武器
あるところ
旋利が紅茶をカップに注ぎ、律亜に渡す。
「・・・さて、今日は誰に協奏曲を奏でるか・・・。」
「・・・本を開こう。」
厚めの本を取り出しパラパラとめくる。
白く静かなこの部屋に、乾いた音が響く。
―
瑞葵は考えていた。あの人物は誰なのか。
一日中考えたがわからなかった。しまいには、頭を抱えてスピアに心配されてしまった。
こんなに考えたのは人生で初めてかもしれない。
一応今日は、一時間しか授業がないのでBFの部室に行くことにした。考えながら廊下を歩く。
そして、頭を両手で抱える。
横を通って行くクラスメイトが心配そうにこちらを見るが、気にしない。
すると、後ろから声をかけられた。
「やぁ。」
驚いて振り返る。そこにはあの白髪の少年が立っていた。
何か変わっているなと思いよくよく思い出してみると、髪を切った事に気がつく。
そんなことはどうでもいい。
「!!お前は・・・あの時の・・・。」
「僕は旋利。黒崎旋利だ。いきなりごめんね。」
勝手に自己紹介をされてしまった。頭の中がパニックになる。
落ち着かせ、とりあえず今まで悩んでいた事を口にだす。
「・・・お前は・・・どこからきたんだ。」
「・・・じゃあ、案内するよ。もう一人も着いてる頃だし。」
「もう・・・一人?」
「さぁ、ついてきて。」
わけのわからないまま手を引かれ、図書室の方向へ足をすすめる。
―
あるところ
「いきなり手を引っ張られたと思ったらまたお前か!!」
フォンドブランク生徒会長、エレクトリック・エレフェントが手首に縄を巻かれ、椅子に座らされていた。
何故この様な状況になってしまったのか、エレクトリック自身もわからない。
「そう騒ぐなよ。」
律亜はにやにやしながら手に持っていた本を机に置いた。そして紅茶を啜る。
その姿をみて少しイラッとした。
「ていうか、お前は誰なんだ!」
「会った時も名前言ったけどな・・・。俺は黒崎律亜。よろしく♪」
ニコッと笑い手を横に振る。
「よろしく。じゃねぇよ!」
「兄貴、連れてきたよ。」
扉を開き、旋利と瑞葵が入ってきた。そして、エレクトリックと瑞葵が同時に驚く。
「ここは・・・。って、エレフェント先輩がなぜここに・・・。」
冷静に状況を分析する瑞葵はすごいと思う、とエレクトリックは心の中で思った。
「俺も分からん・・・。トイレ行ってたらいきなりこいつが現れて・・・。強制的に連れてこられた。まったく・・・。」
「兄貴・・・。強制的に連れてきたのか・・・?」
旋利が鬼のような形相で律亜を見つめる。
この双子もエレクトリックと左季と同じような関係なのだろうか。
「そう怒るなよ旋利~♪」
双子の会話についていけない二人。
そろそろ本題にうつりたいが、二人が事情をしっているのでこちらから話を言い出せない。
「(咳込み)さて、本題だが、お前たちに命令だ。」
「命令・・・?」
二人が疑問に思っているそばで、律亜が本を取り出し机の上に乗せた。
本は不思議なことに、パラパラとページがまくられ、あるページを開いた。
「お前らには働いてもらうぞ。」
律亜が本を手に取り、また話し始める。
「働くってなんだ・・・?」と二人は思い口に出そうとしたが、それは律亜の言葉で遮られてしまった。
「俺はエレクトリックを操る。旋利は瑞葵を操れ。」
「あ、操るって・・・どういうことだよ。」
やっと質問ができた。勝手に話を進められては困るのだ。
「この青実学園は今危機にさらされている。青実学園の崩壊を防ぐためにお前らに働いてもらうことにした。」
青実学園の崩壊・・・?何を言っているんだこいつは。
エレクトリックは顔を少し歪ませた。
「とりあえず、仕事が来たら僕から君たちに心を通して伝えるから。」
旋利がエレクトリックの縄を解き、瑞葵と共に扉の方へ誘導する。
「じゃあ、よろしく。」
「あ、おい!」
図書室に扉のしまる音が響いた。
―
その後、エレクトリックは廊下を一人歩いていた。
空の色はまだ青く、赤くなる気配はない。
廊下には靴の乾いた音しか聞こえない。
それにしても、あの双子は一体何なのだろうか。青実学園の崩壊とは何なのだろうか。
一度に多くの事を言われ、記憶の整理ができない。
一応、生徒会室に行くことにした。
というか、もうここは生徒会室の前だ。
ガララ・・・と扉の開く音がする。
「会長!!遅いです!!」
「そうだ。遅いぞエレクトリック。」
「すまんすまん。」
改めて紹介をしておこう。
まず、敬語で話している黒髪の少女は土方左季。
戦闘の際は、鬼の姿になることもできる。
二人目は、スカル・スペクター。紺色の髪に青い瞳をもっている、美少年だ。
前髪を真ん中で綺麗にわけている。
イタリア出身で、エレクトリックの幼馴染だ。
エレクトリックにいつも絡まれている。
俗に言ういじられキャラで、生徒会の常識人No2だ。だが、どちらかというとスカルの方が常識人かもれない。
左季もエレクトリックと共にふざけることが多くあるので、それにツッコんでいるのがスカルなのだ。
「ふぅ・・・あ、土方お茶。」
椅子に座り、足を組む。
「嫌です。自分で淹れてください。」
「あ、ドクターペッパーならあるぞ。」
「ドクターペッパーだけは勘弁。」
そう、どうでもいいがエレクトリックはドクターペッパーが嫌いなのだ。あえてヤバそうなものを避けていたが、スカルに無理やり飲まされてしまったのだ。
そのせいで吐いてしまい、トラウマになってしまった。
しばらくたっても誰もお茶を淹れてくれそうにないので、自分で淹れることにした。
今は左季とスカル以外の人がいないので、こき使うことができないのだ。
「・・・はぁ・・・命令・・・ねぇ。」
だるそうにつぶやく。そのつぶやきをスカルは聞き逃していなかった。
「?どうしたんだよ。」
「いや、。なんでもない。」
エレクトリックが珍しく仕事を始めた。
お茶を啜りながらペンを走らせる姿を見て、二人は驚いた。
「・・・今日は槍が降りますね。」
「いや、核爆弾が降るな。」
「お前ら、人を馬鹿にするな!!俺だって仕事くらいするわ!!」
―
一方、瑞葵はBFの部室にいた。
部室の中にはスピアと千込もいた。
だが、三人はそれぞれ違う事をしている。
スピアは剣を研ぎ、千込は仮面を拭き、瑞葵はホワイトボードに落書きをしている状態だ。
他のメンバーはコンビニへ出かけているらしい。
「・・・あ、そういえば瑞葵はどこいってたの?」
「・・・よくわからない。」
「んだそれ。」
千込が頭にハテナを浮かべている。
説明しようがないのだ。というか、説明できない。
図書室に何故あのような扉があるのか、あの双子は一体誰なのかもわからない。まぁ、名前はわかるのだが。
その前に、命令とは何なのだろうか。
青実学園が危機にさらされている?そんな馬鹿な。
そんなことを思いながら、スピアが淹れてくれた紅茶を一口飲む。
『フォンドブランクの皆さん。戦闘を開始いたしますので、中庭に集合してください。』
アナウンスと共に瑞葵がガタッと立ち上がる。
「スピア!千込!行くぞ!」
「「おうっ!」」
そう返事をし、中庭へ向かった。
―
「あら?初めまして。ですわね。」
「?貴方は・・・?」
スピアが名前を聞くと、その人はくるりと一周回って、お辞儀をした。
お嬢様のようなオーラを醸し出している。
「私は天海久留夢と申します。今回は、誰と戦闘しましょうか。」
久留夢が言い終わったあとに、フォンドブランクの生徒会が来た。
「あ~めんどくせぇのに何で来なきゃなんねぇのかな。」
「会長。殴りますよ?」
「!」
エレクトリックを見た久留夢が顔を赤らめる。
瑞葵には頬を赤らめた意味がわからなかったが、スピアと千込は理解したようだ。
「んで、何。俺が戦えばいいのか。・・・で、相手は久留夢か。」
「わ、私ではありませんわ!」
久留夢の心の中では「下の名前で呼ばれた・・・!」と連呼している。
いままでは天海と呼ばれていたのだ。
「?違うのか。」
エレクトリックが面倒くさそうに返事をする。
それを見ていたスカルがため息をつく。
「はぁ・・・一応お前達の会長連れてこいよ。会長同士で戦え。」
「会長は日光に当たるとしんでしまいますの。」
「貧弱だな!」
スカルが素早くツッコむ。
そう、シェールは極度のもやしなのだ。日に当たるとすぐに干からびてしまう。
なので、曇っている日と雨の日にしか戦闘に参加しないのだ。
「そのかわりに、紫雨に戦ってもらいますの。」
紫雨が中二的なポーズをしてこちらに向かってくる。
「紫雨か・・・。仕方ねぇ。俺が行く。」
「戦闘の時だけ会長らしくなるよな、お前。」
「やった(小声)・・・では、戦闘を始めましょう。」
久留夢が手を上げ、アナウンス係へ支持を送る。
『戦闘開始!』
「お前は二秒で仕留めてやる。」
紫雨が返事をする前に、エレクトリックが紫雨の短剣を叩き落とす。
「なっ・・・!」
『戦闘終了!』
「ふぅ・・・。」
皆驚いていたが、すぐさまフォンドブランク側から歓声が上がった。
久留夢もなぜか拍手していた。
―
「たったの二秒か・・・。すごいな。」
たしかに、エレクトリックの大剣と、紫雨の短剣では、どちらが勝つかは明確だった。
それに、エレクトリックの大剣は普通の武器との重量の差がすごいのだ。
ちなみに、大剣は2t。
それを片手で軽々持ち上げるのだから、それほどの筋肉があるだろうと思われるが、エレクトリックは長年病院にいたので、筋肉はあまりついていない。
軽々持ち上げられる理由。それは能力だ。
エレクトリックは『不死』と『力の上限を解放する』能力を持っている。
この『力の上限を解放する』能力の影響だ。
「お、ついに俺を認めたか。」
「認めてねーよ。」
「そこ、イチャイチャしないでください。」
「「イチャイチャしてねーよ!!」」
珍しく、二人が息ピッタリにツッコミをした。
―
あるところ
「さて、明日からあの二人を操るか。」
「ターゲットは・・・紫雨勝也。炎。」
旋利がパラパラと本をめくり、シエロネーロの人物の名前を呟く。
「どんどん絶望を増やしていこう。」
律亜がにやりと笑い、また紅茶を啜った。
―旋律と共に不幸が訪れる