ひとにげきとつされよう
「ちべし!!」
捻挫した部位に氷の塊をあてがわれる。
そこは赤くなっていて少しだけ腫れていた。
「本当ごめんなさいごめんなさい!!ちょっと探し物しててつい…!!本当ごめんなさい!!」
「あー…別に大丈夫だよ?気にしないで」
「ごめんなさいごめんなさぶべっ!?」
「うるせー黙れ!!!!」
話に聞くに私はどうやらこの二人に激突されたらしい。
二人といってもこの謝罪を繰り返している気弱そうな方に。おかげで手首にちょっとした擦り傷と足首に捻挫をしてしまった。
低姿勢すぎる彼は目付きが悪い方の彼に口を塞がれている。
「秋…何か今日ついてないみたいだね」
「だね」
今日の朝登校時には大きな犬に追いかけられた。特に何もしていないのに。数字の授業中には居眠りがバレてチョークを投げられた。
これは自分のせいだね。
「治療費は払ってもらったので大丈夫です。それより急いでいたんじゃないですか?ここで別れましょう」
幸い一人で歩けるので、と少し歩いてみせる。彼が私に激突したのは何かを探していたからだったんだそうな。
「本当にごめんなさい…では」
「連れが申し訳ないことをしました…お気遣い感謝します」
そういって二人は急ぎ足で戻っていった。
謎の激突事件はこうして幕を閉じた。
家に着くなり弟に問われる。
「どしたの?それ」
「これ?」
「違うそっちじゃない。それ」
弟が指差したのはボサボサになった頭。
「あー…カラスに懐かれたんだ?」
「何で疑問形?」
私だってしらない。
帰り道手首の傷から目を離し振り向くと、沢山のカラスが私の後を着いてきていたのである。
多少気味が悪いので脅かしてやろうと大声をあげると、カラス達は一斉に私にとびかかってきたのである。
幸い傷は無かった。頭は最早パンチパーマだが。
「うん…とりあえず風呂どうぞ?」
「サンキュ」
絶対に今日は厄日だ…半ばそうぼやきながら私は風呂に直行した。
* * *
眠れない。
今日はとても疲れているはずなのに寝付けない。
「うーん」
ゴロリと寝返りをうつ。
昼間寝たせいだ。例の激突事件の時私は気絶したので2時間程の睡眠をとった。
しかし毎日定時に寝ないと生活習慣を崩す。そう思っても寝付けない。
ふと自分の手を見つめた。
そこにあるのは普通の手。綺麗でも汚くもない極一般の手。
「…何かなぁ」
釈然としない理由は今日見た夢、否私の前世。
夢といってもおぼろげではない。鮮明で気持ちまで感じとれる。
あの夢。
私、否“私”はシュタイン王国第一王子でもあり未来の勇者でもあるキールの恋人であった。
“私”の家は先代の王の王位争いに便乗し爵位を得た新興貴族であった。
だが如何せん歴史が古かった為、新興貴族を気に入らない輩共を退け、蹴散らし、時には脅し名門貴族にまで登りつめた実力派だ。
お陰で陛下とは学友として対面させられ、その後許嫁として周囲に認められる程のちびっこカップルとして有名だった。…結局殺されちゃったけど。
前世の私は確かに貴族らしいふるまいはしていたが美少女ではなかった。むしろ誇れるものといったら親譲りの美しい金髪と貴族のご令嬢特有の白い肌くらいだった。
成績はいつだって芳しくなかったし、魔術だって上手くコントロールできなかった。
それでも王子と許嫁にまでなった理由は運命しかいいようがないだろう。
ふと手首をさする。
面積が広く傷が浅いため絆創膏ははっていなかったのたが、触れるとヒリヒリして痛い。
あの時は痛くなかったな、そう思った。
それは最早痛みを感じる必要が無かったからなのか、彼がそうしてくれたのか。
…自分が殺した相手に慈悲なんてなかったと思うけど。
もう寝よう。
「×××」
懐かしい声が聞こえた気がした。