第三十五話 「始まりの場所」
目の前に、ただ一枚の手紙。
恐る恐る手に取り、文章に目を通す。
ーごめんなさい。
私は貴方を裏切るつもりはなかったの。
でも
これが貴方の愛だというのなら、
私はここから離れるわ。
今までありがとう。
p.s. 子供は私が連れて行くわ。ー
短い文章だった。
だが、得た情報の量は膨大だ。
しかしこの混乱は、それによるものではないだろう。
手遅れと気付いた時には、一筋の雫が頬をつたった。
「…謝るのは、自分の方だろう……?」
届かぬ言葉だとしても、抑えきれずにはいられなかった。
「あ〜あ、だから言ったのに。『不幸になる』って。」
静寂を裂く見知った声。
背後から聞こえた。
「…どうやって…ここが分かった?」
「ベリックから聞いたのさ。ラスターを殺したってな。
その後偵察に来たんだが、そしたらお前が走ってったからよ、
ついて来たんだ。」
震える心を締めつけ、背後を確認する。
そこにいたのは、確かにガルフィスだった。
「…やっぱそうなるよな。
それで…おちょくりに来ただけか?」
「そうだなぁ、このまま闘ってもいいが…
ちょっと仕事があってな。」
「…?」
「お前が作ったポータル。その設計図を探してこいって言われたんだ。」
「!……一体、何に使う気だ?」
「それがあれば、別の仕事が捗るんだわ。というわけで、頂けない?」
「嫌なこった。」
心はもう強がる気すら起きなかった。
というより、
今あの心を振るったところで
大した力を出すことは出来ない。
だが、抗わなくてはならない気がした。
目の前の厄災を、どうにか払わなければ。
その一心で。
「…んじゃ、仕方ないな。自力で探し出して…」
「その必要はないな。」
「…というと?」
「今からポータルを破壊する。」
「ほう…それで?俺を取り残すのか?」
「お前はポータルを閉じた後で帰してやろう。」
ノートの右手に握られていたのは、小瓶だ。
「それは?」
「ちょっとした発明品さ。
この中身を浴びせた奴は、『帰るべき場所』に帰るんだ。」
「ほう、面白い。つまりそれを俺に浴びせて帰らせて、その後ポータルを閉じれば問題無いと。」
「そういうこった。」
「そんなのこっちから願い下げだね。」
玄関へ駆け出すガルフィス。
さすがに思想界の人間と張り合える体力は無い。
玄関が開かれ、数秒後にノートが出た。
あの方向は、ポータルがある研究所の方だ。
「…!させるか!!」
無意識のうちに手に取っていたコアをガルフィスへ投げつける。
「!」
体勢を崩しながらも、間一髪避けた。
「この程度!」
すると、通り過ぎたはずの風を切る音が戻って来ている。
正面から、コアが舞い戻ってきている。
「な!?」
見つめたコアは何かに弾かれた。
次に見たのはノートの方向だった。
「…分かったよ…そんなに構って欲しいんだな?」
拳銃の先はノートを向く。
遂に姿を表したガルフィスのコア。
かなり異様な形をしている。
トリガーが無い。
「そっから少しでも動いてみろ。撃つぞ。」
「脅しは効かないと前に言わなかったか…!」
半歩踏み出す右脚が紅く滲む。
立ち昇る銃口の先の煙。
銃声は聞こえていた。
だがこの奇怪な状況に、頭が動かなかった。
「…どうやって銃を撃った?」
「心で撃ったのさ。」
「それは何処ぞのサイコなガンの人が言ってそうな台詞だな。」
「なんとでも言え。トリガーを引く動作がないお陰で、前兆を消せているんだ。
これほど素晴らしい事はない。」
確かにそうだ。
ノートの動体視力なら、トリガーを引く動作を見てから動く事は可能。
しかし、その動作が消えているのだから、見るも何も無い。
「さて、どうするんだ?ノート。
お得意のヒラメキ、魅せてくれよ。」




