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放置していた方もまた更新していきたいです。
安請け合いしてしまった、はじめてのおつかいin魔界。
二歳の息子にさせることじゃなくね?涙腺がゆるゆるである、ついでに膀胱も。
精神安定剤と口寂しさに愛用のおしゃぶりをちゅぱちゅぱさせながら、親父特製のあらゆるものを弾く防御魔法と特殊な結界が張られている三輪車にまたがり家を出て早数分。
科学社会もびっくりなほどのナビゲーションマップをハンドルに、後ろの籠には念の為と用意された俺のおやつとオムツと、本来の目的である”魔王への夕飯の招待状”が仕込まれている。
≪クラリス様、次の角を左に曲がってください≫
事務的ではあるがおしゃべりをしてくれるので、思ったより安心感がある。
「ん!」
≪曲がるとすぐに穴がありますので≫
言われた通りにカーブをし、前方に穴を見つける。
いや、穴というより沼だ。黒くて底の見えない……怖すぎる。
≪落ちてください≫
「もっとはあくゆってええええええええええええええ!!!!!」
落ち、ぐらいで三輪車と共に俺の身体は沼の中へと消えた。
恐怖と裏腹に、この高性能な三輪車はふわんとゆっくりゆっくり速度を抑えて底へと降りた。
さすが親父が念入りに付与してくれたお陰だ。
「とーた、えらい。しゅごい。よいこ」
俺にもあれぐらいの魔法とか出来るのかな?出来たらいいな~と再び三輪車を漕ぐ。
沼の底は思ったより明るい。
「ここ、まかい?じーじいる?」
≪魔界で間違いございません。現在地はラフゼンバルク魔国、魔王城下エフィスの街でございます。魔王ヴァララディアン陛下は魔王城にてクラリス様をお待ちしていると伺っております≫
相変わらず長い国の名前だし、口に出したら間違いなく舌嚙むやつだ。
城門らしき場所には、屈強な一つ目の巨人がどでかい棍棒を持って立っている。
俺は殺されるかもしれん。はじめてのおつかいで死にたくありません。
怖い。怖すぎるので涙をこらえて、おしゃぶりちゅぱちゅぱする。
「…………」
明らかに俺を見ているはずなのに、明らかに目が合っているはずなのに、俺が通る道の横で正座している。……逆に怖い。
「……、とーってもいーの?」
ぎゅるんと大きな目が俺を捉える。一つ目の魔人・キュクロプスだと思う。
正直めちゃくちゃ怖いしめちゃくちゃおしっこ漏れてる。どこかでオムツを変えるべきだけど、今はそれどころではない。
ちゅぱちゅぱする回数が緊張で増えていく。一つ目はなにも言わないまま、棍棒を持っていない手を出した。ああ。俺の人生はここで終わりか?
と、思ったらその手は一つ目の顎の下へ。そのまま首を傾げ「はにゃ?」と漏らした。
「おめ、ちっこいべ。どっからきなさったべか?まいごか?ちっこがもれとるぞ」
俺が「はにゃ?」って言いたいわ!!なんなんすか、おっさん!!
あと俺のちっこはいつも漏れてんの!!!
「ちっこいべ、オムツ持ってっか?ここで変えてってもよかよ。おいが手伝ってやろか?」
見た目に反して優しいな。田舎の近所のおじさんぐらいの距離感だ。
「ん!おむちゅかえゆ!!じーじにあうまえにおやちゅもたべゆ!!」
ええい、もうこうなったら俺はおニューのオムツに変身して、腹ごしらえにおやつを食べるんだ。ここからはきっと長い道のり、じゃないことを祈るけどイレギュラーが起きてもいいように食べとこう。
「そーか、えれえぞちっこいべ!ほんならおいが壁つくっておっからの、ささっときがえっぺ!」
にこにこと笑って巨体で壁になってくれてる間にささっと、いや傍から見たらめちゃくちゃノロノロしてるけどどうにかこうにかしてオムツを変えた。
「おいたん、おむちゅポイしてー」
「ぽいかあ?ほなら、この穴に捨てるがええでー」
また現れる沼。言われた通りにぽいっとした途端マグマが噴きあがり俺の前髪を焦がす勢いだった。
難を逃れたのは親父の結界のお陰である。
しかし魔界よ、どえれーとこだなおい。俺の涙はマグマで蒸発しました。