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結(DNA型鑑定)

わたしは夏世ちゃんから命を受け、今、とある総合病院に居る。

目の前には、巷を恐怖のどん底に叩き落としてくれた【潰し魔事件】の被疑者が二人。



そしてわたしのジャケットの内ポケットには、その片方の名がはっきりと明記されている【逮捕状】。



今の段階で、犯人は確定していた。


「ちょっと早百合、なんでそんな嫌そうな目で見るの、酷いなぁ……。


……、えーっとね……、夏世ちゃんに頼まれて、捜査に介入しちゃいました。

ごめんね」



傍目から見ていろいろと事件を邪推してきたが、実際にこうして捜査に介入し、さらに、邪推した通りの結果になってしまうと、なぜこうも上手く話題を切り出せないのだろう。

《こんなこと、いったい早百合にどう説明しろってのよ……》



それは、歴然とした事実……。

そして、動かし難い……真実……。



逮捕状に書かれてある名前は、荒居知秋。



わたしは、これを早百合が居る前で告げ、尚且つ手錠までかけなければならないのだ。


「お二人から頼まれてた、照合の結果が出ました。

じゃあね……知秋ちゃん、これ読み上げて」


知秋ちゃんが逮捕状を受取りにきた手に、手錠をかける作戦だ。

こんな騙し打ちはしたくなかったが、変に抵抗されるよりましである。


「えっ?

……、あ、はい……」


わたしの指示の意図を掴みかねているのだろうか、なにか、あからさまにうろたえているようだ。

それでいい。

そう簡単に見破られては困る。


知秋ちゃんが手を伸ばしてくる。

そして……、



ガシャン!!



彼女の手首に、手錠が填った。


これが、【潰し魔=荒居知秋】という等式が、公の場で成立してしまった瞬間となった。


「あたしが……、潰し魔なんですか……?」


信じ難いといった表情で知秋ちゃんが問うてきた。

だが、その顔を真に受けるわけにはいかない。

「早百合、時間」

「18:38」

「18:38、荒居知秋さん、貴方を【商店街路地裏で発見された女性】及び、【矢沢蛍子さん】殺害容疑で逮捕します」


罪状をひとしきり述べたあと、ただただうろたえるだけの知秋ちゃんに向かい、

「大丈夫。

絶対あなたを助けてあげるから。

助けてあげられるから」

と精一杯のフォローを入れる。

勿論言葉のあやとかではなく、うまくすれば、責任能力が無いと判断させることも出来るのだ。


「ごめん、話は署で聞くから」

今のところ出来ることは、連行することしかない。

「知りません!

あたしじゃないんです!」

喚きながら必死に抵抗する知秋ちゃんをパトカーまで引きずり込み、わたし達三人は、所轄署取り調べ室へと向かった。







「なんであたしなんですか……。

訳を聞かせてください……」

取り調べ室まで連行された知秋ちゃんは、納得がいかない様子をありありと表情に出しながら、まず、そう問うて来た。

「一致したの」

この一言しか返せなかった。

目の前には、被疑者としてではなく容疑者として、自分の後輩が座っている。

知秋ちゃんも、刑事として申し分のない洞察力を持っている。

おそらくはこれだけでも、事態を把握することは出来るだろう。

「早百合先輩もあたしと同じこと……、羽沢先輩に頼んでたんですか……。

それで、先輩のじゃなくあたしのと……、一致しちゃったんですね……」

悲し気にうつ向きながら、ぽつりぽつりと言葉を繋いでいく。

「健診のサンプルは……、間違い無くあたしのなんですか……?」

サンプルがどこかで擦り変わったことを疑っているのだろうか。

うつ向いたまま、か細い声で抵抗を続けてくる。


「排泄物には、容器に直筆サイン入のラベルが貼ってある。

勿論筆跡鑑定もかけたわよ。

血液は今日医者が直に抜き取って、わたしが来るまで厳重に保管してもらってた。

……、悪いけど100%あなたのだよ」

知秋ちゃんを助けるためにまずしなければならないこと、それは、彼女に現実を見据えてもらうこと。

ここで、自分が潰し魔としてここに存在している根拠だけは、受け入れてもらわなければならないのだ。

「どうせだから、決定打を出してあげようか?

これで知秋ちゃんは……、少なくとも健診のサンプルは自分の物だと認めざるを得なくなる」

そう、いくらでも決定打を出せるのだ。

そのぐらい、捜査は終盤にさしかかっている。

「髪の毛一本貰っていい?」

語尾を上げて質問形は採ったが、有無を言わさず一本抜き取る。


まずは、健診サンプルの本人証明。

じんわりと潰し魔=荒居知秋が、法的に立証されていく。

「これと、健診サンプルでDNA比べてもらうから。

これで一致したら文句は無いよね?」

「はい」

素直に認めてくれた。

これについては、どうやら決着しそうだ。


「あの、潰し魔のサンプルの方は間違い無く潰し魔のなんですか……?」

余程認めたくないのだろう。

まだ抵抗は続く。

「被害者達のどっちとも型が一致しなかったし、間違い無いんじゃない?

死んでも、遺伝子は消滅しないから」

被害者の遺体から採取した毛髪とDNAの型を比較し、サンプルとは別人であるとの鑑定結果が既に出ていた。

「でも、誰かがあたしのをなすり付けたりとか置いたりとか出来るかも……」

今度は、何者かによって意図的に自分のサンプルを付着させられた可能性を挙げてきた。

本当にしぶとい。


だが、これも打ち砕くことが出来る。

「確かに潮とかアソコの毛ぐらいは、なんとかなるかもしれないわね」

ここまで言ったところで、ここぞとばかりに知秋ちゃんが仕掛けてきた。

「だったら!

あたしじゃないかも知れないじゃないですか!!」


彼女等にもたらされたサンプリング情報は、ここまでなのだからそうくるのも無理はない。

だが、わたしには夏世ちゃんが仕掛けた罠、もう一つのサンプリング情報があるのだ。

「あのね、あなた達を初期の頃から疑ってた夏世ちゃんが、もう一つサンプルあがってたこと……、隠してたのよ。

それはね……」

正直、言いたくない。

自分の後輩が、仲間が、猟奇殺人犯として刑事に追い詰められていく、そんな地獄画図を己自身の手で描きたくなどないのだ。

だが、彼女を不問にふすためには、どうしても一度追い詰めなければならない。

「矢沢蛍子さんの前歯に絡み付いてた【肉片】」

言ってしまった……。

もう後戻りは出来ない。

とことんまで追い詰めてしまうことにしよう。

わたしは、心を鬼にすることを誓った。


「それって……、蛍子さんの口かほっぺの肉なんじゃないんですか?」

知秋ちゃんが切り返してくる。

あれほど口がひしゃげていたのだから、当然の疑問だろう。

「そう。

当然それもくっ付いてた。

でもね、蛍子さんとはDNAの型が一致しない肉も一緒にくっ付いてたのよ」

それを聞いた知秋ちゃんは、目を丸く見開いて、黙り込んでしまった。







もはや、状況も物証も知秋ちゃんが潰し魔であることを示している。

あとは、決定打となるDNA型鑑定の結果を待つばかりである。

これが来れば、残る作業は彼女の前に証拠のデータを並べ、自分が潰し魔だったことの根拠を認めてもらうだけだった。


取り調べ室のドアがノックされ、わたしの夫である岩国洋樹刑事が中へと入ってきた。

そして、

「健診サンプルと、容疑者から採取した毛髪のDNAの型、ぴったり一致です……」

とのデータをもたらすと共に、その鑑定報告書を手渡してくれた。


「知秋ちゃん……」

話掛けながら、証拠となる鑑定報告書を並べていく。

「これがね」

七枚の報告書が机の上に並んだ。



「……、……、この件に関する全てのサンプルのデータ」



そこに記されている全てのDNAの型は、確かに一致していた。



「いやあぁぁあぁああ!!」



知秋ちゃんは、頭を抱え込んで激しく振りながら、悲鳴をあげている。

それは、彼女に逃げ道が無くなってしまった何よりの証拠だった。

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