ハム。ハンバーグ。みそ。しょうゆ。
とある小学校の校庭、一周二百メートルのグラウンドの中心に五人の少年の姿があった。
「ハム」
「ハンバーグ」
「みそ」
「しょうゆ」
「……」
「「「「我ら、五人そろって――」」」」
「――まてまてまてまてまてぇい!」
その中で一番身長の小さい少年が声を荒らげる。
「おい、ノリ! ノリが悪いぞ。そんなだからいつまでたってもお前はノリなんだぞ」
一番太っている少年が呆れた声を出す。「ハンバーグ」と言った子だ。
「知らねぇよ! ノリは名前だから。死ぬまでノリだから!!」
「そんなことを言っていたら、いつまでたってもノリでやんすよ」
そう言ったのは痩せて身長の高い少年。「しょうゆ」と言った子だ。
「だっぁああ! 名前がノリなんだから、いつまでたってもノリに決まってんだろォ!」
「やれやれでござるな」
二人に同調するように口をはさんだのは二番目に身長の低い少年。「みそ」と言った子だ。
「一理ある」
さらに畳みかけるように言ったのはメガネをかけた少年。「ハム」と言った子だ。
「大体何なんだよ、ハムハンバーグ味噌醤油って。意味わかんねぇよ! なんかの料理を想像しろってのか!? んなもん聞いたことねぇよ!」
「一理ある」
「うるせぇよ! お前が最初にハムって言ったからこんな変な流れになったんじゃねぇか!」
「……一理ある」
「ま、食べ物つながりだったし、ちょうどいいからノリは海苔ですぞ」
「やめろぉ! 最後に包み込めってか!? 海苔で巻けば美味しくなるってか?」
…………。
「うわぁ、なんかいいこと言った気分になってやがるでやんすね」
「ちょ、ちげぇよ! やめろよ。俺が滑ったみたいな空気にすんのやめろォ!」
ノリは赤面しつつ大声をあげる。
「だ、だいたいお前ら、俺があそこで止めなかったら四人でダダ滑りだったぞ。俺は恩人だろ?」
「一理――」
「――寒いギャグ、皆で滑れば、怖くない、でござる」
「一理ある」
ノリはメガネをかけた少年を指さして言う。
「お前はなんなんだ。さっきから『一理ある』『一理ある』って。手のひら返しすぎだろ! お前の手はドリルでできてんのかァ!?」
「ふっ、一理ある」
「ドリルじゃねぇじゃんかよォオオ!」
「ノリったら、手のひらドリルなんて、覚えた言葉すーぐ使うんでやんすから。吾輩、恥ずかしいでやんす」
「知るかァア! お前は俺のかーちゃんか!」
「……またネタのパクリでござる」
「お前らが狙ったように使い時を作ってるんだろがァ!」
「おいらたちにそんな高等な話術は無理なんだぞ」
「一理ある」
「ここで問題でやんす。メガネは今日何回『一理ある』と言ったでやんすか?」
「どうでもいいから!!」
「正解は……神様だけが知っているでやんす」
「一理ある」
「知らねぇのかよ! 問題にすんじゃねぇよ!」
「どうでもいいと言いつつ、律儀に突っ込むノリ、嫌いじゃないでござる」
「男に言われてもうれしくねぇよ!」
「なんだかんだ言ってノリはノリがいいんだぞ。そんなだからいつまでたってもお前はノリなんだぞ」
「ぅぉおい! さっきと言ったこと逆になってんぞォ!」
「そこはさっきと同じく、『死ぬまでノリだから』って言うところでやんす」
「お前の願望とか知らねぇよ!」
「やれやれでござる」
「一理ある」
「うがぁああ――ゲホッゴホッゴホッ!」
「ノリ? おい、ノリ! 死んではいかんでやんす」
「しなね――ゲェッホ、ゴホッゲヘッ」
「一理ある」
こうしてノリは保健室に連れていかれましたとさ、めでたしめでたし。
ちょっと生きてるのが不思議