても数人では世話しきれない量だし、そもそも気温を調節する設備だって壊れているし、さらには近くの井戸や蛇口だって壊れている。そんな状況でここまで花が育つのだろうか。
「…? 誰かいるのか?」
その声は背後から聞こえた。恐らくラスターではない。
恐る恐る振り向くと、勇気と慈愛に満ちた顔の青年がいた。
「ああ、貴方だったか。」
「え、どちら様?」
「僕は、ラスターの家臣の一人。レド。貴方が一番最初に城に来たとき、隣にいたんですよ?」
あー。そういやいたなぁ。と思いつつ、
「ああ。そういや、いましたね。」
今思い出したように答える。
「貴方もお散歩ですか?それとも見回り?」
「どうも寝付けなくてね。ちょっと気分転換をしに来た。」
「なるほど。」
「そういえば、聞きましたよ。貴方も科学者なんですよね?」
「『あなたも』ってことは、レド君も?」
「ええ。まあ、ちょっと変わった題材ですから、公表しても大して支持されないような内容ですがね。」
支持されない。という言葉が心に引っかかった。自分自身で閉ざした記憶が開きそうになった。
「そっか…」
ふと出た返事は、とても軽いものだった。
翌朝
かなり瞼が重い。やはりすぐに眠れなかった代償は大きい。
「さて、と。ノート君。」
「あぁ。…」
やはり眠い。だがラスターはお構いなしに続ける。
「ここからはもうノワールの領域だ。心の準備はしとけよ。」
「…おう。」
追憶の草原
噂の草原までやってきた。どうやら骸骨が転がっている訳ではないようだ。
遠くには黒い壁に囲まれた要塞が見える。
「あれが、ノワールだ。」
名前の通り、真っ黒だ。
ノート達は休むことなく突き進んでいく。
そこでふと気付いた。
どういう訳か敵の襲撃が一切ないのだ。隣には突き出した崖や、簡単に隠れられそうな林など、襲撃にはもってこいの場所が揃っている。そろそろどこかから不意打ちしてきてもおかしくはない頃だ。
同じ事を考えていたのだろう。レドが口を開いた。
「これって、壁の中に大量の傭兵がいるのでは?」
「そう考えるのが妥当だろうな。」
そう答えるラスターだが、一向に怯える気配は無い。
とうとう、ノワールの壁の前まで来てしまった。
「ちょっと下がってなさい。」
ラスターの手から何かが発射された。と同時に目の前の門は宙を舞った。
それこそ一瞬だったが、とてつもない衝撃が走る。
さて、中に入ったが、敵らしき影は何ひとつない。
それどころかいるはずの住人さえ見つからない。
というより自分たち以外の人間が誰一人としていない。
「…まさか、ですよね。」
レドがふとぼやいた。
「いや、どうやらその勘、当たっているらしいな。」
ラスターがそれに返答する。
「あー。なるほど、ね。」
ワンテンポ遅れてノートは理解した。
これは避難したとかそんな優しいものではない。
この国全てが敵なのだ。




