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しんだふりをしよう

…ああ、空が青い。

私は今広い草原で空を見上げながら昼寝をしています。

じゃなくて口から血を流しながら敵軍の兵が去っていくのを見送っています。

何をしてるのかって??死んだふりですよ死んだふり!!!!

ああ、名も知らぬ兵よ。流石に小一時間私の足に覆いかぶさられると足に血が通わなくなって痛い…

私は平凡だった日々を思い出していた。

「秋ー!帰るよ」

「ちょっと待ってー!!」

教室の入り口で友人が待っている。

彼女は中学校の頃からの友人で、朝も一緒に投稿しているほどの仲良しだ。

「ごめんごめん」

「別にいいよ。今日部活休みだよね?ゲーセン寄って帰ろう!!」

「おー!」

私は紅都秋。«くみやあき»

至って平凡な女子高校生で、じいちゃんの影響で部活は弓道部。

少し珍しい事といったらじいちゃんが神社のお偉いさんという事位だろう。

某少年漫画みたいに特別ななんちゃらで除霊とか退摩出来たら面白いのに。

当たり前だが駅前のゲームセンターは人が多かった。同じ制服もちらほら。

茜は早速ある台へ近付くと、おもむろに機械を操縦しはじめる。

「とれた!」

「すご…」

この茜という少女。

こいつはただの少女ではない。

ゲーマーかつゲーセンキラーの異名を持っており、放っておくと自身の金が尽きるまで景品を取りまくるのだ。

今は大量のまいう棒詰めを店を赤字にするべく入手している。

「秋もやってみなよ。簡単だよ!」

「じゃあやってみようかな」

食べ物なら無駄にすることはないだろう。

素直に頷いて100円玉を投入する。

ウィーン ガシッ

「おっ」

スルッ

「…」

何でだ。ちゃんと掴んだ筈なのに…何故抜けた。

「もっかい!!」

「頑張れ!」

そして10分後。

「何だこれ!!ぼったくりだ!!」

「秋!!おちつけ!!」

「なんで!?貴重な私の1000円!チーズケーキ!!」

「秋ちゃん…」

何だその生暖かい笑みは。てかそのまいう棒もう開けたのか。早いな。

てかさりげにちゃん付けで読んだだろ。

「これあげるからね!よしよし、帰ろう?」

「う…無念なり…」

差し出されたのは先程のまいう棒3セットだった。無駄に散財してしまったのでありがたく頂戴しておく。

「まあ、最初はそんなもんだよ!元気だせ!」

「悔しー」

心の中で畜生!と叫びながら手をこまねいている茜に追い付こうとする…が。

「どわ!?」

ズササササー

…ん?あれ?なんか痛い…

コケた。私はその事実に気が付く前に意識を手放した。

* * *

ある王宮の庭、そこである幼い少女がなにやらせっせと花を摘んでいる。

簡易なワンピースを着ているが質は上等で、その事から貴族の娘だということが分かる。

「キール喜んでくれるかな」

少女は摘んだ花を持ち帰ろうと踵を返す。

「×××」

声に反応し振り返ると、輝くような金髪、空のように優しく蒼い瞳を携えた美しい少年が佇んでいた。

それを見た少女の顔に満面笑みが浮かぶ。

「!!キール!お勉強が終わったのね!!」

少女は駆け寄り、しかし手に持つ花をつぶさぬよう力一杯抱きしめる。

「お誕生日おめでとう。キール」

今日は彼。自身の許嫁であるキールの誕生日だ。

彼は女神の求愛を受けており、光の精霊の加護を受けている。

…将来起こるであろう魔王との戦いに祭りあげられる将来の勇者だ。

彼は頭一つ分小さい少女の頭を優しくなでる。しかし手つきとは裏腹に彼の顔に先程の笑みはない。

しかし彼に今日の出来事を伝えるのに必死な少女は未だそれに気づかない。

「×××」

「それでね、お父様ったらこんなに美味しそうなものを並べられたらつまみ食いしたくなっちゃうなあって。うふふ。もちろんだめっていったわ」

「×××」

「可愛いそうだから余ってた分を少しだけあげたの。少しだけよ」

少女は名前を呼ばれても気づかない。やっと顔を向けた少女の顔に浮かんだのは驚愕の表情だった。

「どうしたの…キール…お腹痛いの…っ?まっ…っ待ってて、今お母様を…きゃっっ!!」

少女の脇すれすれに長剣が振りかざされる。光の魔術が施されているその魔剣は光の精霊の加護を受けている彼にとって羽のように軽くよく斬れる。

瞳からハイライトが消えた少年は次々に少女を切りつける。

彼とて未来の勇者。しかるべき剣術をまなんでいる。そんな彼に叶うはずはない。訳も分からず少女はにげだす。

「誰かっ…誰か!!!!」

どうして急に、何か起こらせるようなことはしたか。否、していない。混乱した頭を整理することもできずただただにげる。

そして少女はある木陰に隠れて息を潜める。

「はぁ…はぁ…っく…はぁ」

彼の姿がない。撒けたのなら暫くここで身を潜めて逃げ出そう。

握っていた花はいつの間にかぐちゃぐちゃにになっていた。

ガサッ

「!!!!!!がはっ…」

彼がたっている。大好きな彼が。だがそこにいつもの笑顔はない、ただただ、無心に少女を見下ろすだけ。

少女の左胸を暖かい何かが伝う。それは口の中にも溢れてきた。

「…あのねっ……きょう…けーき作ったんだ…キールが……大好きなアココの身を乗せて…」

彼からの反応はない。無感情に見下ろすだけ。いまさらながら頬に涙が伝う。声が出せなくなった。嗚咽すらも出ない。

「……ごめんなさい」

自分でも何を謝りたかったのか分からない。声すら出ていなかったがそれは確かに謝罪だった。

「…………はっ………ははははっ……はっ………っ………×××っ…うああああっ」

がっくりと力を無くした少女の前で少年は笑いながら涙を流していた。

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