第二話 「心」
「ここで生きるなんて、現実界で生きるより簡単なことです。」
しばらく沈黙が起きた。少しの間、時間が止まったように。
その時だった。
突然扉が大きな音を立て、開いた。
「大変です!町にノワール軍が!」
その家臣の息は荒かった。恐らく、町から全速力で走ってきたのだろう。
王と旅人はすぐに状況を理解した。すると、王は不敵な笑みを浮かべる。
「わかった。じゃあ、旅人君。」
「?」
「君がその騒動を抑えてみろ。君の力試しだ。」
目の前の男が何を言っているかわからず、一瞬、言葉に詰まる。だが、返答はすぐさま思い浮かんだ。
「わかりました。」
なんとも単純な言葉だったが、力強くもあった。
「大丈夫なんですか?一人でいかせて。」
家臣の一人が、不安そうに問いかける。
だが王様は、何食わぬ顔で答える。
「大丈夫だろう。なんせ、あれほど自信気に答えたんだ。神器の一つぐらい磨いてあるんだろう。」
「は、はぁ…」
町 セントラルストリートにて
「野郎どもーッ!端から端まで平地にしてしまえーッ!」
どこを見ても黒服の騎士達が暴れていた。
悲鳴、怒声、倒壊音、
聞ききれない音と混ざり合う赤の飛沫、その光景の一番奥にひときわ目立った人物がいる。
一目でこの軍のリーダーと分かるがたいの良さだった。
彼は相当浮かれていたのだろう。満足げにこの惨劇を眺めていた時だった。
「団長…!」
「一体なんd…なんだその傷は!?」
町 ノースエリアにて
挑戦者はセントラルストリート目前まで来ていた。
片手には、剣…というよりもはや斧のような武器を手に走っていた。
この世には三種の神器と呼ばれる武力がある。
「心」「守護者」「能力」
先ほどの武器というのが、その「心」である。
人の感情を具現化させ、武器にしたものがこれであり、その感情によっても形状は異なる。
形状どころか、力も異なる。
次々と去り際に騎士達を切り去っていく。
走った跡は台風が去ったかのように沈黙していた。
火花を散らしながら駆けていく。
よそ見もせず駆けていく。
勇敢な者は、その勇者にとびかかっていく。もはや、どちらが挑戦者なのだろうか。
「悪いね、でも、原因作ったのはそっちだよ。」
屍達に語り掛けるように呟いた。
町 セントラルストリートにて
徐々におかしな雰囲気になってきていることに彼らは気付いていた。
遠くからの悲鳴が聞こえないのだ。
「一体何をされたか分かりません…、僕は命からがら最短ルートでここまで来たんですが
他の人たちは…。」
「…」
ここまで戸惑うのも無理はないだろう、相手は何の情報もない相手なのだから。
そうこうしている内に、なにか黒い影が近くに来たのを感じた。
勇者である。
「…お前、派手にやってくれたようじゃねぇか。」
「まあ、ね。」
勇者は平然とそこに立っていた。何食わぬ顔をしていた。
みるみる内に、大柄男の顔に怒りが現れてくる。
「テメェ、よくも!」
あまりに大きな斧が宙を裂いた。まともに食らったら骨折の騒ぎではない。
まれに聞く空気を裂く音。
瞬間、砂ぼこりが男達の影を覆った。
だんだんと砂ぼこりが晴れていく。
そこには一人の影があった。




