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白い緊迫

「ハケンラット、私だ。緊急だが9両目の通路で隊員が一名倒れてる。症状はかなり重い。直ちに処置を施す必要ありだ」


 通信を終えるアルマは、抱えるタクトの頬に手を添える。

「いつからその症状が表れていたのだ」


 タクトは朦朧とする意識の中、アルマの顔色と声を探るように目蓋を開き、耳を澄ませる。

「ゆ、夕べぐらいから、何となく身体が重い感覚がしてました」


「倒れこむまで何故、我慢していたのだ?」

「だって、アルマさん僕より大変そうじゃないですか? 僕が体調不良を訴えてもーー」


「すまない」


 アルマの軍服越しのふくよかな肌の感触を、タクトは頬で受け止める。

 心地好いと思う一方息を吐くはおろか、ろくに腕も動かせない状態が恨めしい。



「なんね? 急病人てタクトだったとね。そぎゃんならアネさんがぴらぁと、診ればよかとに!」

 国なまりの言葉に濃い眉毛。小柄の隊員が担架を抱えてやって来て言う。


「誤診防止の為、二人で診断するのが規則だ」

「頭、かたかな」

「つべこべ言わずにさっさとタクトを救護室に運べ!」


 タクトを担架に乗せると、アルマとハケンラットは救護室へと列車の通路を駆けていくーー。



 タクトはベッドに横になってハケンラットの両手から輝く“白い光”を全身に浴びる。


「急性反動病。急激に“力”ば、つこうたのが原因ばいた」


「やはり、な」

「あの、僕にはなんのことかさっぱりですけど?」

 アルマの落胆含みの声と形相に、タクトは堪らず訊く。


「タクト。あた“力”を 勘なしに放出したろ? そんときは自覚症状はなかけどあとからじわっと、身体に来るとが多かとよ。そっでな―ー」

「タクト、おまえの身体に自身の“力”が跳ね返って傷つけている。それが反動病の症状だ。空になった“力”を蓄える機能が過剰反応を起こし、一気に膨れしまう。例えれば、風船だ。更に分かりやすく言えば、空腹の余り一度に多くの食事をとるとどんな状態に堕ちる?」


「苦しくて、吐く。ですか?」

「それも出来ない状態が、今のおまえだ。とにかく安静にして様子を診るしか方法がない」


「少し横になったから、大丈夫です。僕、任務に戻―ー」

 起き上がろうとするタクトにアルマが押さえ付ける。


「ア、アネさん!なんも、ベッドの柵に頭ばうちつくっほどタクトば寝かせんでもよかろ?」

「こうでもしなければこいつが動き出す!」

「よさんか! アネさん。タクト、ほんなこつ動かんごつなっばいた」


 タクトの胸元にアルマの膝が押し付ける姿にハケンラットが止めに入る。


 苦しい、と、タクトは息が詰まるような形相をする。

「ニケメズロさんも、さっき“力”を使ってましたけど大丈夫なのですか?」


「人の心配はいいっ!」

「アルマさんこそ、僕ばかりに気を取られたら―ー」


「タクト、私を困らせるな」


 タクトが見るアルマは、声を震わせて目に涙を浮かばせている。


「ごめんなさい。でも、僕のせいで隊員のみんなに迷惑もかけたくない。だから、せめてお薬だけでも処方してください」


「薬だけでは処置が間に合わない」


「アネさん、こぎゃんしてタクトば寝かせとくのもいかんとじゃなかとね?」

「焦るな、ハケンラット。私も“治癒の力”を持っている。タクトに合った処置方を検討中だ」


「お二人とも、そんな、か、ん、じょう、て…きにな、な、なら、ずに―ー」


 ーー苦しい。全身が、紐で巻き付けている感覚がする。どうしよう、ドウシヨウ、声が出せない。


「しまった! タクト、しっかりしろ」


 ーーアルマさん、何処? 真っ暗で見えない。


「アネさん、しかたんなか! あの方法でタクトの中にうったまっとる“力”ば、抜き取るしかなかばいた」


 ーーハケンラットさん、それって―ー。


 ー―麻痺させろ。


 シーツを握りしめる手の感覚がなくなると、アルマが耳元で震える唇の感触が伝わっていった。

「タクト、聞こえるか?」


 ーーアルマさん、僕、身体がうまく動かない。


「処置を施す為に麻痺させた。自由に動けないが、あらゆる感覚はあるはずだ。頷くでもいい、返事を示してくれ」


 アルマの顔が霞んで見えるが少し、頭を縦に下ろす。


「解った。今からおまえの中に膨張してる“力”を吸引する。所要時間はおよそ10分程で済む。がんばるのだ」


 ーー手術じゃない?


「アネさん、やっぱ、あの方法でいくとね?」

「吸引する医療器具を積み忘れたのは、誰だ?」


「そぎゃん、むごか顔ばせんではいよ。あったげでも車両のスペースばうまっほど、デカかとよ」

「子供の護衛を甘く考えてた、言い訳にしか聞こえないっ!」


「話しば、とばさんではいよ! 」

「つべこべ、まごまごせずにさっさと始めるぞ!」


 ーーアルマさん、お願いだから、みんなと喧嘩はよして。


「ハケンラット“5の120セット法”を開始する。足首で、心拍と脈拍の確認を怠るな!」


「待ってはいよ。呼吸する練習ば、さすんのが順番じゃなかとね?」

「知っている。急いでカウントをとれっ! タクト、手を握りしめるのだ」

 言われるがまま、アルマの右手を掴むと同時に顔と顔が正面となる。


 掠める毛先の柔らかさと、吹き込む吐息の春風を受け止めるような心地よさ。


 こんな状況でなければ、感情が抑えきれずに更なる行動をしてしまうーー。タクトはそんな思考を膨らませる。


「そんなに早くしなくていい! ゆっくり、ゆっくり息を吐くのだ。そうだ、その感覚を忘れるな」


 吐く息がまるで砂のような感触を覚える。3カウントが終わると、アルマはタクトから離れて呼吸を整える。


 ーータクト、私の中で呼吸をしなさい……。


 アルマが覆い被さり、囁きが唇から振動として伝わる。タクトはハケンラットが取るカウントに合わせて息を吐くーー。


 



 

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