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 ふああ、よく寝た。

 起きたら布団みたいに柔らかなゴム、いや……腹の上だった。


【みゅ?】


 ぐーすかぐーすか寝てる腹の上は居心地がいいし、意外にぽにょんとしていて気持ちがいい。

 しかし、でかい。巨大トランポリンだ。

 俺なんて上から見たらひょいっと摘まれる豆粒程度の小ささだろう。

 相変わらず手は人間の赤ん坊みたいだけど、背中がもぞもぞする。背中を丸めたらバサっとなにか出てきた。しかしそれがなにかは俺の頭が重くて回らないので見えない。見えないけど兄貴の背中から生えていたものと同じだろうな。


 唐突だが腹が減った。

 すげえ腹が減った。―――我慢できない空腹感だ。


【みゅーみゅー……みゅあああああ!!!!】


 赤ん坊ってほんとに腹減ると泣くんだ。空腹感を我慢できないんだよな、どーしても。

 バチンとなにか大きな弾ける音が聞こえたと思ったら、いきなり腹が揺れた。―――やばい!落ちる!!


【ふ。ふみゅああああ~】


 転げ落ちると思ったらさっと大きなものが防いでくれた。

手だ。いや手と表現するにはあまりにでかく、赤い滑らかな皮膚がそっと俺の転落を支えてくれた。


『あらあらお腹が空いたのかしら、ミルクの時間ね』


 その声は、かーちゃん!?なんて言ってるかまではわかんない!!

 でも正直くそでかい牙が並んだ、長く赤い舌しか見えませんけど!?……生臭い匂いとかしないからまだマシか。どちらかといえばフローラル的な、花の芳しい匂い……と考えている俺は、途端に訪れた腹のバウンドにより遥か高い天井に飛ばされた。

 あー……なにこの浮遊感こわー、い?と思っていた俺の防衛本能が働いたか、もぞもぞした背中必死にパタパタと動いている。

 急速に落ちていた身体がスローになってはきているが、変わらず地面に向かって真っ逆さま状態だ。


【みゅああああああ!!】

「クラリスよくできました」


 叫ぶ俺とは対照的にぽんっとあっさり受け取るのは昨日の美人かーちゃん。つまり先ほどの巨体は本来の姿とか、そんな感じなのか。……やはり俺は、ドラゴンの子になるわけ?

 混乱していても目下重要なのはこの異常なる空腹感。すぐにかーちゃんに抱きかかえられ、ふくよかなおっぱいを揉み揉みしながら至福の授乳タイム。味はないが、栄養満点感をすごい感じる。こう身体に染み渡るような……。


【げっぷー】

「いっぱい飲んだわね」


 おう、当分いらねーや。満足げに腕の中でおっぱいに包まれていれば、『むぎゃぎゃ』兄貴きた。


「起きたか。おはようエレナ、クラリス」


 兄貴を背中に引っ付けたガチムチ親父、アイヴィス。

 アッシュグレーというかどちらかといえば、アッシュシルバーの髪と青い切れ長の眼が、むかつくほど美形を物語っている。

 かーちゃんと俺に懇切丁寧なキッスをしてくれるが、不思議と気持ち悪くならないのはなんだろう、アレか生物の愛情表現だからだろうか。


「アイヴィス、レディウスおはよう。クラリスもおはようって言ってるわ」

【みゅ、みゅーあー】(お、おはよー)


 幸せそうに笑うかーちゃんは可愛い。

 本当に二児の母なのかという若さだがそれに関してはこの親父も然り。


『むぎゃぎゃ、むー』

【みゅー?】


 ごめん兄貴、なに言ってるかさっぱりだわ。


「クラリスに龍言(フレイク)はまだ難しいだろうから、人語(ミリ)で喋ってみな」


 ひょいっと背中から摘んで下に降ろされている。

 ぼふんっと煙にまかれて3歳ぐらいの少年が現れた。―――え、変身できんの!?

 赤い髪はかーちゃんとそっくりだが、顔は親父に似ている子供だ。


「うんしょ、……くやいしゅ、おはよ?」

【みゅ!みゅみゅ!!】


 おお兄貴、その言葉なら分かるぞ!!

 俺が反応したのが分かり真っ裸で喜んでいると、親父が服を着せようとしていた。風邪引くから嫌がらず着ろよ兄貴。


 しかし兄貴も可愛い顔してる。俺にショタコン趣味はないけどこれはヤバイ。

 赤い髪に青い眼、皮膚はドラゴンの時とは違って白くてやわらかい。俺もこんな顔してんのかな……。


【みゅみゅみゅみゅ!!!】


 鏡、見たい!超見たい!!

 でも動けない、このジレンマうぬぬ……くっそ、身体がおめええええ。と踏ん張ってたらうんこでた。はースッキリした、と鏡のことなどすっかり忘れてしまったこの思考の短さを誰か指摘してくれ。


 初の踏ん張り瞬間を見た両親と兄貴は、なんだか楽しそうにしていたことを俺は知らない。



 もっさりとしたおむつを変えてもらい、昼寝をしてスッキリ気分で辺りを見回す。ベビーベッドなのか、わからんが柵つきなのでそういうものだろう。に俺は寝かされていたようだ。

 とにかく我が家は広く天井が高い。

 どんぐらい高いかというと、ちょっとした塔のようにだ。

 不思議な家だなあ……あ、天窓になっているのか天井は開きそう。日光が当たって気持ちがいい、でも赤ん坊の皮膚に日光は正直きついという配慮だろうか、特殊な加工がされているのかジリジリと焼かれるようなことはなく程よい心地よさだ。

 そんな安心感を得たところでさて、考えることは山ほどある。



 俺は、間違いなく生まれ変わった。

 しかも人間ではなく、ドラゴンという珍妙な生物に。親父も姿こそは見たことないが、たぶんドラゴンなんじゃねえのかなあ。兄貴はちっこいドラゴンだったし。かーちゃんもどでかいドラゴンだ。

 そんでやっぱり俺も。よく見えないが背中に蝙蝠みたいな羽がついてるからだ。

 こうゆう前世の記憶持って産まれるってあれだよな、ライトノベルとかでありそうな話。あんまり RPGとかチートとか詳しくないんだけど、……魔法も使えんのかな。それはちょっと楽しみ。

 まあなんにしても、とりあえず一人で歩ける程度には成長がしたい。

 この身体じゃとにかく頭重いし、燃費が悪い。寝る食う排泄の繰り返しだ。こんなんで生きてる赤ん坊って不思議な生き物だよなあとしみじみ考えていた。

 しかし、一つ不審な点がある。


 なぜか家族が周りにいない。


 あり?みんなどこ行ったの?ちょっと、赤ん坊置いていくなよぉぉおお!!

 幼児返りしたおっさんの頭はかなり痛いけど、仕方ない今の感情は赤ん坊思考なのだ。1人は寂しい。ぼっち反対!!!

 だから遠慮なく、思いっきり泣かせてもらった。


【みゅー?みゅみゅー!?みゅああああああああああ!!!!!!】


 しかし望んだ家族は来ず、見知らぬ人……いやドラゴンがきた。

 巨大な漆黒の翼、かーちゃんの3倍ぐらいあるんじゃないの?え、なにあんた誰、……が今まさにうちの天窓を破壊して頭を突っ込んできた。そして金色の眼が俺を捉え睨み付ける。


 ―――あ、ヤバイ。完全なる死亡フラグだ。

 うりゅ、うりゅりゅりゅと視界が水に埋まる。未知の恐怖に俺の涙腺は崩壊したのだった。


自分でも忘れないようにメモ~!

------

【】→赤ちゃん語。新生児の泣き声なので通じません。

『』→龍言(フレイク)龍人(ドラディン)の言葉。理解できない人間には吼える声にしか聞こえません。

「」→人語(ミリ)。一般的に使われる公用語。


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