7
長命な種にとって産まれてから最初の十年というのは、とても稀少なものなのだと教えてもらった。特に俺たちのようなかなり稀有な種である子は生存率が一層低くなるそうだ。
だからこそ大切に大切に、片時も極力は離れぬよう、もし離れる場合は自らの力の一部を仔に捧げ守らせるという。その十年の間に子は己の中に力を貯め、それを使いこなせるようになるのだと。
と、レディウス兄貴が言っていた。
あれからめまぐるしくもない二年を得て、二歳になりました。ワー、ドンドンパフパフー!!あ、古い?えへへ。
すっかり今じゃドラゴンにもなれるし人型のままにもなれる。あと兄貴のムギャムギャ龍言も分かるようになった。ちなみにドラゴンの姿は灰色にちょっと銀が混じっている。幼ないドラゴンは総じて灰色に自分の髪色が混じるそうだ。だから兄貴も赤かったみたい。
あと俺も言葉喋れるようになった。まだすげー舌ったらずで噛むけど、俺の愛くるしさに免じて許せよ。でもなマジで可愛いぞ!マ、ジ、で!!!
初めて鏡見たときは一日鏡の前にいたからな。
赤子特有の柔らかな銀色の髪、ぱっちりとした金色の眼、ふっくらとした顔や手、ぷにゅっとした唇。めっちゃかーわーいーいー!!!おかげで家族も俺自身もメロメロだぜ!
「クーちゃん、にーちゃんだよ。にーちゃん!」
「にー、にーた!」
「そう、にーちゃんだよ!!」
嬉しそうにぎゅむっと抱きついてくるのは我が兄貴、レディウス。
言葉が解ってわかったことは、この兄貴、すんげー世話焼き。
ありがたいけどね、俺今一人じゃなんもできないし。どこに行くのもなにをするにも手を繋いで手伝ってくれるし、ご飯の時は自分の飯そっちのけで俺のご飯の準備から食べさせてくれる。産まれたときからなにかと傍にいてくれていたが、この二年で更に磨きがかかった。
……ブラコンの。
弟は兄の先行きがとっても不安である。
ちなみにクーちゃんは俺な。クラリスの愛称みたいで、呼んでるのは兄貴だけなんだが。
「今日もうちの息子たちは可愛いねえ」
「とーさま!」
「とーた!」
短い手足をえっちらおっちらするのがマジ大変。ほんとは背中の翼をパタパタする方が楽なんだけど、俺としては早く二足歩行に慣れたい。
親父もしゃがんで俺が歩いてくるのも待ち構えている。兄貴は隣で転げないように心配げに見つめているが、俺が親父の腕の中に入ればその背中に引っ付いた。
「すごいすごい!クラリス、一人で上手に歩けたねえ」
「しゅごっ!くーたしゅご!」
よいこよいこと顔中にキスしてくれる。
この二年間で両親から兄貴からキスとハグともうとにかくされまくったのと、愛情の刷り込みに寄ってむしろされる喜びを知った。前世だったら考えられないことも今はなんともない。まあ、こんな可愛い息子がいたらキスしたくなるよなあ。うんうん。
「ねえアイヴィス、これなら行けるかしら」
「かーた!」
「ん~……行けなくても、行かせなきゃダメみたいだけどねえ」
腕の中から抜け出してかーちゃんに飛んでいく。文字通り飛んでいく。こういう時すげー便利。長距離はまだ飛べないんだけど。
おっぱいめがけて飛びつくと、難なく抱きしめられデコにキス。二年経った今もかーちゃんのおっぱいは柔らかいです。
「もしかしてクーちゃんあれに行くの!?」
いち早くなにかに気付いた兄貴が二人の顔を交互に見る。
「クーちゃんにはまだ早いよ!!危ないよ!!」
焦ったように叫ぶ兄貴に俺は首を傾げた。
危ないだと……、それはあれか生死に関わる危険か?
ドラゴンの子は雲の上から子を落とすものだと言って、去年俺を銜えて遥か上空から落としたガラシャじーちゃんのようにか!!あれは本当に息の根止まるかと思ったよな。まあ、結果オーライで無事に飛べたんだけどさオムツの中でしっこが滝のように流れたなあ。
その後、ガラシャじーちゃんもまた生死の境を彷徨っていたが……。
「それはクラリスに決めてもらいましょう。ねぇクラリス、お使いに行ってほしいの」
「おちゅあい!」
それはあれか、前世で懐かしい国民的ドキュメント!ドーレーミファーソーラシードー、でお馴染みの!!ハンディカム片手に録画されちゃうのか!?ってことは誰かしら後付いて来るんだよな。
だったら心配いらないじゃーん!!
「いちゅ!おちゅあいいちゅ!!」
拳ぎゅっと握って宣言した。
兄貴は「ええ!?」と不安の二文字が顔に出ており、かーちゃんは喜んで、親父はやっぱりどこか不安そうに困った顔をしている。
「おちゅあい、どーこ?」
そういえば場所も目的も聞いてなかった。
「魔界よ」
かーちゃん、笑顔で言う言葉、ちがう。
さーて、こっからクラリスの冒険がはじまりますよ~(笑