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「いつまでその無様な格好を晒している。」
開け放たれたバルコニーへの扉の前に浮遊する目玉を連れて現れたのは黒い軍服を着た人物だった。
「(ひょへぇぇぇぇぇえ)」
「まぁまぁ、リー様落ち着いてくだされ。朱雀はもう十分反省しております。」
白虎がリー様と朱雀の間に入り、これ以上バルコニーに水溜りができないようにリー様を止めた。
白虎の言葉に朱雀は密かに涙をこぼした。
「(助けてくれる人がいる…!)」
「ふん。」
そう言いながらも冷たい目は朱雀を貫いている。朱雀のライフは0を通り越してマイナスへと突き進んでいる。そんなことはお構い無しに肌寒さを心配してかリー様は腕にあった薄桃色の羽衣を主の肩にかけた。主はリー様の周りを浮遊している目玉に腕を伸ばした。躊躇いもなく目玉は主の腕の中に収まった。
もふもふもふと戯れる主に柔らかな眼差しを向けた後リー様は改めて朱雀と向き合った。
「だいたい何が、マイ、プリティ、ホ・ウ・オ・ウなんだよ。お前が鳳凰に指示を出さなかったから大変なことになっているんだぞ。」
「大変なこと?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないぞ。」
「聞く、聞いてない、以前に朱雀と鳳凰に主からの直の命令、忘れたと言うつもりか?」
「…………。」
「それはいかんな。」
「論、外。」
「そんな目をしてこっちを見るな!!」
喚き出す朱雀に氷の様に鋭く尖った視線が4つ刺さる。
「なんなんだよ!忘れたもんはしょーがねーだろ!!教えてくれよ!」
「あ゛ぁ?」
「教えて下さい。」
腰から90度の綺麗な礼。
「主からお前への命令は、新しい4塔の管理人の魂をあるべき所に届けることだっただろ。」
「ところが貴方は途中で『いい感じの野原みーっけ!』なんて言って眠りだしたんです。」
「お前の部下である鳳凰はどうすればいいのか慌てた。しかしお前はいつまでたっても起きない。」
「鳳凰は朱雀が、怒られないように、頑張った。でも、焦り過ぎて、現世に、落としちゃった。」
「「「「魂を。」」」」
上からリー、青龍、白虎、玄武。丁寧な説明ありがとう。そしてごめんなさい。だんだんとその時の記憶が戻ってきたよ。お帰り。
「………。」
「主に感謝しろ。お前の失敗の尻拭いは主がしたのだから。現世とこちらは時間の流れが違うのはお前も知っているはずだ。その時間の流れを合わせるためにどれだけの魔力が必要になるかも知っているだろ。」
「それなのに貴方は呑気に自分の領地に戻りやがりましたよね。しかもまた昼寝、どうすればそんなことになるのか教えてほしいものですね。」
「返す言葉もございません。」
「とにかく、主が対応してくださったからどうにかなったが、これからどうするのだ?」
「主、思うこと、ある。」
「主、ご命令を。」
夜闇が深くなるにつれ猫月が優しく怪しく光だす。精霊達の歌声が響く中、優雅にシャボン玉と目玉のもふもふで遊んでいた主の口元が楽しそうに歪んだ。鈴の音よりも澄んだ音で主は命じた。こうべを垂れ跪き、主から与えられる自分たちへの命に胸を高まらせた4つの影。
「了解。」
「わかりました。」
「主のままに。」
「今度はお任せ下さい。」
けっけっけっけっ。
不気味な笑い声が主の腕の中の目玉から漏れた。と、同時に消え失せた4つの気配。
「さっ、お部屋にお戻りください。風邪を引きますよ。」
リー様に手を引かれながらバルコニーを後にする主。白いカーテンで閉ざされた外への扉と猫月の月光に想いを馳せながらまだ見ぬ未来を待ちわびる。
18年後にまたお会いしましょう。
きっと楽しい楽しい時間が始まります。




