一話目
新シリを始めちゃいました。
拙い文章ですが、楽しんでもらえたら幸せです!
では、ごゆっくりお読みくださいませ♪
「タトル」
名前を呼ばれて振り返る。
「なんだ、メカ」
そこには一匹の小さな亀がいた。俺の知り合いだ。
ボワンッ
蒸発した時の白い湯気のような煙りと共にその姿は人間の少女と化す。
「久しぶりなのに相変わらずね、タトル」
長いウェーブのかかった髪をたなびかせる美しい人間の姿になったメカは笑う。
「ああ、俺の気持ちはずっと一つだ」
前を向き直す。そこにいる一人の人間の少女を見る。
「俺は俺のできることをするのみだ。彼女を、ツキゲを守るために」
俺、タトルは人間じゃない。亀だ。5年前までこの少女、ツキゲに飼われていた。ただ、寿命を全うする前に死んでしまったんだ。それが今から5年前なのだ。
何故今生きてるのか、いや実際は生きていないんだが。詳しくはよく分からないけどどうやら幽霊という存在になったらしい。いわゆる成仏し損なった存在だ。それは恨みがあるか心残りがあるが故に死に切れなかった者がなるらしい。
俺の場合は後者だ。心残りがある。それがツキゲなのだ。
しばらく見なかったと思ってたらまた突然現れたな。そう思いメカを見ると、俺とツキゲを見比べていた。そのツキゲには俺ら、幽霊のことは見えない。だからどんどん歩いて行ってしまう。
「ふぅん、何をしたっていうのよ」
「な、何って………」
たしかにこの5年間のほとんど、俺はただ見えない幽霊としてツキゲの傍にいるしかできなかった。
「見守ることしか出来てないけど、」
「違うわよ。あの女の子があんたに何をしたっていうの、死んでも見守りたくさせるなんて」
「そっちかよ」
会話をしてる間にも離れていくツキゲを慌てて追う。その俺に、何故かメカもついてくる。
「それを言うならお前こそなんでここにいるんだ、恨みか心残りかなんだ?」
俺がここ、幽霊になってから何かと絡んでくるメカ。だがメカのことで知っているのは俺と同じ亀だったってこと。それだけだ。他は何も話してくれない。
「なんだと思う?」
メカは悪戯そうに笑う。
ああそうだ、コイツはいつも自分のことははぐらかす。人のことは聞き出すくせに。
「そんなの知るか」
そっけなく言い放つ。
だけどお前も俺と同様に人間の姿に化せれること。そこから相手は人間だと分かる。
悪意や好意、どんな思いの相手であろうがその相手の姿にはなれるようなのだ、この幽霊というものは。不思議だけど、それも一つだけ。元の姿とプラス一つ。
俺がいくら鳥になりたいと思っても鳥にはなれない。それは俺の思う相手が鳥じゃないからだ。人間だ。もちろん人間の女の子になりたいと思っても無理なのだが。どうやら性別の壁は越えられないようだ。
そして残念なことに、こういったことは全てメカから教わったことなのだ。
そのメカが珍しく自分のことを呟いた。
「ただ、人間になりたかったわ」
なんて返答したらいいのか。迷って結局黙り込む。
「人間になれたらこんな姿になれてたのよ? こんな美少女にぃ」
「自分で言うところが憎たらしいな」
「あら、タトルだって人間になりたかったんでしょ? 人間の姿の見てくれも悪くないしぃ」
「たしかに人間になりたかったが、俺は見た目なんかじゃない。理由は、」
「はいはい、ツキゲちゃんなんでしょ」
軽くあしらわれた。
悪いか。メカを横目で見る。
「だけど、本当に人間として生きてみたかったな………」
それは気を抜いていたら聞き逃しそうな、ボソッと何気なく呟いた言葉のように聞こえる。でも違う。メカという奴を少なからず知っているから分かる。きっと本音だ。
見た目がどうこうとか、ホントはそんな理由じゃないくせに。お前のその真剣な目つきにはもっと深い意味があるくせに。それくらい俺にも分かるさ。バカにすんなよ。
「あんたを尊敬してんのよ、これでも」
「は?」
話が飛びすぎてついていけない。さっきのは何だったんだ。またお前は自分の話題から逃げるのかよ。
そんな俺に気づいてるのかいないのか、メカは淡々と話す。
「ツキゲちゃんに対する思いが恨みにならないことよ。変わらない一途さは尊敬に値する。そんな変わらないタトルが、」
何故かそこで途切れた。
「俺が?」
ツキゲの後ろ姿を追いかけながらメカに聞き直す。しかし返事はない。振り返るとそこには誰もいなかった。
「あ? また消えやがったか」
続きは気になるがメカを捜すことはしない。そのまま前に進む。ひたすらツキゲを追いかける。
「俺は尊敬される価値などねぇよ」
もういないメカに返事をする。あいつはいてもいなくても変わらないからな。どうせ人の話は半分聞き流してるようなやつだし。
「ただの未練がましい情けない根性無しだよ」
無い物ねだりは人間だけじゃないんだ。
読んで頂きありがとうございます!
完結目指して頑張るのでまたお越しくだったら幸いです(>_<)