第二十四話 「前進」
「なんだあの数!?」
「まあ、クロブ一人じゃキツかったろうな。」
「おい、どういう意味だそれ?」
「……そういや、アイツら前のやつらと形が違うような…?」
「無視か!?」
ノートが勘付いた通り、確かに形状が違っていた。
だが、それが何を意味しているかまでは分からなかった。
「長旅ご苦労だったね。」
声は背後から聞こえた。
全員一目散に振り返る。
「何者だ?」
「影と名乗ればいいか?」
「んじゃついでに名前も聞いとくわ。」
「名前か。ベリック・エルドレッド。」
「濁点ばっかだな。」
「近頃私もそう思う。だが、名付けられてしまったのだから仕方あるまい?」
「『しまった』、ね。」
「それで、俺らは今から喧嘩しなきゃ行けないのか?」
「そういう事だ。まあ、
ただのイジメになるかもな。」
「自信たっぷりだねえ。俺らへの対策しっかりしてるの?」
「情報はいくらでも流れてくる。」
「そっか。」
戦いの一手を出したのはノートだった。
足元から斬りかかるも、完全に受け止められている。
「その程度か?」
「この程度だ。」
「ならば私が派遣される筈も無いだろう!」
大剣を押しのけたベリックという男は、
懐から心を取り出した。
形状が変化する。
かと思うと、いきなり分裂し始めた。
見とれていると、それはダガーになっていた。
「そういう心もあるのか。」
「心は、その人間の感情を表す。余程殺意に溢れてるのかもな。」
そして、斬りかかってきた。
片手だけで三本のダガーを持っている。
いつぞやの龍の鉤爪を彷彿とさせる。
しかし、ワンパターンだ。
右手に持った大剣がベリックの体を裂いていた。
常人では、立てないほどの深傷が残る。
「…中々、いい切れ味だな。」
『常人では』だ。
平然とそこに立っていた。
「なんだ?影には変態しか居ないのか?」
「それはガルフィスだけだ。それ以外は常人だ。」
ふと思う。
組織としても自覚あったのか。
と。
「まあいいや、とりあえずコレじゃ不満なんだな?」
「そうだな。本当の傷はこういうのさ。」
左手から二本のダガーが上空を飛んだ。
右から一本移し変え、突っ込んでくる。
「ノート、下がって!」
ダガーを捌くには、大剣は適さないという判断だったのだろう。
予想通り舞う様に捌いていく。
中世の騎士さながらの剣術だ。
「…!」
レドの頭上で何かが輝いた。
と同時に、ベリックが後方に跳ね上がった。
宙に向け、弾を放つ。
「間に合え!」
数秒後、金属のぶつかり合う音が響いた。
「ほう、いい腕だな。」
何かが地へ突き刺さった。
それはダガーだった。
先程投げたダガーだった。
「投げた物が何処に落ちてくるかまで計算してたのか。」
「そういうことだ。」
レドの肩に手を当て、ノートは前へと歩く。
「お前は相当ヤバい奴なんだな。」
「肯定する気は無いが、言っておこう。
既にどうやって決着をつけるかの算段はついている。」
「怖いなぁ。」
「その恐怖心が命取りだと分からなかったのか?」
両手から一本ずつ放たれた短剣は
ノートを擦り飛んでいく。
すかさず突進してきた。
しかしそこにベリックはいなかった。
「遅い。」
真上だ。
「ノート!」
赤に染まったダガーは地に着いていた。
「お前は、上空からの対処が著しく下手だ。
そこを突いただけだ。」
ノートは膝をついた。
そのまま倒れた。
その姿が一瞬揺らいだ。
「?」
「そこまで読むのか、お前。」
後方からノートが歩いてきた。
レドの肩に手を当て、ノートは前に進む。
「な!?」
「俺がそう簡単にやられると思うなって事だ。」
またその幻影は揺らいだ。
次の時に、ノートはベリックの背後を取っていた。
「これが、『輪廻』だ。」




