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Distorted Love  作者: 圭人
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2. Dside


女の命をもらう為に人間界へやってきた。


ここは色んな想いが交差する。

その想いが俺の頭の中に入り込んでイライラする。

くだらない感情ばかりだ。


金だの女だの、つまらないことで頭がいっぱいな男共。

誰よりも自分が一番だと傲慢な態度の女共。

どいつもこいつも低脳で笑える。


あいつの記憶が戻れば俺も元の世界に還れる。

こんな世界は気が狂いそうだ。


俺はとっとと用事を済ませて早く自分の住む世界へ戻りたかった。


今までも俺の元へやってくる奴らはクズばかりだったが、生きている奴らも大差ない。

本当にくだらない種族だと改めてうんざりした。


ただひとつ、いつもと違うと感じるものがあった。

それは、人間の姿だ。


今まではもやもやした光の塊でしかなかった人間だが、ここでは姿がハッキリとしている。

それが俺を妙な気分にさせた。


あの女もその中の一人。

初めてあの女の顔を目にした時、不思議な気持ちになった。


それはきっと、今まで俺の世界で会った人間をこっちの世界で見たことがなかったからだ。

あの女の顔を見た時に、心に引っかかる何かがあった。


初めて見る顔なのに何故か懐かしく思えたのだ。

ずっと前にもこの顔を目にしたことがあるような感覚。

もちろんそんなはずはない。

ただ、光の塊に微かに浮かんだあいつの表情を見ていたからそう感じるのだろう。


女を監視していると、一人の女が現れた。

その女の顔は、眠っているあの女と似た顔をしていた。

ただ、あの女よりも少し齢を取っている。


この時もまた、懐かしい気持ちと共に今まで味わったことのない気持ちに襲われた。

初めての人間界は気分の悪い体験ばかりで、自分がこの女の回収に関わったことを心から呪った。


元凶の原因となる女は、アコと呼ばれていた。


アコはしばらく眠り続けていた。

というより、眠らされていた。

これは俺の力ではなく、父上のお力だろう。


ある日、やっとアコが目を覚ましたと周りの人間どもが騒いでいた。

特にアコとよく似た女は涙を流して喜んでいた。

後に、その女はアコの母親と判明した。


アコは毎日、小さな金属のかたまりを手に取りため息をついていた。

それはこの世界では携帯電話と呼ばれるものだった。


手に取っては放り投げ、また拾う。

ブツブツと何か言いながらその携帯電話とやらを何度も指で押していた。

そうかと思えばまた携帯電話を放り投げる。

毎日がその繰り返しだった。


医者と呼ばれる連中は、アコの検査とやらを毎日行っていた。

奴らは必死になって何かを言い合っていたが、内容は全く分からなかった。


俺にはここの世界のことがよく分からない。


どうせアコの記憶を取り戻すまでの間だ。あんな女の記憶くらいすぐに手に入るだろう。

この世界に興味はない。

それに、言っている意味が分からなかったとしても俺に不自由はなかった。



そんなつまらない時間がいくらか過ぎた。



ある日、アコのもとに今まで見たことのない人間がやってきた。


『やほーーー!』


女の声が響いた。

その瞬間、俺の中で何かが爆発した。

胸が苦しくなり、息が出来ない。

自分の感情がコントロール出来ずに不安な気持ちになった。


不安?この俺様が?

なんだこの女は!


今すぐにでもこの女の命が欲しかった。

そうでもしないと、他の誰かにこの女を奪われそうで焦りが生じた。



こ の 女 が 欲 し い !!!



その感情が何かはわからなかったが、この女を一生自分のそばに置いておきたかった。

その方法は何か。

様々な考えが頭を駆け巡る。

俺が必死にいい方法を考えている間に、女はいなくなっていた。


自分ではどうしようもなく、俺は一旦自分の世界へと戻ることにした。


それは俺にとって今までにない行動力だった。

誰かを想って行動することは今までなかったのだ。


それなのに、今では一人の女の事で頭がいっぱいだ。

ましてや、今まで忌々しいと思っていた人間にだ。

そんな自分が可笑しくてたまらなかった。


上に戻り父上に相談した。

すると、すぐにあの女を手に入れる方法を知ることができた。

それを知ると、俺はまた人間界へと下りる。


笑いを押し殺しながらアコのそばへと近寄った。

アコはとても小さい人間で、俺の胸元に頭がある。

人間とはこんなにも小さい生き物なのかと再確認した。


あの女もアコのように小さいのだろうか。


アコは俺が近寄ると不思議そうな顔で見つめた。



「お前、あの時の女は誰だ?」



あの女の情報が欲しい。

名は…確か……



『なんの話?』

アコは不機嫌そうに答えた。



俺はあの女が現れた時の記憶を呼び戻し、女がリコと呼ばれていたことを思い出した。



「・・・リコ・・・といったな。」



名の意味は分からないが、その名の響きはとても愛おしかった。



『私の友人のことを言ってるの!?』



友人というものがどういう意味を持つのか解らなかったが、近しい関係であることはなんとなく感じて取れた。

アコの記憶がなかった事にほんの少し感謝する。

このくだらない世界にやってこれたことすら有難く感じている。


この女の記憶を戻すのは後でもよい。


まずはリコという女を手に入れることだ。

考えれば考える程おかしくてたまらない。



「そうだな・・・。お前の友人のことだ。」



父上に相談したおかげで、あの女が手に入る方法が見つかった。



「リコ・・・。気に入った。私の花嫁に迎えよう!」



花嫁に迎える!

なんて胸が躍る言葉なのだろう。


アコは俺の言葉を聞くと鼻で笑い、背を向けた。

失礼な女だ。

だが、そんなことはどうでもよかった。


俺はすぐにアコの正面へと移動した。


「決めたのだ。あの女を花嫁にする。お前、協力しろ。」


今まで馬鹿にしてきた人間に協力を願うとは!

俺様も落ちたものだと笑われるだろう。


だが、この女の協力がなければうまくいかない。

いくら俺様のような特殊な存在でも、人間界のこととなると分からないことだらけだ。


それに、いくら特殊な能力を使ったとしても 人間の気持ちを操作することは俺には出来ない。

あの女…リコを俺様の花嫁にする為にはアコの協力が必要なのだ。


「よし!そうとなっては準備をしなければ!!」


アコの記憶を取り戻すには、ただ監視していれば良かった。

だが、人間を…リコを花嫁に迎えるとなるとそうもいかない。


人間界で“人間として”存在しなければならない。


『はいはい、そーですねー。』

アコはこちらを見ることもなく答えた。


だが、その返事だけで十分だった。

俺が人間として存在するには、人間の許可が必要だったからだ。

こんな女でも一応は人間だからな。


アコから協力の了解を得ると、俺はすぐに人間として存在する為の準備を開始した。


まず、人間界に関する書物を頭の中へと流し込んだ。

これで大体の知識が得られるだろう。


あとは人間の身体が必要だ。


命を落とす予定の人間の中で、それなりの環境が整っている者を探した。

だが、自分程の美しい姿をした人間を見つけることは出来なかった。


それは仕方のないことだ。

俺様のような完璧な姿を持った者が人間の中で存在しているはずがない。

容姿を大きく変えるのは抵抗があったので、生きる為の環境にはこだわらない事にした。


その結果、ある若者の身体を手に入れることができた。

この男は両親がすでに他界しており、ひとりで生活していた。

アコの住んでいる街からは遠く離れているが、引越しというものをすれば問題ない。

もうすぐ奴は命を落とす。

その瞬間から、俺がその男として人間に変わるのだ。



男が命を落とすとすぐ、そいつの身体を使ってアコの元へ向かった。

生まれ変わったばかりの、人間の姿で。


まだ身体が馴染んでいない。思い通りに歩行というものが出来なかった。

人間は足に鎖でも繋いでいるのだろうか?


面倒なので、移動は今まで通り能力を使った。

しばらくは人間として生活しなければならないので、そのうちこの力を使う事も許されなくなるだろう。


病室に入ると、アコは退院の準備をしている最中だった。

疲れた様子で体を左右に振っている。


俺もこの先、あんなみっともない行動をとるのだろうか…。


アコは一瞬こちらを見たが手元の荷物に視線をやった。

と、すぐにまたこちらに顔を向ける。

その表情はとても驚いていた。


俺はゆっくりとアコの方へと歩み寄る。

鎖の重さに動じることなく優雅な歩みで進むと、アコの目の前で立ち止まる。

そして、俺はアコに礼をくれてやった。


「お前の協力、感謝してやるぞ」


俺は自分の行動全てが可笑しくて仕方なかった。


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