四人寄ればなんとやら
豊かな緑に囲まれた野原に吹く穏やかな風が赤銅色の髪を揺らした。柔らかい草を敷き布団、腕を枕に、そして暖かな日差しを布団に赤銅色の彼はすやすやと寝息をたてていた。そこに青い影がゆらりとかかった。
「さっさと起きなさい!このぐうたら雀が!!」
穏やかな昼下がりには似つかない少し高めな怒鳴り声。そんな怒鳴り声に木々で羽休めをしていた鳥たちは一斉に飛び立った。雲ひとつない青空キャンパスに散った白は何処かの絵画のように美しい景色、には目もくれず怒髪が天を衝くほどの怒りの表情を浮かべている影。
「う〜、」
に意味を持たない奇声を返した彼はまた眠りの国へと帰っていく。
「このっ!さっさと起きろって言ってるんです!!!」
さきほどの怒鳴り声と共に足を振り上げ赤銅色の頭に容赦ない蹴りをお見舞いした。綺麗に決まった頭への攻撃は現実世界への強引なお誘いだった。
「いっ…た。」
ギロリと目を覚ました赤銅の彼が青い影に視線を向ける。不機嫌丸出し。隠しもしない軽い殺気は寝起きの悪さをうかがわせる。
「いったい何の用なんだよ。人の昼寝を邪魔しやがって、このヒステリック野郎が」
ガシガシと頭をかきながら起き上がった赤銅の彼は低い声で唸った。
「召集がかかりました。」
低い声に怯えることもなく先ほどの怒鳴り声ではなく落ち着いた、そして少し硬い口調でそう告げた。内容はこの、のどかな風景には合致しない重大なものだった。というかそうでなければ普段は風雅の君とも呼ばれている彼が怒鳴る、なんてはしたない事はしないのである。
「召集だって⁉︎いつ‼︎」
慌て出した赤銅の彼に
「3日後です。」
無慈悲にも時間は待ってくれていなかった。
「なんでもっと早く教えてくれなかったんだ!!」
3日後だって⁉︎こんなボサボサの髪の毛、所々に破れたり汚れがある服、靴だってもう穴があきそうだ…。こんな姿じゃ召集場所に行けるわけがない!こんちくしょう!
「あなたがこんな田舎にいると思ってなかったんですよ。だいたい4塔には通知が来ていました。塔に居なかった貴方が悪いです。」
痛いところを突かれた。仕方ないのだ。彼の性格上、一つのところに長くいることが出来ない。しかし塔から離れているとはいえこの地域に留まっていたのは奇跡に近い。そこは褒められるところである。
「田舎って言うなっ!豊かな自然に囲まれた伝統文化を重んじている地域って言ってくれ!あぁ!畜生!なんだって塔なんかに…。」
「それが貴方の仕事場だからですよ。」
なんて冷静な返なんだ…。慰めろよ。なんて思ったりもした。だけどそんなこと言ったって状況は変わらない。行動するのみ。
「おい、蘭どーすんだよ。こんなところにいたらお前まで遅れるぞ。」
「貴方が塔に居なかったので私がわざわざ呼びに来たんです。感謝しなさい。本来なら置いていこうと思っていたのに……任されたんですよ。さぁ、行きますよ。」
相変わらずの上から目線は腹立たしいが優雅な振る舞いはそれを感じさせない。ただし長い付き合いである赤銅の彼にはそれが効かない。いっそのこと効いてくれていたらこんなに苛立つ気持ちを抑えられたのかもしれないのに。
「行くって、どーやって?」
「頼むんです。あそこにいる農家の方に。あれはおそらく王都まで野菜を売りに行く所でしょう。なら乗らせてもらいましょう。なるべく目立つ事は避けたいので。」
「なるほどな。」
「さっ、」
「んっ?」
「なにぼーっとしてるんですか、早く行って王都まで乗せて欲しいって頼んできてください。」
「はぁ?なんで俺が⁉︎」
言ってからしまったっと思った。長年の口の悪さはどんな時でも治らない。恐る恐る蘭の顔を見上げると笑っていない瞳とかち合った。途端にこの暖かな日差しでは考えられないほどの尋常な寒さが身体を走った。本能がこれはやばいと警告音をひたすら鳴らしている。
「貴方が、丹、貴様が迷惑かけてるからだ。行け。」
おまっ、何処から声出してんだよ!行けって逝けって事なのか⁉︎思わず声に出そうになった悲鳴じみた声を押しとどめて強張る身体を叱咤し今世紀最大にもう首がもげるのではないかというぐらい縦に振った。