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やーやー、無事産まれたぞ。
卵の君と呼んでもいいんだぜ、もう殻はバッラバラに割れたけどな!!
第二の転倒でまた死ぬかと思ったけど、卵がクッションの役割を少しは果たしてくれた。
もうマジですげー痛かったけど俺があの時泣いたことで家族は大喜びだった。
どうやらだいぶ長いこと卵に引きこもっていたらしい。
ここで一つ問題が――、薄々感づいてたけど俺……人間じゃないよね。
なんたって俺の口から発しているこの声は。
【みゅあ?みゅみゅみゅ~】(あれ~?あれれれ~?)
なんか、なんかの鳴き声……。
そして更にそれを増徴させるか如く、俺の隣にいる存在。
【……】
『……むぎゃ?』
そうなのだ。
なんか隣に爬虫類がいるんだ。
そいつはさっきから『むぎゃむぎゃ』言っている。
そしてなによりでかい。俺と同じくらいかと思いきや、いや視線が少し上で……ってんなことはどうでもいい。
こいつよくRPGとかのゲームに出てくるような、ドラゴンの子供だよな。
そんな隣にいる俺は仰向けに寝かされている。自分で動くことの難しさを実感しながら、どうにかこの短い手足をバタつかせてみせる。まあ大した動きは当然出来ないけど。視線だけ向けながら、うん、見比べてみても一目瞭然でむぎゃの手足とは大幅に違う。
俺の手ちっちゃ。赤ちゃんの手だ……。
【みゅあー】(すげー)
あ、そうそう。
卵の中でずっと気になっていた最重要事項である異物感を忘れてはいないだろうな。
ケツの下、もとい腰の下と言った方がいいのだろうか。そこにあったのは小さな尻尾だ。たぶん。
今しがた俺の目の前にいらっしゃるこのむぎゃのケツからも生えている。俺のよりずっと太くてもっとしっかりしたソレがたぶん俺のケツの下にある。そして背中のはまだ確認取れていないけど、やっぱりむぎゃの背中にある小さいけど頑丈そうな翼。……立派ですね。
間違いなくきっと俺にもあるんだろうなって、この背中のむず痒い感に納得してる。
むぎゃはどう見ても爬虫類をすっ飛ばしてドラゴンだと思う。
なぜか俺は前世同様に一応は人間の姿をしてる赤ん坊だ。一部それらしくないものがあるから、人間の姿も出来るドラゴンでいいのだと思う。
かーちゃんもとーちゃんもいるんだけど、さっき目が覚めたばかりでまだ肉眼で確認できてない。
ここが結局どんな世界だとか自分がなんて名前だとか、むぎゃの名前も関係性もわかんないし、生まれたばかりだけど、ただ考えることは尽きそうにない。
【みゅあああ!!】
謎の空腹感も相俟ってイライラして俺が声を上げると、すぐに隣の爬虫類が反応する。
灰色の柔らかな毛のない皮膚が近づき、ザラザラな舌で俺を宥めるように顔を舐める。
青いまん丸の眼には瞳孔が縦に真っ直ぐと入っていて、最初は驚いたがその目はすごく綺麗だった。
あ、これ……そうだ、犬に舐められてるようなあの感覚を感じる。
【……みゅ、ああ……】
わかった。もう大きな声は出さないから、俺の顔を涎まみれにしないで。――ねえ、べちょべちょですけど!?
「あらあら、お目覚めかしら私の可愛い坊やたち」
うほ、超美人!!燃えるような赤い髪の美女!!
え、今この人……私のかわいい坊やたちって言ったよな。つーことは、このわんこのような爬虫類は俺の兄弟で確定だよな!?でもどうなってんだ、いったい……と首傾げていたらグキっと嫌な音がした。
【みゅあああああああ!!!】(いでえええええええ!!!)
『むぎゃぎゃー!!』
痛みで呻く俺を宥めようとして、上に乗りあがって舐められる。胸が圧迫されて、死ぬ死ぬ死ぬと思ったら一瞬で軽くなった。助かった、とホッとして視線を上げれば美しいかーちゃんではなく、ごつい腕のおっさんがひょいっとむぎゃを抱き上げてくれた。
あっぶね、また死ぬかと思ったわ……。
「こーら!クラリスはまだ産まれたばっかだから、あんまり上に乗るんじゃないよレディ」
「レディウスはクラリスが可愛くて仕方ないのね。ふふ、早速いいお兄ちゃんね」
『むぎゃー!!!』
俺のとこに来たいらしい爬虫類こと兄貴、レディウスがおっさんの腕の中でじたばたしている。
このおっさんのポジション的に親父かな。
「クラリスはママが抱っこしてあげるからね、いい子ね」
あの逞しい胸の中はさぞや堅いだろうに……、うわ、親父も小奇麗な顔してやがる。あ、かーちゃんのおっぱいやらけー……役得っ!
しかし突然やってきた授乳タイムには、さすがの俺も恥ずかしい。……なんたってすげー見られてる。かーちゃんも構わず口に銜えさせて、問答無用で飲ませる体勢だ。そりゃ赤ん坊だもんな。飲んでくれなきゃ心配するだろうし、俺も飢えて死ぬのは嫌だ。
あーおっぱいって全然味ねぇけど、こんなもんなのかなー。俺の意思とは裏腹に、この身体は栄養を求めている。これでもかってぐらい物凄く飲んじゃったけどね。赤ん坊の吸引力半端ねえわ。かーちゃん痛くねえの……?
そうして色々考える前にゲップさせてもらい、腹いっぱいになった俺の頭はすぐにブラックアウト。その腕の中でぐーすかと眠ってしまうのだった。赤ん坊の身体って単純だよな、仕方ない。
「クラリス可愛いなあ、エレナにそっくりだな」
「あら髪は貴方にそっくりよ、アイヴィス」
『むぎゃぎゃ』
「しー……レディウス、クラリスはねんねの時間だ。静かにしような」
かーちゃんの腕に抱かれた俺は、なんとも言えない満足感を味わっていた。
【むにゃむにゃむみゅみゅぅ~……】(むにゃむにゃ、はじめまして、俺の家族ぅ~……)
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