第二十九話 「狂想」
「…なんで、お前がここにいるんだ?」
「なんでって言われてもなぁ。お前を討ち取るためだよ。」
ノートは疲労困憊だった。
けれども、大剣を握る以外の手段は無かった。
「…いやいや、待ってくれ。俺は敢えて話かけてるんだぜ?
その気になれば後ろから切る事も出来るんだ。」
「……」
一度構えた心を、下ろした。
「さてとだ。俺が何を言いたいのかと言うと。
俺らの仲間にならないかって事だ。」
「…またその話か?結構前に断ったはずだぞ?」
「そうだな、けれどだ。
このままこうやって物語を進めたら
いつかお前は不幸になるって話だ。」
「俺が不幸になる?」
「そうさ。不幸になるのさ。」
「お前の言葉を信じるとでも?」
「信じてくれなくともいい。ただ、これは忠告って事だ。」
「ご丁寧にどうも。
それだけなのか?今回は。」
「そうだな。んじゃ、国王にでも挨拶してくるかな。」
そう言うと、ガルフィスは闇に溶けていった。
「………なんか、常識人だったな。
いやそんな事はいい。とにかく連絡だ。」
そのまた数分後、
「連絡し終わった。さてと、見に行くとするか。」
初めて活用したスマホをポッケに仕舞い、
火山内部へと進む。
ノートの顔は真っ赤に染まった。
マグマ溜りが異常な程の熱を発していた。
「これは、ヤバそうだな。」
とは言えゲームの様に、乗ってくださいと言わんばかりの岩など無い。
足元の大地に目をやる。
ゆっくりと奥の大地に目線を移動させる。
およそ500m。
「行けるか?
いや、行くしかない。」
大剣を上へと掲げた。
そして振り下ろした。
溶岩に亀裂が入る。
退いた溶岩によって出た窪みに足をかけ、
ほぼ地面と水平に飛び込んだ。
数秒後には、軽々と地に足がついていた。
「生き埋めは嫌だからな。加減が難しい。」
一息ついた時だった。
洞窟に、人口音が鳴り響いた。
「もしもし?」
『あとどれくらいかかるんだノート!?』
「多分もうちょいだ。」
『急いでくれよ?ヤツを退けるのは容易じゃない。」
急ぎの電話は、すぐに途絶えた。
「…そういや、帰りもこれやるのか?」
ノートは、何も考えないことにした。
火山中枢部
そこには、火山より赤く輝く光があった。
見慣れた台座と譜面だった。
最早、次にノートが何をするかなど言うまでもない。
赤い光はノートを包んだ。
彼にとって、これまでで、一番生命力を感じた瞬間だったのかもしれない。
静けさなどない。
ある種、人間の本来の姿だろうか。
怒りか。
しかしそれは、少し的を外している。
ノートは、その旋律をしっかりと刻んだ。
言葉の通用しない、それを。
「第一楽章、『狂想曲 カプリチオ』。
さて、味わってる暇は無いな。早く行かなければ。」
喚く携帯を無視して、火山の一部を吹き飛ばし大穴を開けた。
外に出るなり、一足飛びにラスターの元へ向かい始めた。
とある火山の山頂
急ぎに急ぎ、ノートは一行に合流した。
もはや、息ができない。
「遅かったじゃないかノート。」
何も無かったかの様に平然とした三人がいた。
「…もしかして…もう終わった…感じか?」
「違う違う。」
「?…」
「アイツ、本当に国王に挨拶して帰ったんだよ。」
…?
「じゃあ……全く戦闘にもならず?」
「そういうことです。」
「あ…あ、そう。」
「ていうか、急がなくてもいいって電話したのに、出なかったんじゃないですか。」
さっきの電話は、これの事だったらしい。
あの男は、本当に狂っている様だ。
これほど急いだ事さえ馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「争わないなんて、実に良い事じゃないか。」
「…まぁな…。」
「さ、残りは一つだ。」
こんなに早くていいのかな?




