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黄土の窪み

 護衛隊の任務は、紅い列車に乗車する子供16名の護送。


 最年少の隊員の名は、タクト=ハイン。兄貴分で護衛隊隊長のルーク=バースは、紅一点のアルマに隊長代行を命じると線路を阻む難関を突破する為、タイマンと共に列車を降りる。


 ルーク=バースがいない紅い列車は、何処を目指すかのように駆けていくーー。




「駄目です。隊長の通信機の故障か、電波圏が外れている為、通信不能です」

通信室がある二両目で、技工士のニケメズロが通信機の調整結果をアルマに報告をする。

 

「故障なら修理。おまえの“技工の力”で出来るだろう!」

アルマは指の関節を鳴らしてニケメズロを睨みつける。


「無理です。隊長の現在位置も確認出来ないうえに、例え使うとしても半径一キロが限界です。それ以上の距離は、3日ぐらい寝込んでしまいます」

ニケメズロはくすむ黄色の癖っ毛を手櫛していると、顎を突き出すアルマと目が合う。


「使って、寝ろ!」

頬に溜める息を吐くアルマは、左腕をニケメズロに真っ直ぐと向けると、掌で胸倉を掴む。右の拳を大きく振りかぶると、通信室の扉が開くアラーム音が鳴り響く。


「アルマさん、いけません! お気持ちは解りますが、暴力では何一つも解決しませんよ!」

タクト=ハインは持ち込む二つの紙コップを床に叩きつけると中身は飛び散り、白いズボンの裾を飛沫が斑模様で茶色に染め上げて尚且つ滑る足元に気を取ることなく、アルマとニケメズロの間に入っていく。


「この距離なら使えるだろう?」

 アルマはタクトを押し退けると、壁に拳の跡形を残して扉を荒く閉める音を響かせる。


室内が静まり、タクトはニケメズロの顔を見つめる。今にも泣きそうで助けを求めている様子に溜息を吐く。


「タクト、何とかしてくれよ」

「アルマさんのあの態度では、僕では無理です」


「速答、だったな」

 ニケメズロは溜息を吐くと、ズボンのポケットから黒い手袋を引き出して装着する。


「この列車、もともと民間運営の鉄道会社の旅客用 だったんだ。外壁もそんなに頑丈に造られてない。装甲補強を交渉したが、却下された」

 ニケメズロは窪む跡形に手をかざし、黄土色の光を放つ。


「ニケメズロさんの“力”があるから大丈夫と、みなされたのでは?」

「隊長なら、事情を知っているだろうな。まあ、訊いても応えは返ってこない。あの人はそんな性分というのは、此処にいる連中では暗黙の了解だ」


  心当たりがある。


 列車を降りてまで、自分たちに任務を優先させた理由もわからない。


 ーー俺についてこい。


 一方的な言葉と強引な行動。鬱陶しいと、思う時期もあった。


「タクト、顔がやたらと青いぞ。アルマさんに許可貰って休め!」

 壁の窪みはふさがり、黒い手袋を外しながらニケメズロが言う。


「そうですか?」

「軍の規則でも義務づけられてる。おまえは特に未成年者だから、適度な休息をさせないと、逆に俺たちが監督不行き届きで言われてしまう」


「アルマさん、隊長代行ですからね。むしろ、そっちが怖いのでは?」

「真面目に言ってるのだ! もう少し、自分を大切にしろっ」


「アルマさん、今日は9両目の警護でしたよね?お話しつけても大丈夫かな」


「休憩時間を待ってたら間に合わない。急げ!」

 ニケメズロは眉を吊り上げて言う。


 タクトは渋渋と、アルマがいる9両目に向けて通路を歩いていく。


「任務中だ。雑談なら休憩中か、交替の合間にするのだ」

「そうですよね! ああ、本当に大変失礼しました。それでは、僕はーー」


「待て、タクト。おまえは私に何か言うつもりだったのだろう? 少しだけ時間を与えるから、手短に述べるのだ」

 車両を出るタクトをアルマが呼び止めて言う。


 ーー急げっ!


 ニケメズロが言っていたことも気になり、タクトは恐る恐るアルマと目を合わせる。


「アルマさん、直ちに休憩してください」

 言い方を誤ってしまった。でも、満更でたらめでもない。消息不明のバースさんに気を揉まされているはずだ。と、思いに更けていると、アルマが小型通信機を装着する。


「ザンル。おまえ、今暇だろう? 今から私の警護車両を代行しろ。さっさと、来い! タクト。車両を出て、通路で待機しろ」

 

 今度は、僕に?


 言われるがまま扉を開くと前方より猛烈な駆け足でひとりの隊員がタクトの肩をかすめ、車両に飛び込んでいく。


「遅い!」


 罵声浴びせるアルマにタクトの身体が震える。


「休憩が必要なのは、私じゃない」

 タクトの前方に回るアルマが右手の指先で胸元を押し込むと、足元が揺れる感覚と同時に身体が前のめりと傾き、膝と手を床に着ける。


「タクト、おまえだ!」


 言葉に反応するようにタクトは脱力感に襲われ、そのまま倒れ込んでいった。




 

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