第三十二話 「死相」
睨み合う両者。
視覚以外の情報は全部遮断している。
僅かにクロブが動いた。
何本ものダガーが飛ぶ。
その一つ一つを銃弾で跳ね飛ばしていく。
何発もの弾が発射される。
その中で、流れ弾がベリックの右肩を貫いた。
「…ッ!」
「この程度か?」
「ナメるな。鋼雨!」
上空から黒く重たい雨が降り注ぐ。
側から見れば綺麗なのだろうが
それどころではない。
機械音が鳴り、リボルバーの弾倉が一つ回る。
「爆風マグナム!」
ダイナマイトと互角の爆音が轟き、
雨は力無く落ちていった。
「なんだ、範囲攻撃も合ったのか。」
「この銃は、何でも撃てる。」
「そりゃ面白い。」
また、ベリックの手からダガーが放たれた。
ノートは旋律を探して跳び回っていた。
「…?」
ずっと向こう、不自然に拓けた場所がある。
「あれか?」
迷っているいとまは無い。
向かう事にした。
徐々に近づくその場所
見覚えのある人影が見えた。
レドだ。
片足でブレーキを掛けながら着地した。
「レド、お目当ては見つかったか?」
返答が無い。
「レド?」
「……ない…」
「何が?」
「……旋律だ……」
「無いなら他探せば」
「そうじゃない…
……台座しかない…」
「…は?」
慌ててレドの前を覗き込む。
どうやら本当らしい。
台座しかない。
「どういう事だ、これ…。」
「…旋律について、少しだけ聞いた事がある。」
七つの旋律は、
かつて、強い精神と心を持った偉人達の魂。
それが何かしらの理由で……例えば死んだとかで
そこから動く事が出来なくなると
それが出来上がるのだとか。
「じゃあ、台座はどうしてあるんだ?」
「寧ろ、台座が無ければ旋律は出来ない。
台座が魂を吸収し、そこから作り上げられる。
それこそ誰がそこに配置したのかは分からないけれど。」
「…つまりこの場所の旋律は、
まだ出来上がっていないって事か?」
「……そういう事だ。一度魂が取り込まれているなら、すぐに作られるはずだし…
…何より、二回目の動作は有り得ない。
一度動けばいずれ消滅する。」
「なら、どうするんだ?
このままじゃ揃わないぞ?」
「……」
「んじゃあれだ。」
「?」
「レドの魂捧げてみてよ。」
「いや何言ってんすか!
そもそも相当な信念が無きゃ、門前払い食らいますよ!」
「そうか。」
「いやそうかって。」
頭を回転させていた時だった。
爆音が聞こえた。
少し離れた所の様だ。
見てみれば、何やら黒い何かが浮遊している。
「なんだあれ?」
「まさか、クロブさん!?」
「よし、とにかく行くぞ!」
爆音の震源地では、一進一退の攻防が繰り広げられていた。
チラリと銃に目を向ける。
小さなタンクの部分には、液体が半分ぐらいまで入っている。
「あと……80発は撃てるか?」
心とはつまり、感情が具現化したもの。
その感情が弱まれば、心も比例して弱まっていく。
彼の場合、感情のエネルギーを弾にして撃つ。
従って、感情が弱まれば撃つことは出来なくなる。
「随分なバテようじゃないか。」
「久し振りに…こんな動いたんだよ…。
…そりゃ…息切れぐらい起こすわ。」
「それはそれは。ならば今すぐに楽にしてあげよう。」
一本のダガーがクロブを目掛けて飛ぶ。
もう避ける気力は無い。
ふらつく体をどうにか起こし、銃を構えた。
一発放った。
しかし、弾はわずかに右を擦った。
「集中切れた…か。…こりゃ無理だ。」
「何諦めてんだクロブ!」
ギリギリで到着したのはノートだ。
無駄に太い剣身で弾き飛ばした。
「ノート…!」
「な…いつの間に!」
「お前に暇は無い!!」
無駄に細い剣身で、ベリックの背を裂いた。
「…ッ!?」
真っ逆さまに落ちていく。
「忘れたのか?敵は三人居るんだぜ?」




