渚に照らされて
「ザンルさん、僕が子供たちを見ます。交替しましょう」
険相で、ザンルに声を掛ける。
「あら? タクトくん、ありがとう。でも、テントを張る作業をすっぽかしてまでは、ワタシも困るワ」
「タッカさんが、悪いのです」
タクトはうつむき、唇を噛みしめると更に手に拳を握りしめる。
「困ったわねぇええ。こっちにいらっしゃい」
ザンルは溜息を吐いてタクトを砂浜に差し込むビーチパラソルの中に招き入れる。
タクトはレジャーシートの上に腰を下ろすと膝を曲げて手を組み、更に顎を乗せる。
タッカが嫌い。タクトは理由を沸沸と思い浮かべていく。
バースさんよりふんぞりかえってるし、いつも身なりが気になっているらしく1日何回も髪にくしを通して軍服だって新品のようにシワがない。
それでも、バースさんが護衛隊の一員として任命した。
何か取り柄があってだからと思うけど、僕は納得しない。
バースさんには言えない。言ったら、絶対に叱られる。
――人の事を言うな!
僕が八歳の時だった。二十歳だったバースさんは、僕に本気で怒って怖くて堪らず泣きそうになった。
――男はここぞという時にしか泣くなーーーー。
変なバースさんだ。涙なんてすぐに引っ込んでしまった。
「少しは落ち着いた?」
「はい。何とか、です」
何処と無く、ぎこちない返事。
「僕、テント張りに戻ります」
立ち上がると右腕に硬く太く巻き付く感触を覚える。
「痛い、です」
「中途半端な落ち着き方ではまた、タッカと喧嘩になっちゃうわヨ」
「見られていたとは、気付きませんでした」
タクトはザンルが掴んだ腕に残る指の跡形に驚愕しながら言う。
「テントをシーソーみたいにギコバコしていたら何事かしら? なんて、誰も思うワ。あらあら、二人の手つきでは子供たちが休めないワね」
ザンルの言葉の通り、視線の先ではタッカとバンドが風に煽られて支柱より剥がれたシートに覆い被さり藻搔く。笑いを吹き出してしまいそうになると、海辺で地引き網漁をするニケメズロと子供たちの様子に視線を移していく。
「僕、結局隊員のみんなに迷惑を掛けさせているのですね?」
「おおいに結構よ。ジャンジャン迷惑を掛けてちょうだい! 貴方のことが隊員のみんなは可愛いのよ」
ザンルはタクトに腰を上げるようにと促すと、悪戦苦闘をしてテントを張る作業のタッカに向けて背中を押していく。
「ありがとうございます、ザンルさん」
タクトは歩幅を一歩前に広げて砂地を踏みしめるとザンルに振り向いていうと、真っ直ぐと駆けていく。
「バンドとは、息が合わない」
タッカはタクトの顔を見ると愛想笑いで言う。
ーータクト、人には必ずひとつは美点があるのだ。それをほじくって自分のモノにしろっ!
思い出、紫。
絆のきっかけ、いつもバースさん。
海鳴りがタクトの耳元に吹き込まれ、弾かれ飛んで空に溶ける。
錯覚、幻。
空想のような現実がまた一つタクトにスライドされていったーー。