第十九話 「推理」
「もう終わりか?」
ガルフィスと名乗るその男は、悠々とそこに立っていた。
「どうすんだ?弾丸は幾らでも撃てるが、まず当たりはしない。」
「…狙ったはずの弾が検討外れの方向に飛んでいく,か。」
飛んで行く弾丸
近付いた途端、
何かに弾かれたように飛んでいく。
「…クロブ、二発撃て。同じ所にだ。」
「いいが、弾かれるぞ?」
「構わない。」
海に乾いた銃声が二度響いた。
風を裂き、ガルフィス目掛け飛んでいく。
「血迷ったのかい?」
予想通り弾は当たらなかった。
二発共予測出来ない方向へ弾かれた。
「やはり、そういう事か。」
「『やはり』って、分かったんですか?」
「ああ、検討は付いている。」
「じゃあ、どうしたらいいんだ?」
「なぁにコソコソ話してるんだ?
今ので終わりか?」
それまで逆光で見えなかった顔がちらりと見えた。
ノートの表情からは焦りが消えていた。
ニヤリと笑ってみせた。
それは悪魔の笑みそのものだった。
日差しが強い。
波の音は、いつの間にか消えていた。
そこで聞こえたのは、砂の音だった。
ガルフィスの視界を覆っていたのは砂だった。
聞こえていたのだろうか。
一筋の、耳を刺すような銃声が。
数分前…
「恐らくヤツの能力は、
見た物の力の向きを変化させる能力だ。」
「なぜそう言える?」
第一に目線が弾を向いていた。
一度目はただ弾を見ているだけかと思っていたがな。
第二に弾が弾かれる向きだ。
これだけ撃ってるのに当たらないのはおかしいから弾かれた後の軌道にも注意していた。
だが、そこに規則性は無かった。
更に弾は一瞬で向きを変えていた。
そこから、何かに弾かれたものではなと分かった。
この二つから察するに、
ヤツは見て認識した物に限って、力の向きを変えられると、そう考えられる。
「じゃあ、仮にその説が正しいとして、何か対策はあるんですか?」
「あるさ。
まずはレドが砂で相手の視界を遮る。
そこにクロブが銃弾を撃ち込む。
それだけだ。」
「そんな単純に行くのか?」
「時に、最善策はもっとも単純な方法なんだ。」
現在
「死角から、弾丸…?!」
「砂で覆ったのは二つ理由がある。
一つは視界不良だが、
もう一つは、
弾かせない為だ。
これだけは賭けだが、ヤツは同時に複数の物体へ能力は使えない、そう考えた。
予想が当たってるとしたら、狙った方向に力を変化できないあたり、まだ未熟な筈だ。」
「ノート…お前中々凄え考察力だな。」
「人狼が大好きでね。友人は誰も俺と人狼をやろうとしない。」
彼の予想は大当たりだった。
彼は動体視力こそ超人だが、まとめて能力を使う事は出来なかった。
それはつまり、
砂に邪魔されて弾丸を弾くことができない事を意味していた。
次第に視界が晴れていく。
丁度そこには、この世で最も見た目の悪いであろう赤薔薇が咲いていた。
見事に右腹を貫いていた。
「…ハァ、やってくれるじゃないか…。
ここじゃ君らとは戦えないな…。
……出直すとしよう…!」
彼の身体は闇に包まれた。
そして、溶けるように消えていった。
取り残された獣達は、あたふたしている。
「レド。いつもの頼むわ。」
「了解。」
海には無残に焼かれた死体が転がっていた。
焦げた匂いと異臭が立ち込め、
誰も寄り付きはしなかった。
死体の半数は消えて、居なくなっていた言う。




