最終話 「新たな時代を」
静かに滴る雫。
視線の先の命さえ音も無しに消えていく。
「さて、レドが先に来たということは、クロブはもう来れないって事だな。」
「!!」
消えていく体。
動かない足。
脳裏に浮かぶクロブの姿が感情を奮い立てる。
「まさかクロブも……!?」
「まあ何でもいい。残ったのがお前なのは変わらない。」
男の顔は逆光で見えなかった。
ただハッキリと見えたのは、レドの体が消えていく光景だけだった。
「……全て、失ったのか。俺は。」
「あぁそうだ。大人しく現実界に引きこもっていれば良かったものを。
何も余計な感情など起こさずに済んだのに。」
「いや……違う…!」
「何が違う?お前は第三者だ。
この戦争に頭を突っ込む必要も無かった。
お前はいずれくる自分の世界の終焉を見るだけで良かったんだ。」
「………おまえは」
「?」
「さっき…痛みが分かるかとかどうとか言ってたな。」
「ああ。それが?」
…
「俺はよ。前々から独りきりだったんだ。
誰にも認識されなかった。
誰にも必要とはされなかった。
ただ
……居場所が欲しかったんだ。
それこそが、俺の痛みだ。
これがお前と同じ痛みだとは言わない。
だがその点、お前の短所が見えるんだ。
お前は…ただ他者を傷付ける事でしか自分の居場所を見出せないッ!!!!
そんなヤツが、人を指摘出来ると思うなッッ!!!!」
……
…
「……所詮死体が偉そうに。
貴様の命は、仲間を死なせた時に既に死んでいただろう?」
「死んでいたかもしれないな。
だが、まだ俺はここにいる。」
「ならやってみるがいいさ。何が出来る?
剣を振るうか?手品を披露するか?
お前はもう何も出来やしないだろう……!?」
瞬間、男は指鳴らしの構えに入る。
ノートの動体視力はまだ動けている。
彼は自分の指から指輪を抜き、それを投げつけた。
パチンと音が鳴る。
指輪が砕け散る。
するとノートは、ロクに動けもしない足で地面を蹴り上げた。
「無駄だと言っても分からないかノート!!!」
もう一度指が鳴る。
今度は片手のコアを差し出した。
瞬時に彼のコアは砕け散った。
「もう戻れないなら……残す物もあるまい…!」
高く舞い上がるノートは、力無い腕でもう一方のコアを叩き下ろす。
しかし軽々と止められる。
更に続けて指が鳴る。
止められたコアも砕け散り、その力でノートは遥か後方へと飛ばされた。
「詰みだ。」
最後の一発が城に鳴り響いた。
異音が鼓膜を突き刺す。
真っ赤に染まる視界。
ぼやける目線の先。
彼の体は二、三転げ、壁に打ち付けられた。
「…………ッ…か………」
「終わったな。ノート?」
彼は呼ばれたことすら感じてなかった。
ただここにあるのは、マッチにも満たない、小さな灯火だ。
「………はは…………ょく…きか……」
「しかし、まだ息があるとは。恐れ入った。
トドメの一発をもう一度刺しておこう。」
彼は歩いていた足をノートの数歩前で止め、もう一度手を構えた。
「…今度こそ終わりだ。ノート!!」
指に力が入る。
……
「…!?」
瞬時、彼は振り返った。
風が真横を過ぎていったようだった。
正確には風だけでない。
気配だった。
「……クロブ!!!貴様まさかいるのか!!?」
返事は来ない。
だが替わりにまた別の異音が聞こえた。
鎖……何か鉄の音だ。
「……!!!?」
彼はまた振り返る。
音の正体はそこに居た。
そこに居たのは、鎧の男だ。
「……誰だお前は…!!?」
鎧は剣を片手に、そこにいた。
次の瞬間、鎧は目にも止まらぬ速さで剣を振るった。
「ッッ!!?これはッ!?」
風圧に吹き飛ばされる男の右足には大きな傷。
先程の一撃でついた傷だ。
「ッ…コイツまさか……
ノートの守護霊!?」
吹き飛ばされながらも頭は動く。
気付けば壁はすぐそこで、ビルから飛び降りたような衝撃が全身を走った。
「………ルカス…」
「!?」
痛みを抑える男の前、鎧は既に構えている。
「な、なぜ名を…!?」
「スベテシッテイル……キサマガ、ワタシヲコロシタノダカラ……!!」
「…!」
この時男は気付く。
鎧が、剣を持っていない事に。
「な、剣が……なッ!?」
続けて視界に入ってきた光景。
遠くに見えるノートが起き上がっている。
剣を突き立て、そして立っている。
「カレハ……モウ、トオクナイ。」
「一体何を…!!?」
「…モウ……ジブんでは戦争を止められない。」
「!」
「だから、せめての事を残すのさ。
貴様を、この城に封印する。
この自分ごと…!!」
「なにィ…ッ!!?」
「お前を野放しにするよりマシさ。
そうだろ…?……ルカス…!!」
遠くの彼は剣を振りかざす。
彼の体から分離されたのは七つの光。
今にも消えそうな、弱々しい光。
「旋律……!?」
「これが旋律の…残された力だ。
これが終われば、旋律は光を失って世界に散らばる。」
振りかざした剣をもう一度突き立て、彼は言ったのだ。
「……封印。」
七つの光は最後の輝きを見せ、辺り一面を光で包んだ。
……
…
ルカスがもう一度目を開けた時、鎧は目の前から消えていた。
見えるのは遠くのノート。
いや、もうノートとは認識できない。
何の変哲も無い鎧の騎士が、そこに眠っていた。
「何処かのページに文字が刻まれたようだ。」




