3
昨日の夜の激しさはケロリと忘れた顔でひたすらカラカラと揺られる丹と蘭。明日には王都に着くと告げられほっと息をつく蘭に丹は笑った。
「呑気に笑っているのも今の内ですよ。丹、貴方は塔にいなかったから遅れそうになったらというのがあります。泣く子も黙るほどの説教は覚悟しといたほうがいいですよ。」
静かに告げられた地獄のような宣言にやだやだと顔に手を当てながらだんだん血の気を失う丹に今度は蘭が笑う番だった。恐怖へのカウントダウンは残り1日を切っていた。
「いやだぁーー!!!!」
あぁ、なんと無情なこの世の中よ…。止まれ、止まれと祈っても祈っても時間は進んでいく。しかも王都に近づくにつれて時計の針がスピードを上げていく。止めることのできない時間。昨日まで元気だった胃が今はキリキリと痛む。これがどこかの姫のごとくリンゴの毒に当たったのならまだ笑えたのに笑えない。助けを求めようとも蘭はそっぽを向いてルンルンだ。人の不幸は蜜の味ってやつか、どす黒いなお前の腹は。こうなれば言い訳を!悶々と考えているが足りない頭では出てこない。そうこうしているうちに天使と悪魔の像に迎えられ王都への門をくぐっていった。あの悪魔の顔が丹を馬鹿にしたような顔で見下ろしているように感じるのは何故だろう…。
「ありがとうございました。」
「世話になった。あと、リンゴ美味しかった。ありがとう。」
農家の人たちにお礼を言ってから城下を歩き出そうとしたが蘭がちょっと待っといてくださいっと言って服屋に入っていった。何してんだ?と思いながらも蘭を待つ。しばらくすると蘭が長い布を持って出てきた。
「蘭?」
何も言わずに差し出された布にちんぷんかんぷんでなんだと聞いた。
「貴方は自分の格好を少しは気にした方がいいです。出発前にはあんなに気にしていたのに、2日経てば忘れるとは本当にとり頭ですね〜。」
嫌味が返ってきた。確かに出発前は気にしていた服装で宮廷に行こうとしていた。危うく恥をかくところだった。ムッとしながらもお礼を言って布を羽織った。簡易ではあるが汚れている服よりはマシになった。
「じゃあ、行きますよ。」
「おうよ。」
羽織った紫色の布が翻った。マントのようにひらひらする裾に違和感を感じる。早足に歩く蘭に置いて行かれないように賑わう城下街を目で楽しみながらも真っ直ぐに進む。途中で美味しそうな食べ物もあったが蘭の無言の圧に負けた。蘭との会話の大半は嫌味だが、ほんの少しの世間話に花を咲かせた。
そんな2人を上空からじっと見つめる目玉が一つ。目玉はぎょろりと回転し宮廷の方角に飛んで行ってしまった。




