Blue Film
アパートの一室からオッドアイを持った少女が姿を現した。
静かなアパートには少女が鍵を掛ける音しか聞こえない。
少女の名前は霧島瑞葵。
青実学園 赤学年。つまり二年生である。
青実学園とは、如月山があった場所に建てられた学校である。如月山から有害なガスが漏れ、如月病という病が流行したという。今はガスは漏れていないが、また漏れる可能性が十分にあるので、青実学園の基盤で穴をふさいでいるのだ。そんな、府箕県くらみけん 如月市きさらぎしを守っている青実学園に瑞葵は友人と二人で通っている。
瑞葵はアパートの階段を駆け下り、通学路に足を着けた。
「瑞葵ー!」
真紅の目を持った少女が、手を振りながら瑞葵を呼ぶ。
彼女の名はスピア・エレフェント。
ドイツ人だ。兄と一緒に海を渡って日本に来たらしいが、何故来たのかはスピア自信でもわかっていないらしい。本人曰く、多分物ごころつく前に日本にきたのかもしれないそうだ。
スピアと出会ったのは、墓地である。墓参りに来ていた瑞葵に線香を売っている場所をスピアが聞いた事が仲良くなったきっかけだった。
今は、瑞葵の大親友である。
「おはよう。」
「おはよう。ていうか、またブレザー着てないじゃない・・・。」
スピアは面倒見が良い。家族に対しても、友達に対しても。
それは、子供を持っている人から見れば「しっかりしていて良い」と思うと思うが、瑞葵からしてみればとてもいらいらするものだった。
けれど、自分が校則を守っていないのは事実。上手い反論ができない。
「・・・めんどいんだよ。」
瑞葵らしい返答だ、とスピアは思い、呆れた。
「まぁいいや」と言い瑞葵の手を引く。
瑞葵は少し驚いたが、アパート近くの公園を見るともう既に登校時刻の10分前だったので、「あぁ、これは走り出すんだろうな」と思い走る準備をした。
やはり、スピアは「ほら、駅に行くよ。」微笑んで走り出した。
「おう。」
そして、二人は青実学園生徒用の駅へと向かった。
―
機械に学生証を通し、電車に乗り込む。
青実学園のショッピングモールに、二人はよく行くので、学生証を通す作業は結構慣れていた。
電車に乗り込むと、じゃれあう女子生徒や、音楽を聴いている男子生徒などで溢れかえっていた。
瑞葵達は、丁度いい席を見つけ、そこに座ることにした。
「今日は何をするの?」
「んー。そろそろ"BF"をつくろうと思っている。」
「そうだね。そろそろ作らないと。」
そう、瑞葵達は自分たちの部活『Blue Film Project』をつくろうとしているのだ。
一学年の頃は作れなかったので、二学年になったら作ろうと約束していた。
瑞葵の理想の部活は『人を助ける部活』。常に瑞葵は、正義感にあふれているのだ。
『青実学園噴水前。お荷物のお忘れがないよう―』
機械のような声が特徴の車掌の声が電車内に響く。
「よし、行こう。」
スピアが席を立ち、外へ出ていく。
春と言えど、まだ肌寒い。微かに白くなる息を瑞葵は見つめる。
「まだ寒いな。」
「そうだね・・・。風邪ひかないようにね?」
そんな他愛ない会話をしながら、家一軒分の土地はつかっているであろう玄関へ向かう。
そして玄関で靴を履き替え、二人は教室へ向かった。
―
二年A組。
A組の担任はT先生。皆からそう呼ばれている。身長が生徒より小さく、いつも土台を持ってきて授業をしている、七三分けの面白い教師だ。
だが、まだそのT先生は来ていないようだ。
「あ、マリアおはよう。」
「ん、おはよう。」
静かに本を読んでいるのは、イギリス人のマリア・リーファン。
栗色の髪と目に、ポニーテイルがチャームポイント。
IQ180という頭脳を持っている『人間コンピュータ』。たまに何かがプツンと切れたようにいきなり幼女のよにはしゃぐ彼女だが、人間コンピュータと呼ばれている彼女にも1つ欠点がある。
「ねぇ、何読んでるの?手作りっぽい本だけど・・・。」
「スイカ太郎。」
「え?ス、スイカ?」
彼女の欠点は、ろくな小説を書く事ができない事。
彼女が書いた小説はろくなものを見たことがない。例えば、浦亀次郎、兎の仇討etc...
とにかく文才が無いのだ。しかも、どこかで聞いた題名を使っている。
IQ180を持ったマリアに、なぜ文才がないのか気になる。まぁ、誰しも欠点は一つぐらいある。
「マリア・・・。それって桃太郎じゃ・・・。」
「違うオリジナル。」
即答だ。自分の考えを捻じ曲げたくないタイプなのだ。
スピアは中身が気になってきていた。
「じゃあ読ませてみてよ。」
マリアに本を渡され、それを受け取ると本をパラパラとめくる。
そして、読み上げる。
「”昔々あるところにおじいさんとおばあさんと桃太郎がいました。”って、なんで冒頭から桃太郎でてんの!?」
「スイカ太郎だから。」
「はぁ・・・。はい。ありがと。」
スピアがマリアに本を返すと、マリアの隣に座った。瑞葵も続いてスピアの隣に座る。
「まあいいや。そういえば今日の授業なんだっけ?」
「今日は数学のみ。あとは部活。」
青実学園は、ほとんどが部活だ。青実学園の偏差値は大丈夫なのだろうか、と心配する時がたまにある。
マリア曰く、今日はHRが放課後にあるらしい。
「・・・寝るわ。」
瑞葵は机に顔を伏せた。
「コラ。」
スピアがもっていたノートでペシッと叩く。
楽しく話をしている中で、すでにT先生が来ている事は誰も知らなかった。
―
「はぁ~。授業おわった~。」
スピアはお腹をさすりながら廊下を歩いていた。「背中とお腹がくっつきそうだよ・・・」と嘆き、寮の一階にある食堂へ向かう。
一方、瑞葵は廊下にあった新聞部の記事を読んでいた。今回の新聞は面白いと定評だったので、少しきになったのである。
『青実学園のイケメンランキング作ってみました!』
「・・・どれどれ・・・。」
一位はエレクトリック・エレフェント。二位はシェール・ブランク。三位はスカル・スペクター。生徒会にイケメンが集まっているそうだ。
ふーん、と呟きながら眺める。
そこで瑞葵に一つ疑問が浮かんだ。
「・・・ん?エレフェントって・・・スピア?」
そう、エレフェントというファミリーネームはスピアのファミリーネームと同じなのだ。
だが、スピア以外にも”エレフェント”というファミリーネームを持った人は一人くらいいるだろう。
「あれ?瑞葵?新聞読むなんて珍しいね。」
本人がやってきた。ここは正直に聞くべきかと考える。そうだ、ためらう事はない。これは良い事でも悪い事でもないただの疑問なのだから。
だが、結局いいだせなかった。
「・・・まぁ、いいか。」
「え?何が??」
―
「え~と。ラーメン1つ。」
「はいよっ。」
スピアは男子寮の一階にある食堂でラーメンを注文し、座った。
もう、お腹がヤバイので早く作ってくれと思いながら俯く。瑞葵はその光景をみて、少々楽しんでいた。
普段、「おなかすいたぁ~」などと言わないスピアが「お腹がやばい」とぶつぶつ呟いているのだから、珍しいと思ったのだ。
「よう、スピア。」
隣りに人の影があることに気づいたとたん、懐かしい声が聞こえた。長髪の右目が隠れた美少女。
まさか、と思い該当する人物の名前を言う。
「レイア・・・?」
「あぁ。」
真紅の髪をなびかせ、スピアの隣に座った。
彼女は、レイア・フラーヴォ。
イタリアに住んでいた彼女は、たまにドイツのベルリンへ遊びに来ていたので、スピアとは幼馴染なのだ。本人曰く、マフィアをやっているらしい。
「やっぱり!レイア!!久しぶり!元気だった!?」
スピアはレイアの両手を握り、笑顔になった。
さっきまでの空腹を弾き飛ばすほどのエネルギーをレイアが与えてくれた。
一方、その光景を見ている瑞葵はレイアが誰なのかさっぱりであった。
「あぁ。」
レイアはいままでどのように生活してきたか、何をしていたかを教えてくれた。レイアが昔入っていたマフィアはとっくの昔に潰れたそうだ。日本に来る前は日本語を勉強し、なんとか習得したらしい。
レイアはとても努力家だ。ドイツ語も徹夜で覚え、スピアに会ったらしい。
笑い合っていると注文されたラーメンが出来た。
一方、瑞葵はレイアの性格などを分析するために、獣のような目でレイアを見つめながらオムライスを食べていた。
「そういえば、なんでレイアがここに?」
スピアがラーメンをテーブルに置き、レイアに問いかける。
「そりゃあ、この学園に通うからだよ。」
「・・・もしかしてHRはそのために、かな。」
「そうだ。まぁ、これからもよろしくな、スピア。」
スピアの顔が笑顔になった。
今日のHRが楽しみだ。
―
2年A組にて、HR開始。
『キーンコーンカーンコーン』というチャイムの音と共に、2年A組の生徒は始まりのあいさつをした。
レイアの言った通り、HRで自己紹介をした。
T先生の横に立つと、余計にレイアの高い身長が際立つ。身長が高いのはいいなぁ、とスピアは思う。
「イタリアから来た、レイア・フラーヴォです。趣味は酒を飲・・・。まぁいいか、よろしくおねがいします。」
趣味にツッコミたかった。とても。スピアはその感情を押さえながら拍手を送った。
それに続き、皆も拍手を送る。
なぜか女子に人気だった。
その後は転校した人はわかると思うが、レイアは質問攻めされていた。主に女子に。
横に立っていたマリアがレイアに近づきたそうにしていたので、スピアは背中を押してあげた。
―
職員室前
瑞葵とスピアは”BF"をつくるために、職員室前に来ていた。
途中でマリアに会って、スイカ太郎を読まされたりしたため、少々来るのが遅れてしまった。
「マリアに捕まると長いからなぁ。」
瑞葵が愚痴りながら職員室の扉を開ける。
数分後。瑞葵が資料を持って帰ってきた。
何やら憂鬱そうな顔をしている。そう、職員室に入るのはとても勇気がいるのだ。先生からの威圧感が半端ない。
「・・・霧島瑞葵と。えーと、副部長はスピアでいいんだよな。」
「うん。」
瑞葵が槍と書いたのでスピアはチョップを食らわした。スピア=槍。だからといって、槍と呼ばれるのは嫌いなのだ。もし瑞葵以外の人が「槍」と言ったら少しキレるだろう。
「はぁ・・・。何とか、部活作れたね・・・。」
喜びにしたっていた時、校内放送が流れた。
『フォンドブランクの皆さん。玄関前にて、戦闘をしますので、集合をしてください。繰り返します―・・・』
「チッ。行くぞ!」
瑞葵が職員室前の廊下の窓から飛び降りた。
―
集合場所に着くと、紫雨率いるシエロネーロの軍団が待っていた。
一方、フォンドブランクも集まっていた。
「よぉ。過去の記憶を秘めし者、瑞葵。」
「その言い方は頼むからやめてくれ。」
紫雨はイケメンランキング四位を得ていたほど顔が整っている。
だが、中二病というのが玉に瑕と女子の間で言われている。
下の名前は勝也。紫雨勝也だ。
髪は白。目は赤。ピンを右側に付けている。
たまにピンを無くしてしまうので、女子から借りる時があるそうだ。なので、ピンク色のピンを付けている時もある。
シエロネーロの副会長を務めている。
「で、誰と戦いたいんだ。」
瑞葵が面倒くさそうに紫雨を見つめる。自分は面倒くさいので自分達以外の生徒にさせたかったが、ここで負けるわけにもいかないので二学年最強のスピアに任せることにした。
「んー。んじゃ、スピアで。」
スピアが前へ出る。その目は狂気に満ちていた。
戦闘は真面目にやらなければならない行事だ。ほぼ毎日やっている戦闘に出場し、勝てば勝つほど成績が上がっていく。どんなに学力が乏しくても大丈夫、というわけだ。
「上等だ、第三の目を秘めし紫雨。」
そしてこのスピア、のりのりである。普段は常識人だが、なぜか戦闘の時は性格が変わって(?)しまうのだ。第三の目が相手にないのに、変な二つ名を付けてしまう中二病になってしまう。
「仲良くやろうぜ。竜から生まれしスピアよ。」
一方、紫雨は通常運転である。
「もうやだこの会話。」
見ていたマリアがそう呟いた。普段はスピアにボケをかましているマリアだが、ここは自分がツッコむしかないと思ったのであろう。
戦闘の準備が開始した。
スピアは双剣を手から出す。
すると、同時に頬にフォンドブランクの模様も浮かび上がった。
紫雨も短剣を何本か出すと、頬にシエロネーロの模様が浮かび上がった。
この模様は二つの生徒会のどちらかの味方であるかを判別するためのものだ。生徒会の頂点に立つ津島快斗は両方の能力を使う事ができるが、一般生徒は光と闇のどちらかの能力しか使う事ができない。
『戦闘開始!』
「おりゃあああ!!」
合図と同時にスピアが双剣を構え、紫雨に向かって走った。
すると、ずっとこちらを見ていた紫雨がスピアの剣の柄を掴む。瞬時にスピアを押し倒す。
「!!うっ・・・!!」
紫雨がスピアに馬乗りになり、首を締め付ける。観戦している一般生徒がざわざわと騒ぎだしていた。
「う・・・ぐ・・・。」
苦しそうにもがくが、一向に離れる気配はない。そして、スピアの意識がなくなりそうなところで―
「これで俺の勝ちだ!!」
「いや、反則だ!」
謎の声と共に影が上から降ってきた。
その影は大剣を持っている様に見える。あたりの煙が消え、その姿を見ることが可能となった。紫雨の手がするっとスピアの首から離される。
「に、兄さん・・・。」
意識をだんだんとりもどしたスピアの言葉をちゃんと瑞葵は聞いていた。
あぁ、やっぱりか。スピアは他の生徒より戦闘能力が異様に高いのだ。それは昔剣術をならっていたからなのか、と聞くがスピアは違うと言った。
ならばなんでだろうかと考えた末、答えは今日みた新聞に載っていた名前につながった。
「・・・なるほど。」
スピアが強い理由。それは兄の能力を引き継いでいたのだ。
「お、お前・・・!!」紫雨が目を丸くする。
青い制服。それは生徒会役員の証だ。
大きな大剣を薙ぎ払う。
「俺はフォンドブランク生徒会会長、エレクトリック・エレフェントだ。」
一斉に女子の黄色い声が飛び交う。
『あの人がフォンドブランクの会長?ちょーかっこよくない?』
『わかるわかる!背も高いし!!あとで会ってみようかな!』
ギャル系の女子が後ろで騒いでいる。
エレクトリックは上から降りてきた時に元に戻ってしまった前髪を、片手で素早く真ん中にわけスピアに近づいた。
「・・・兄さん。」
少し涙目になっている自分の妹を、エレクトリックは優しい目でみつめる。
「大丈夫か?スピア。」
そして、手を差し伸べられ掴む。
スピアが立ち上がると同時に手を離し審判の所へ向かう。
「よし、戦闘を続行してくれ。次はちゃんと審判しろよ・・・?」
少し睨んだだけでも審判の生徒はびくっと肩を揺らした。
『戦闘開始!』
―
瑞葵は、スピアが戦っている間に立ちくらみがしたので、保健室へ行く事にした。
スピアには悪いと思っている。
保健室の椅子に座り、ふぅとため息をついた。部屋には誰もいないので、とても静かである。保健室の先生はきっと戦闘の様子を見ているのであろう。
また、ふぅとため息をついた。
「チェスが進まないな。」
「!!」
驚き後ろを見てみると、白い髪をした男性が、先程はそこになかった椅子に座り、同じく無かったテーブルの上でチェスをしていた。
男は髪を後ろで束ねている。目は、綺麗な赤だ。
そして、手には紅茶の入ったカップ。
「・・・貴方は誰ですか。」
「んー。まぁ、君の未来を操る存在・・・かな。」
男は持っていたナイトのコマを、そっとチェス板の上に置く。
瑞葵にはまったく意味がわからない。
未来を・・・操る存在・・・?
この人は何を言っているのだろうか。
「そうだな・・・。君はチェスで言うと・・・。キングだな。君は”二人のナイト”に守られている。」
意味不明な言葉をまた口走る。その言葉を疑問に思いながら問いかける。
「どういう・・・ことですか。」
男はふっと笑いキングのコマを持つとそれを空へ投げた。そのコマはどこか瑞葵に似ているような気がしたが、気のせいだろう。
その瞬間、男が姿を消した。消えたのは、ほんの一瞬であった。まばたきをしている間に消えてしまった。
瑞葵は、ハッと目を見開き、あたりを見回すと男のいた所を見つめ溜息をついた。
「・・・夢・・・か?」
―あの人はいったい誰なんだ・・・?
そう思いながら空を見つめた。
空は、まだ青い。
―
戦闘では見事スピアが勝った。
エレクトリックとハイタッチをし、マリアともハイタッチをする。
スピアの勝利はフォンドブランクの勝利なのだ。勝てばフォンドブランクの生徒全員の評価が上がり、負ければ評価が下がる。まけた紫雨は、今頃どうしているのだろうか。
その後、スピアはマリアと共に瑞葵のいる保健室へとむかった。
「瑞葵、大丈夫?」
「・・・あぁ。大丈夫・・・。今から部室に行こうかと思う。」
青実学園はその日に部をつくれば部室を用意してくれるのだ。
瑞葵は先程あった事を話さずに一緒に部室へ行くことに決め立ち上がった。
時計の針が示す時間は4時。
あと2時間で下校時間になってしまう。
三人は保健室を後にした。
SIDE:STORY「未来からの使者」
「ついに始めたようだな。」
赤髪の男性が、チェスのコマを持ちながら言った。
白髪の男性は、入って来た扉から離れ椅子に座った。
「兄貴もそろそろ動いたら?」
机に置いてあった紅茶を一口読む。
「つーか、その前にそのうっとおしい髪を切ったらどうだ。」
「・・・そうだね。」
そういい、白髪の男性はナイフをどこからか取り出した。