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三枚目:困難の中にパンツがある

 だんだんと沈んでいく夕日に合わせて、世界が少しずつ闇に染められていく。

 それに呼応するかのように、等間隔に並んだ電柱に備え付けられている外灯が光りそれ(、、)を照らし出す。


「な、なんだよこれ……?」


 葛士かつとの数メートル先に突如として現れた直径三十センチほどの漆黒の穴から、半透明の液体がグチョグチョと不快な音を立てながら地面に溜まっていくのを見て、葛士は半歩後ずさった。


「――っ! 俺のカバン!!」


 中空から尚も垂れ続けるそれを見ていた葛士は、謎の液体が自分の勉強(、、)道具(、、)が入ったカバンを飲み込んだのを見て声を荒げた。

 ――あれがなかったら、明日からどうやって授業を受けろっつーんだよ……。

 心の中で盛大に溜息を吐きつつ、キッとした目つきで自分の宝箱を汚した犯人を見やる。

 その瞬間――半透明の液体がゴボッと水中で泡を吐き出したような音を出すのと同時に、自らの一部を葛士の顔目掛けて射出した。


「――うおぁぁっ!?」


 ソフトボール大の塊がかなりの速度で迫ってくるのを見て、葛士は身体を半歩だけ捻りそれを回避する。射出された塊は葛士の鼻先を擦ると、急速に速度を失い地面へと落ちた。


「何すんだよこのスライム野郎!」


 自分へと飛ばされた塊が地面に水溜まりを形成したのを見て、葛士は物言わぬ液体スライムに向けて怒声を飛ばす。

 しかしスライムは何の反応も示さぬまま、今度は二度続けてゴボゴボっと音を出すと、再び先程と同一の塊を時間差で射出する。


「どぅわっ!」


 狙った場所はこちらも先程と同じく葛士の顔面、それも丁度中心だ。

 今度は体ごと捻り一発目は何とか躱す事に成功したものの、体勢を崩した所に二発目が飛んでくる。


「うぉぉぉぉぉぉっ!!」


 その状態から某大ヒットハリウッド映画の主人公の如く、身体を極限まで仰け反らせ何とか二発目も回避する事に成功するも――


「――しまった! パンツが!!」


 完全には避けきれず、仰け反った際の慣性で鼻に突っ込んでいたパンツが中に浮いた所を弾き飛ばした。


「このスライム野郎……、なかなかにやるじゃねぇか」


 押さえていたパンツが無くなり、鼻血が垂れてくるのを感じた葛士は片手で鼻を摘まむ。

 とりあえずあの軟体スライムが何なのかは解らないが、ひとまずはこれを止めないと……!

 葛士は冷や汗と鼻血を流しながら、じりじりと後退りをしつつもスライムに対して身構え、吹っ飛んだパンツを回収するためにチラリと振り向く。

 ……しかし、振り向いた先には吹っ飛ばされたパンツはおろか、葛士に躱されただの水と化したはずのスライムの塊すらもそこには無かった。


「……なっ!? ど、どーなってんだ!? どうして無くなってるんだよ!? 俺の――俺のパンツは!?」


 悲鳴にも似た声を上げながら葛士は自分の――とはいえ、あれは誰のパンツかも解らないし、間違っても葛士の物ではないが――パンツを見つけるため、キョロキョロと辺りを見渡す。

 ――しかしそれがいけなかった。


「がぁぁぁぁぁぁっ!!」


 スライムから完全に目を離した葛士の耳に、一際大きな泡の音が聞こえたかと思った瞬間、葛士は十メートル程吹っ飛ばされた。

 頭から地面に着地した衝撃で更に鼻血が吹き出し、頭を中心に小さな水溜まりが形成されていく。


「い、今のは……!?」


 まるで背中にバスケットボール大の鉄球をぶつけられたような痛みに襲われながらも、葛士は顔を顰めつつ何とか立ち上がり、スライムと向き合う。

 すると葛士の双眸に入ってきたのは、パンツを己の体内に取り込み、体色を鮮やかな水色から禍々しい紫色に変化させたスライムの姿だった。




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