いせかいにいこう
あーさぶい。
今の季節は秋だ。くそ暑い夏が過ぎ去り適温で快適な季節に希望をもっていたのに、朝はこんなに肌寒いのか。
眠気のさめないまま寝相のせいで蹴り飛ばしてしまったらしい布団に手をのばす。
「ん?」
とれない。どこだ。風も吹いてきて凄くさむいんだが。
…うん?…風?
バッと上体を起こした私の目の前に広がるのは見知らぬ森。
「……え?えぇぇぇぇ!?」
紅宮秋。知らぬ間に森で熟睡していたようです。というかここどこだぁ!?
* * *
「うあああああああああああああ!!!!こっち来んなああああああ」
死ぬ!!死ぬ!!
私は今現在狸とも犬ともとれる二股の尻尾の動物に追いかけられている。
とりあえず歩いているときにドングリっぽいのがあったので拾ってみたのがいけなかったらしい。
どうやら奴の宝物?だったようだ。
「うぉう!!うぉっ」
鋭い牙を剥かせながらどびかかってくる奴をひょいひょいと交わす。
何か可愛いけど!!!!牙あるってことは肉食でしょう!!!!
何度か交わして奴がもたついた隙をついて全力で走りだす。方向はもう知らん!
5分ばかし走り奴を撒いた所で私は盛大にぶっころんだ。
咄嗟に受け身を取る。こういう時って授業で習う柔道便利だよね。ほぼ無駄だけど。
立ち上がってぽんぽんと落ち葉を落としていると複数人の声が聞こえた。
「誰か来たぞー!!」
「馬鹿いえ、この状況でか?」
「嘘じゃない、見ろよ」
円状に固まっていたうちの何人かが私を見る。それと同時におおっと歓声があがった。助かった!!もしかするとこのまま森で遭難死かと考えていたため嬉しくなりこちらを見ている村人?へ大きく手をふる。
手を振ると同時におおおっと先程より一際大きい歓声があがった。そして村人集団の中から一人の若者が何かガシャガシャいわせながらこちらに走ってくる。
「増援感謝いたします!!我が名は第一番隊シュルシュツ・ヤード。この度の戦線、はるばるお越しいただき感謝のかぎりです!!」
彼はそういうと深く下げていた頭をあげた、と同時にはっとした顔をする。
「こんな時に増援かと思えば…随分とまあ」
彼の後ろから歩いてきた30歳ほどの無精髭をはやした男の人が言う。
私といえば状況が分からないのと見慣れぬ顔立ちと衣装に思わずまじまじと彼らを見つめる。
「まあ…大体察しはつくからな。こっちにこい」
男の人に背中を押されこちらを見守っていた人達の前にたたされる。
状況が飲み込めない。今ここにいる彼らは皆外国人のような顔立ちで、少しうす汚れた鎧のようなものを着込んでいる。そしてその全員が私をなんとも言えないような顔で見ていた。
「志願兵だ。大体の察しはつくと思うがコイツは今日から俺らの仲間だ。」
男の人がそう告げる。そして再び私に視線があつまった。
…これは…なにか言えと??
「あー…宜しくお願いします?」
わああっと歓声があがった。なんだ!!なんでだ!!!!意味分からん!!
「シュウ、鎧をもって来てやれ」
あっという間に私は男達に囲まれた。ぐるじいっ
「ありがとうな、ありがとう」「最期まで頑張ろう」様々な声が掛けられる。
ふと何かを被せられる。あまりの重さによろよろとする。どうやら被せられたのは鎧のようだ。
「明日は奇襲をしかける。考えている通り失敗に終わるだろう。だが誇りは棄てるな。俺らは負けにいくんじゃない。最期くらい華々しく散ってやろうぜ。…お前の名前は?」
あーなんか大変な事になってると思うけどここで名前いわないとかとんだKYだよね?
「…アキです」
考えた結果言った。何か嫌な予感がするけど、まだ予感なだけだしね。
男の人は目を細めて笑うと高らかにつげた。
「最期の晩餐としようではないか!!王国軍、聖歌の準備を始めろ!!呑め、喰え、それが明日の糧となるように!!!!」
嫌な予感は的中した。
まあ、異世界トリップだろうとは思ったけど、冒険者とか格好いいし、何でか分かんないけど捻挫と手首の擦り傷が治ってたし…
どうやら私は前世の世界に舞い戻ってきてしまったようだった。