巡伊神代と桃色映像困惑譚
特に無し
巡伊神代は困っていた。
目の前に置かれているのは、先ほどやって来た友人が「男になれ」などとわけの分からないことを言って押し付けてきたDVDだ。
しばらくして、彼はそれを手に取ってしげしげと眺めた。なにやら水着姿のよく見ると小皺が目立つ若作りの女が困ったような微笑みを浮かべて立って写っている。
これが世に言う桃色映像であるぞ、と彼の横に座る幽霊が囁いた。この幽霊、在原業平というのは平安時代に活躍した大変な色好き男であった。もちろんあの世に行っているわけだが、生来の女好きは死んでも治らなかった。
巡伊はそんな在原業平に気付くはずもなく、DVDを開封した。普通の男であるなら、この時点で気付くだろうものなのだが、生憎彼は男の娘であったのだ。
水着姿の女性と煽り文句にさっぱり理解を示さず、首を捻る彼の横で在原業平は、あやしうこそものぐるほしけれ!あやしうこそものぐるほしけれ!と歓喜の舞を始めた。その優雅かつ官能な舞に、近くを通ったクレオパトラがやられたのはまた別の話である。
さて、狂喜乱舞する在原業平に気付くこともなく巡伊は銀色のディスクを機器にセットした。
リモコンが見当たらなかったため、仕方なくテレビ本体のボタンで操作を行った。慣れない操作で手間取る巡伊の横で狩衣の袖を引きちぎって喜びを表す在原業平は、そのもたもたした手付きに苛立った。
あやしうこそものぐるほしけれ!
彼の苛立ちは頂点に達した。
彼は霊体というメリットを最大限に生かしてタンスの裏に落ちていたリモコンを発見し、勝手に操作を始めた。
巡伊は勝手に操作されていくテレビ画面に気付くことなく、テレビ本体のボタンをいじり続けた。
しかし、彼の操作は突如終了させられた。
耳元のスピーカーからとんでもない音量で女性の悲鳴が流れてきたからだ。
いよいよ在原業平は大興奮して着ていた引きちぎられた狩衣の袖の布に、せえらあ服なるものはいとをかし、と書き付けた。
しかし、巡伊はその悲鳴から、そのDVDをスプラッタ映画と判断し、怖がりの彼は画面を見ることなく電源スイッチを切った。
すると彼の耳には男の悲鳴が聞こえた。切ったはずなのに、とテレビ画面を覗き込んだ彼の耳にまた悲鳴のような声が飛び込んできた。
いとすさまじ!この女のやうなをのこ、いとすさまじ!
在原業平は理不尽な事を叫びながら部屋中を駆け巡った。
凄まじい形相をして、なにやら服を引きちぎったパンクファッションの白っぽい霊体を偶然目にした彼もまた大パニックに陥って、悲鳴を上げた。
狭いアパートでその悲鳴はよく響き、彼は近隣住民の総スカンをくらった。
翌日、DVDを持ってきた友人がぶっ飛ばされたのは言うまでもない。
30分くらいで書いたのでクオリティ低です。
在原業平という人物を最近、学校で習ったので登場させたくて書きました。
もともと巡伊神代は別作品の主人公でした。その作品も近々投稿したいと思っています。
ではでは。