表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5.語りかける

こっそり連載、お付き合いありがとうございます。

 




 フェリウスが不在となって数日も過ぎると、ロングラム邸も落ち着きを取り戻した。ミゲルが


「フェリウスは私の知人とともに、他国を廻っている」


 と公言したことも大きい。とはいえ、フェリウスがいつ戻ってくるのか、知人というのは誰なのかをミゲルは言わなかったので、詳細は誰にも分らなかった。

 そして、マリオンが不安に思っていたミゲルとの時間は、執事や使用人の誰かが必ず在室するという状態によって事なきを得た。会話が途絶えると、在室している者が


「こちらはどうしましょう」

「マリオン様。学園での生活はいかがですか」

「旦那様。マリオン様のお洋服の件ですが」


 等々、なにかと話題を振ってくれていたのだ。

 家庭教師も以前よりも長い時間をかけて丁寧に、マリオンに勉学を教えてくれている。また、マリオンも空いた時間は使用人たちから『給仕』について習うようになっていた。いつか『給仕』も役に立つのかもしれないとマリオンは考え、執事にお願いをしてみたところ、


「マリオンの望むように」


 ミゲルのひと言でその望みは叶えられたのだった。

 季節は廻り、エイダやミゲル、フェリウスが通った学園にマリオンも通うことになった。家庭教師がついていたことや自身の努力もあり、学園での勉強に困ることはなかった。学園では平民であろうが貴族であろうが、平等に扱われた。身分の異なるミゲルとエイダが互いに恋したのもこの環境があってこそだろう。

 学園に通い始めたことで、ミゲルとの話題が学園に関わる内容となることが増えた。そして以前よりもより詳しく、エイダとミゲルの関係についても話を聞くことができた。

 一学年下のエイダと顔を合わせたのは、学園ではなく街中だったこと。

 実力主義のライジンク国とはいえ貴族社会の風習は残っており、貴族と平民の格差や平民の日常生活を知りたいと、ミゲルが街中を出歩いていた際、


「その服装でこの周辺を歩くのは危険です」


 そう呼び止めたのがエイダだったという。

 ミゲルがしている行動の趣旨を知り、その意に感服したエイダが庶民の服を用意し、案内がてら一緒に行動したこと。そのおかげで、庶民と貴族の違い、庶民においても男女差があることを知ったこと。


「貴族、庶民、男や女。若者に老人。異なる環境や条件はあるし全てが平等になることはないけれど、個人それぞれの特有を活かすことができて、個人の実力を認められる社会になるといいと思うんです」


 エイダが放ったその言葉に、ミゲルは同意した。そして仲を深めていき、学園ではこの国の未来についてよく語り合ったという。


「エイダには家族がいなかったからね。いつか私が職に就いた時には、孤児に対する安全と環境の保証ができるように尽力を尽くすと彼女と約束したのだ」


 墓地で出会った時に、孤児院の職員がミゲルを称賛していたが、その背景に母親がいたことをマリオンは初めて知った。

 ミゲルを見れば、その瞳は輝き、生き生きとしている。この姿は七年前から変わらない。そしてミゲルを見てマリオンの胸がときめくことも変わらなかった。しかも、悪いことにときめきは以前よりも強く回数も日に日に増していた。

 今日もまたときめいてしまうのだろうかと不安と困惑でマリオンが館に戻ると、来客が帰るところだった。このところ連日来客があるようだ。今日の客人はミゲルの親戚筋の者だった。


「また……」


 来客の目的は間違いなくミゲルへの見合いの話だ。フェリウスが姿を消したことで、後継者をどうするのだと周囲が世話を焼くようになったのだ。 


 ―――今は伯爵様も断っているけれど、いつ後添いの人が輿入れするのかはわからない。そのとき、私はここにいてもいいのだろうか。今まで面倒を見てくれただけでも十分なのに、伯爵様の迷惑にしかなっていないのでは。


 マリオンはそう考えるようになっていた。


「あなたは、どう思いますか」


 マリオンが玄関に飾られている肖像画に尋ねた。ミゲルが肖像画ペトラに語り掛けているのを見ているうちに、いつしか自分も肖像画に声をかけるようになっていた。もちろん返答など得られることはない。けれど問わずにはいられない。

 愛する人の幸せを望んでいるのに、なぜ私は応援ができないのだ、と。母のように彼を思い切ることができないのは何故なのだ、と。

 長年ミゲルは肖像画に語り掛けている。エイダにしか話すことのできない内容なのだろう。その姿を見るたびにマリオンは自分が頼りにされていないことを痛感してしまう。


 伯爵様は貴女の言葉を聞くことができるのですか。


 マリオンはまたも答えのない質問を肖像画にしていた。





 マリオン十五歳。触れぬことのできない相手に嫉妬していた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ