新しい同胞 後編
周りを見渡していると、扉が開いた。その中から全身真っ黒な少年が出てくる。その姿はまるで怨霊の様で、少し警戒してしまった。この少年が黒霊なのだろうか。
「お前が…黒霊か?」
話しかけてみる。するとその少年は突然シェールに抱きついた。
「そうだよっ!僕は白鷺黒霊!」
「!?」
シェールが驚き目を見開く。
「お前が僕と同じ存在!?なぁ!そうなんだろ!」
「そ、そうらしいが…」
黒霊がシェールから離れた。そして、お辞儀をする。
黒霊は小さく、150cm程しかない。黒いマフラーをし、黒いコートを着ている。髪は長めでふわふわだ。目は赤。
この白い空間ではとても目立つ。
線が細く、まるで女のようだ。
「やった!ついに僕にも同胞が!!」
同胞。つまりそれは同じ存在を指しているのだろうか。その前に同じ存在とは一体なんなのだろうか。
同じ存在…か、と眉間に皺を寄せた。
「黒霊。シェールさんが困っているだろう」
旋利が注意する。
この空間にもしっかりした人はいるんだなと安心した。黒霊が離れると律亜が指パッチンをし、椅子をだした。
「まぁ座れ。エレクトリックは地べたでいいよな?」
「いいわけねぇだろ」
エレクトリックが青筋を浮かべる。この二人は仲がわるいのだろうか。
同じ存在だからこそなのか。喧嘩するほど仲が良い…いや、そういうことではないか。
律亜はエレクトリックの分の椅子も渋々だすと、分厚い本を手に取り、パラパラとめくりだした。
「お前らを呼んだ理由を言おう。エレクトリック。お前には紫雨勝也の能力を報告してもらっただろう?」
「そうだったのか?エレクトリック」
「あぁ。何が目的なのかさっぱりだけどな」
あの時ぼおっとしていた理由がようやくわかった。
律亜の命令は妹の戦闘よりも大切なのか。脅されているのか。
「あの目的はまだいえんが、これからお前たちにしてもらいたいことがあるんだ。紫雨勝也は炎、水となる天海久留夢、土となるケルビム、風となる青猫。この三人の能力を見てほしいんだ。」
エレクトリックは平然とした顔で律亜の話を聞いている。
自分の部下である久留夢も含まれている、ということにビックリした。というか、シエロネーロが二人も含まれているではないか。これは、いつか自分もターゲットにされるのだろうか。
考えるとこの空間の住人を警戒してしまう。自分がターゲットにされたら何をされるかわからない。やはり警戒した方がいいのだろうか。
「あ、会長。どこに行っていたんですか?」
「お前おせーよ…」
生徒会室に帰ると煩い部下達が待ち構えていた。
この二人がいない間にシェールと抜けだした。だが、帰って来た時にこの二人をどう促すか考えていなかった。
こちらをにらんでいる左季から目をそらさないようにする。
「シェールと少し…な」
「また何かトラブルですか?」
「いや」
話しながら椅子に座る。白ばかり見ていたせいか目がちかちかする。
あぁ、やっぱりあの空間とあの空間の住民含めて嫌いだ。
「さぼり決定だな」
「そうですね」
「さぼりじゃねえよ。仕事も終わらせたしな」
引き出しを開け、資料を取りだす。
「…珍しいですね」
左季が驚く。そんなに驚く事か、とエレクトリックは拗ねた。
確かにエレクトリックが仕事する事は少ないのだ。一気に仕事を終わらせる事など、めったにない。
期限が過ぎた時にはスカルも手伝ってくれている。
まぁ、左季はいつも先に帰るんだが。
「今回は俺がつき合わなくてもいいんだな。良かった…。また睡眠時間が削られるのかと…」
「すまんないつも」
スカルには本当に感謝している。昔から文句を言いながら何かと手助けしてくれたりする。
病院にいた時もよく世話をしてくれた記憶がある。
「今回は許しましょう。よく頑張りましたね、会長」
「おう」
「そういえば今日は戦闘しないのか?もう4時だぞ」
時計を見てスカルが問う。まぁ、あんな所に連れていってしまったのだ。シェールも色々考えて戦闘どころではないだろう。
こちらから戦闘を仕掛ける事はできないので、困ったものだ。
けれど、シェールの指示が無くても紫雨達は戦闘を仕掛ける事ができるのだろうか。
…その前に一つ思った事がある。何故、あんな怪しい奴らに従っているのか。
自分でも疑問に思う。疑っているはずなのに従ってしまうのだ。何か魔法でもかけられているのだろうか。
よくわからない。
「…エレクトリック?」
「あ…すまん、考え事をしていた」
「大丈夫かよお前…。で、結局戦闘はどうするんだ?」
「今日はやらなくてもいいだろ」
「そうですね。最近は連続でしていますし…皆疲れているでしょう。」
沈黙。
またエレクトリックが考え出す。
その姿を見てスカルは疑問を感じていた。
コツコツ、と乾いた靴の音が白い空間に響き渡る。体中に指揮棒を装着したコートの少年は普段黒崎兄弟が座っている椅子へ腰掛けた。
「黒霊が世話になったみたいだな。黒崎」
そう呟くと本に目をやった。
それを手に取り、パラパラとめくる。
「エレクトリック・エレフェント、黒崎律亜。霧島瑞葵、黒崎旋利。スピア・エレフェント…」
どんどんめくっていくとあるページに辿りついた。それは『スピア・エレフェント』のページである。幼少期と思われる頃の写真と、現在の写真が貼ってある。
「…」
自分の名前を見つけるとそれをなぞり、『スピア・エレフェント』の名前もなぞった。
「俺と同じ存在・・・。」
神妙深くつぶやくと席を立ち上がって、青実学園図書室への扉を開いた。
―同じ存在、それは運命
「はぁ…疲れた…」
「そうだな」
瑞葵とスピアは二人だけの廊下を歩いていた。今の時間は皆それぞれの部活の場所へ行っている。
それに対して、雑用と戦闘専門の『BF』は戦闘が無い日は雑用をしているのだ。それが終わった後はとても暇である。
BFの部室へ辿り着き、扉をあける。
「ただいまぁー」
「おかえりであり〼(ます)」
『~〼(ます)』が口癖のケルビムは自称機械だ。顔の左半分を仮面のようなもので隠している。髪は藤色で一つに束ねている。
そんなケルビムがBFの部室で何をやっているかというと―。
「どう?変身のシステム」
「結構進んでいるであり〼。けど、やっぱり傷から防具を作りだすというのは難しいであり〼ね…」
新しい導入システム『変身』。その名の通り、変身する事ができるのだ。
しかし、それを作るのに戸惑っている。ケルビムは簡単なシステムなら五分で作れてしまうが、『傷から能力を引き出す技術』を再現するのは難しいらしい。『戦闘』のシステムを作った時の資料があれば簡単だが、残念ながら何も残っていないのである。
「がんばってくれ」
「はい!あ、そういえばスピアさん」
「何?」
「スピアさんに訪ねてきた人がいたであり〼」
スピアが顎に手を当てる。
「誰かと何か約束してたっけ…」
「青実学園の生徒であり〼。制服を着ていたであり〼」
青実学園の生徒であれば怪しい人ではない。
制服を着ていない人は全て部外者とされる。部外者とみなされた場合は生徒会に連れられてしまうのだ。
「そっかぁ…わかった」
スピアがまた考える。
「…スピア。制服を着ていてもそいつは部外者かもしれない。気を付けた方がいい」
瑞葵はそう言い切った。
なぜなら、この学園の図書室の奥には怪しい人達がたくさんいるからだ。
その人達は外へ出る時は多分制服を着てくるだろう。最初に会った時は制服ではなかったが、人目の多い所へ行く時は私服か制服だと思われる。
「うん、そうだね。心配してくれてありがとね」
「いや、いいんだ。気にしないでくれ」
「企画長は優しいであり〼」
「そうでもない」
瑞葵がそこに置いてあったペットボトルのお茶を飲む。茶菓子も置いてあるので、それも食べる事にした。
あるところ
「あいつ…本の中見やがったな…」
律亜が本をめくりながらつぶやいた。この本は黒崎兄弟だけが見る事を許される本なのだ。
他の人が見た所で何かあるわけでもないが、何だか嫌なのである。
「まったく…。…あいつ『スピア・エレフェント』のページ開いたな。一応気になるのか…同胞が。素直に見せてくれって言えばいいのにな」
その人物が黒崎兄弟にあまり会わない理由。それは一方的に毛嫌いされている事にあった。
嫌われている理由はわからないが、律亜と旋利はあまり興味がないようだ。律亜はその人物と仲良くなりたいようだが、それは無理だと思われた。
「…しばらくしたら会わせてやるか…」
そう言い本を閉じた。
†久しぶりに更新しようと思ったのですが、話の内容を自分自身が忘れてしまって…書き直し&読み直しです
†けっこう書き方を変えました!