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虹色の灯〈1〉

 紅い列車は夕陽に照らされながら駆け出していく。

 食堂車で夕食を取る子供達の警護をするタクト=ハインは護衛隊の任務内容が記される手帳のある頁を指先で挟む。


 日記とまでは呼べないが、任務開始から記録していた自身の任務。日付けは『あの日』の前日のままだった。


 タクトは振り返る。子供達を護送列車で現地までの護衛日程は11日間。5日目の早朝にルーク=バースはタイマンと共に離脱をした。理由は護衛隊に任務を優先にさせると、線路を塞ぐ罠を停止させる為にだった。


 もしも『あの日』が無かったならばと、タクトは想像をする。


 護衛任務の日程は順調に進んでいただろう。ただし、今のように子供達から『お兄さん』と呼ばれて慕われるなんて事は無かった筈だ。


 ルーク=バースの存在はタクトにとっては『兄』の様なもの。だから、自分は一歩後退りをしてルーク=バースを立てる存在でいなければならなかった。勿論、護衛隊隊長としてもだ。


 アルマの哀しみを見ることもなかった。アルマに淡い感情を芽ばえさせてもバースの前では枯らしていた。


 きっとそうだったと、タクトは手のひらを合わせるように手帳を閉じていく。



 ***



「ごちそうさまでした」と、食事を終わらせた子供達が次々に食堂車から出る。


「あ、おねえちゃん。だいじょうぶ?」

 夕食に出された緑黄色野菜を堪えながら完食をしたシーサが子供達と入れ替りのアルマの姿を見ると恐る恐る声を掛ける。


「私はいたって……。いや、私は元気よ。シーサ、お腹一杯にご飯を食べたかしら?」

 アルマはシーサのハニーブラウン色の柔らかい髪に手櫛をする。


「よかったっ! うん、今日はがんばって赤い根っこを食べたよ」

 シーサは満面の笑みを湛えてアルマに手を振る。そして、食堂車の扉を懸命になって開き潜り抜けた後に閉まる音が響き渡っていく。


「待たせたな、タクト」と、アルマはテーブル席の椅子に腰を下ろす。


「いえ、アルマさんこそタイミングよく入って来られた」

 タクトはアルマと対面で椅子に腰を下ろす。


「『ゆっくりと食事を楽しみたい』と、連絡を受けていた。そうですよね? アルマさん」

 ロウスはトレイに乗せるふたつの冷水が注がれる器をタクトとアルマが座るテーブルの上に置きながら言う。


「要らぬことを言うのではない、ロウス」


 アルマの恥ずかしそうなそぶりにタクトは堪らず吹き出し笑いをする。

「タクト、おまえは笑い過ぎだ」

「お食事をご用意致しますので、しばらくお待ちください」

 ロウスはアルマがタクトの頬を抓む様子に苦笑いをしながら一礼をすると厨房へと向かって調理を始める。




 アルマさんの食欲が凄い。僕がまだ食べきっていないのに既に5杯目だ。と、タクトは堪らず目を反らす。


 出される料理に次から次へとフォークに突き刺しては頬張るアルマの姿にタクトの心が揺れてしまい、カップに注がれているコーンポタージュスープをすくう為のスプーンを握りしめる手を震えさせる。


「ロウス、食後に〈岩かぼちゃプリン〉と〈ギリボッカ豆 〉のコーヒーを頼む」

 〈しゃっきり魚のたたき〉を舌に乗せて啜るように口に含ませると咀嚼をするアルマが言う。


「久し振りの魚料理に大満足です。ロウスさん、相変わらず料理の腕前が凄いです」


「今日の魚はニケメズロが地引き網漁で捕獲したものだ。新鮮な食材だから俺も包丁握っていて楽しかった」

  テーブルにコーヒーと紅茶、スイーツとトレイに乗せて運ぶロウスはタクトの隣にやって来ると椅子に腰を下ろす。


「アルマさん、お食事もひととおり済まされた見たいですので、宜しいですか?」

「いいだろう。聞こう、ロウス」


 深刻な形相のロウスと口元をナプキンで拭うアルマをタクトは口を閉ざしたまま見つめる。


「此のまま順調に列車が走れば予定通りに明後日に任務は終了。その後の我々はどうすればいいのだろう。と、いう件です」


「その先の指示は無い。本来ならばバースが受けるであろうが、奴とは相変わらず音信不通状態だ。かといって、私が本部に連絡を取る訳にもいかない」


 バースさんの事を報告してない? と、タクトはアルマを凝視する。


「バースは任務を離脱した。理由に例の事件を付け加えるとなれば、護衛隊そのものに連帯責任が負われる。其だけは避けたい。バースも望まない事だと私は思う」


 ーーアルマさん大変そう。立場的にそうだからだろうけど、原因はバースさん。アルマさんが可哀想だよ。強そうにみんなに振る舞っているけどきっと、バースさんの事ばかり考えてると思う。


 僕もそうだ。たぶん、みんなも同じ。


 ーー帰ってきてよ、バースさんーー。


 タクトは思考を止めてアルマと目を合わせる。


「子供達に思い出ができましたね? それから先を僕達は付いて行く事が出来ないのが寂しいですよ」

「思い出、か」

 アルマはカップに口をつけて息を吐く。


「あの子達は列車を降りた後に何処へ行くのでしょうか?」

「タクト、私も気になっている」

「我々には極秘で軍が任務を遂行させているとしか思えません」

「そうだな、ロウス」


「隊員のみなさんを集めて、この件に関して意見を出しあってみたらどうですか?」


「その提案を待っていた。タクト」

 アルマは深紅の軍服の左胸ポケットに手を入れて小型通信機を掴む。


「全隊員に告ぐ、直ちに通信室に集まるのだ」


 アルマの凛として澄みきる声に惹かれるタクトとロウスが笑みを湛えて頷くーー。


 

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