閑話◆暴走ジジイ
おつかい編が始まる前に。
「ドアーッハッハッハッハ!!やはり上空は気分が良いなあ」
バカでかい声を目覚ましに、俺は強制的に起こされた。何時だと思ってんだ。こちとら赤ん坊だぞこのじじいめ……まだ眠い、寝かせてくれと開けた瞼を閉じたかった。
でもそこはいつもの愛用マイベッドではない。俺の生家が豆粒のような高さにいるではないか。抱かれているとはいえこの高さ。―――赤ん坊つれて飛ぶ高さじゃねえぞじじい!!
【ッみゅみッ】
あまりの絶頂に泣き声が引っ込んでしまったじゃないか。これじゃあ助けを呼べない!!
「クラリスどうした?泣きべそかきそうな顔をしおって」
「おーよちよちよち」などと抜かすじじいの指を思いっきり噛んだところでダメージはない。
「今日はじーじがクラリスの翼を動かす訓練をしよう。お前も早く兄のように飛びたいだろうと思ってな。二足歩行など面倒じゃろ?」
面倒じゃねえよ!俺は二足歩行で歩きたいの!!
えっちらおっちら毎日練習してる気持ちを踏みにじりおってこのおおお!!
あぐあぐと指を連続で噛めば噛むほどじじいが喜ぶ。マゾかてめえは。
「よいか、クラリス。龍人は人の姿も象れるがそんなものは役に立たん!やはり龍として産まれたならば飛ばなきゃ意味はないのじゃ。……そして龍人は、子を空から落とすのもまた通過儀礼じゃ」
んん?ん?ん?今!聞いちゃいけないもん聞いたよな!?
え?子を空から落とす通過儀礼?おい、赤ん坊になにしようとしてんだよ!?―――殺す気か!!!
【みゅ、みゅああああ〜〜】
ヒッ、え、なに、その持ち方おかしいだろ?
俺は猫の子じゃねえんだよ!!うなじ摘むの止めてもらいま!す!か!?
ぶらんと首から下が風で揺れる。鳥肌がぶわわっと立った。
「そうじゃろそうじゃろ、クラリスも楽しみじゃろ〜〜」
おい!俺のこの溢れた涙を見ろ!!
大洪水のオムツから溢れたシッコが流れていく現実を見てくれ!!!
地上のみなさん、シッコの雨を垂れ流してごめんなさい。すべての現況は武者震いだと信じて疑わないこの愚かなじじいです!なにかあったらこの空気読めない脳筋じじいへお願いします。
「うむ、良い風が流れてきたな。よし!行くのだ、我が孫よ!!!」
俺の意思を聞けーーー!!!
パッと手を離され一気に落下。加速がついてどんどん速くなる。
ああ誰か、あのクソジジイに天誅を!!!
【みゅああああああああ!!!】
クラリスの元気な叫び声と共に、青空から雷鳴が轟きビガッとじじいへと何度も何度も雷が落ちた。
小さな翼は危機回避から逃れようと地上スレスレで開いたが、当の本人が目を回しクルクルと回転して落ちていった。寸前のところで気付いた両親が受け止め、父が回収。母は事の次第にぶちギレ落雷した祖父をボッコボコにぶちのめしにいった。
その後、龍王がどうなったかは知らない。ただ顔をパンパンに腫らし、笑いながら松葉杖で歩く姿を見た者がいるとかいないとか。
俺はあまりのショックでその後三日間は悪夢と熱にうなされた。
高所恐怖症になったらどーするつもりなんだよ、まったくあのじじいめ。しかし腹は立つけれども、じじいのお陰で無事に空を飛べるようになった。空を飛ぶのは楽だけども、二足歩行の練習はまだまだ続く。俺は諦めないぞ!!
ひそかにお気に入りです、ガラシャじーちゃん!