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伸ばした手の先 3


どんな形でも、どんな事でも。

人から見れば、些細なことでも。

それでも。

好きになるのに、理由なんて無いけれど。


あるとしたら、ほんの小さなきっかけ。





「きーむら」

明るい聞き覚えのある声に振り返る。


「結城くん。久しぶり」

共通の友人を持つ中学の時の同級生は、変わらない笑顔を向けて近づいてきた。

「うん、久しぶり。元気だった?」

「元気だよ。結城君も元気そう。忍さんも元気?」

彼の双子のお姉さんの名前を出すと、「無駄に元気」と笑った。



彼の誘いに応じて、付いて行くと、少し奥に入った場所に隠れるようにこじんまりとした喫茶店に案内された。高校生が入ってもいいのかな、と躊躇うと「知り合いの店だから大丈夫」と背中を押された。

「こんにちは、マスター」

「いらっしゃい、竜司くん。珍しいね、制服の儘なんて」

ダンディなおじさまの笑顔に結城君も笑顔で応えている。目が合うと「いらっしゃい」って優しい声…うん、いい雰囲気のお店だ。


「まぁ、ね。だから奥いいっすか?」

どうぞ、と視線で示された場所に成程、と思った。観葉植物が上手く使われて不自然じゃない程度に周囲から隠されている。席について気が付いたのは、葉陰から店の入り口が見える仕組みになっているって事だ。






「ここ、キリの兄貴の隠れ家的存在の店でさ」

「へぇ」

友達のキリちゃん――佐野 桐子――のお兄さんは、中学で伝説的な存在だった。頭の良さにしても運動神経にしても、並ぶものがないほどに。

そして、極め付きはその容姿。アイドルなんて足元にも及ばない「眉目秀麗」ってこういう人に使うんだって、本人見てしみじみ思ったもん…まぁ、強度のシスコンでもあったけど。


「元々は彼らの父親が私の友人でね」

お水を持ってきてくれたマスターが笑顔で教えてくれる。

「この『緑の壁』を考案したのも匠くんなんだ。家以外で一息つける場所が欲しいってね。大通りから外れているから大丈夫だろうって言ったんだけど『念には念を』って…うん、女の子の執念って怖いよね」言いながら、私を見て「失礼」って謝ってくれた。まぁ、確かに佐野先輩のファンって怖いから判る気がする。



「そういえば、久住と同じクラスなんだって?」

流石、情報屋…中学のときの結城君の裏の渾名なんだけど…色々と知っているんだよね、彼。気が付いたら、それが当たり前になっていて『知りたいことは結城弟に訊け』って、よく言われたもん。でも、本当に本人が知られたくない事は漏らさないって事でも有名だった。



「あいつ、クラスで浮いているだろ?」

同じような言葉を最近聞いた気がして、ああ、と思う。この間久しぶりに会ったキリちゃんも同じような事を言っていたっけ。

どうした?と首を傾げる結城君にそのことを言うと、「相変わらずのおっかさんだな」って苦笑した。

「久住くんの優しさって分かり難いから」

目の前の結城君が驚いたように目を見開き、ゆっくりと口元が弧を描く。

「木村も付き合い長いモンな」

そう、結城くんたちとも幼稚園からの付き合いだ。と、いってもキリちゃんと友達になるまでは殆ど接点が無い関係だったけど。

同じクラスになったこともある。目が合えば挨拶くらいはする。でもそれだけだ。いくら小さい頃から知っていたといっても普段の付き合いがなければ、同級生だってそんなものだ。




「気が向いた時だけでいいから、話しかけてやってくれ。あいつの存在をクラスに馴染ませてくれ、っていうのは難しいだろうけど、クラスで孤立させるのだけは防いでやってくれると嬉しい」

「ホント、難しいことを言うね。小林くんやキリちゃん位だよ、そんなことできるの」

『自分には、絶対的な防波堤が居る」を口癖に、キリちゃんは何人かの苛められていた子達に手を差し伸べた。彼女のそんな働きがあったからこそ、今の私たちが居る。彼女の言う防波堤は、気が付けば学年のほぼ90%の「勢力」になっていたのだ。彼女が一番嫌がったのは、苛められていた側が、大きな勢力になったとき、虐め側に回ることだった。もしくは、他の苛められている子を一緒になって苛めること。

「大勢に守られたい気持ちも分からないわけじゃないけどね。でも、そんな事している時間、勿体無くない?」

自分がしていることを正しいなんて思っちゃ居ない、キリちゃんはよく言っていた。ただ、いつか過去を振り返った時、すこしでも落ち込む事が少ない方がいいでしょう?と。

「多分、先々穴に入りたくなると思うよ…今の自分を思い出してね。恥ずかしくってのた打ち回ると思う」

でも、同じ落ち込むなら、思う通りに動きたいと思うの、特に威を借りる虎が近くに居てくれるなら、ね。そう言って笑った自慢の友人。本人に言えば、全否定してくれるだろうけれど。

どうか、力を貸してくれ、と心の片隅で祈りながら。







翌日。


あの一件から、久住くんと挨拶を交わす事が多くなった。とはいえ。遠巻きに見つめる女の子の視線を感じながら、久住くんに近づくのはかなり勇気がいる。今まで同じクラスになって日直も一緒にやったことがあるとはいえ、基本的に接点があったわけじゃないからね。個人的にも、集団でも話した事なんてほとんどない。



(あいつ、寂しがりやだから)

それは、私に聞かせるつもりで言った言葉ではないのだろう。

別れる間際に聞こえた結城くんの声。はっとして顔を上げた彼に、うん?って感じで首を傾げて見せたら明らかにほっとしていたのだから。


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