第十六話 「躊躇」
地を思い切り蹴る。
もはや地を抉るぐらいの力だった。
銃を使う人にとって、接近戦ほど厳しい戦いは無い。
もちろんそんな事は両者とも分かっていた。
「近付かせたら負けだな。」
不規則に銃弾を飛ばす。
並の銃でこの速度は出せないだろう。
ノートも器用に躱していく。
こちらも並の動体視力ではこなせない技だろう。
次の弾丸を躱した時だった。
右肩に痛みがあった。
どういう訳か、あり得ない方向から弾丸が飛んできたのだ。
「ッぐ…!?」
続いて左足にも命中した。
「まさか…跳弾か?」
ふと、先程の言葉が頭を過る。
『王宮にいる人間の顔を全員知っている』
王宮には、何千人と人がいるのだ。
仮にこれが本当なら、相当の頭の持ち主だ。
もし全て計算済みだとしたなら?
思わずゾッとした。
同時に何発もの弾を当てる事も出来るだろう。
「殺られる前に殺る!」
剣を腰に戻す様に当てる。
「居合斬『死の詩』!」
「遅い。」
銃弾を一発放った。
「遅いのはどっちかな?」
「何?」
ふと瞬きをした時、目の前にノートは居なかった。
敵に背を向け歩いていた。
「な…!」
気付いた時には、腹に大きな傷が付けられていた。
白のシャツが紅く染まっている。
「心配すんな。浅目に斬った。」
「なんで盗賊に手加減されなk」
「クロブさん!」
「彼は、つい最近来た旅人なんです!
その腕を見込まれて任務を受けたんです!」
「…なんだ、そういう事か。」
「まあ確かに本当の悪なら、さっきの一撃だって致命傷になってたはずだからな…」
「分かったよ。疑って悪かった。」
「んじゃ、貰っていいか?さっさと家に帰りたいんだ。」
「それは構わんが…」
クロブの表情が曇る。
「もう、敵に囲まれてるぞ?」
「敵?」
「魔獣さ。今まで見たこと無いやつが最近になってウロウロしてるんだ。」
そういえば、確かに何か聞こえる。
呻き声だろうか。
水滴の滴る様な音が次第に近付いてくる。
それと共に葉の擦れる音も近付いてくる。
「ゥウ…ァ…。」
「だから言ったんだよ行きたくないって。」
四方八方、魔獣しか見えなくなった。
「…!こいつら…!」
ノートはすぐに気付いた。
この魔獣達は、さっき街で闘った奴らとよく似ていたのだ。
その図体のデカさからはどこか悲哀を感じさせる。
なぜか呻き声さえ泣き声に聞こえる。
ただ気味が悪いの一言に尽きるだろう。
「なあレド?お得意の四大元素で何とかしてくれない?」
「あぁ。風と炎で十分だ。」
右手の細身の剣を、左腹まで持ってくる。
そして、思い切り振りかざした。
「獄炎台風!」
次々と魔獣達を呑み込んでいく火柱。
ノートとクロブはどうにか逃げ切れた。
「やっぱやりすぎじゃねえか。」
森林の火災が収まった頃、そこには大量の死体が転がっていた。




