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転(間に挟まれた夏世が張った罠)

二人から全く同じ依頼を受け、今、それを皐月さんに丸投げしたところだ。

本来警察手帳を提示して捜査を行うことは、鑑識官の仕事ではない。


依頼の内容は、【健康診断に使われる三つのサンプルの回収】。

ことに、検尿、検便には、直筆サイン入りのラベルが貼ってある。

これらと、警察側で押収した三つの潰し魔サンプルのDNAの型が一致すれば、言い逃れ出来ない物証となるだろう。


時間的に、もう健康診断が始まっている頃だ。

病院長に、電話で血液サンプルを一番始めに採取してくれるよう、スケジュールを調整してもらってある。


事務所のデスクに足を投げ出し、椅子を後ろに傾けながら、くわえた煙草に火を灯す。


「皐月さん、余計なこと言わなきゃいいけど……」

皐月さんのお喋り癖を思いだし、苦笑いが自然と浮かんでくる。

彼女が事件関係者とよた話を繰り広げまくったために遅々として捜査が進まないという苦情が、何度かあたしに寄せられたことがあった。

「そんなこと、あたしに言ってもしょうがないのにぃ……」

今回それをあたしが皐月さんに注意しなければならなくなるようなことは、御遠慮願いたいところだが……。


不安を覚え、煙草をくわえたまま携帯電話を手に取った。

送信先は、皐月さんだ。

アドレスのあ行を開き、【岩国皐月】を呼び出す。


送信ボタンを押すと、直ぐに待ちウタが聞こえてきた。


皐月さんの携帯電話が奏でるノイズの酷い軽快でありながら耳障りなヒップホップをBGMに、あたしなりに二人が言っていたことを整理してみることにした。


まず、二人の言うようにどちらかが潰し魔であると断定して良いのだろうか。


ここまで考えたとき、煙草の灰が、服の上に落ちてしまった。

考え事をすると、前後不覚になる癖があるとよく注意を受けるが、どうも治ってくれる気配は無いらしい。

煙草を灰皿で揉み消して、続きを考えようとしたところで、BGMがヒップホップから、

『留守番電話サービスセンターへお繋ぎします』

との音声に変わる。


お節介ながら、一言注意しておくことにした。

「皐月さぁん、病院内ではぁ、電源切んなきゃ駄目なんですよぉ」

この言葉が、皐月の留守番センターに登録された。


そんなことより、潰し魔である。

断定は……、おそらく出来るだろう。

あたしは、間違い無くあの時凶器は拳だとの見解は述べてはいない。

明らかに【秘密の暴露】なのだ。


これを口にした荒居さんも、これを聞いて、あたしに確認してこなかった加藤先輩も、どちらも充分に疑わしい。


問題は、どちらが潰し魔なのかということなのである。

もはや、捜査はこのレベルにまで達していた。


自分の仲間を凶悪犯として検挙しなければならない……、この暗黒宙域の中を宛てもなくさ迷い続けるのは相当に辛いがここから抜け出すためにも全力を上げて犯人を挙げなければならない。


相手は、海千山千の叩き上げ警部補と入庁一発で捜査一課に配属された切れ者だ。

直球勝負では、いいように打ち返されるだろう。

この二人と対等に渡り合うには抜群のキレを誇る変化球、つまり、罠が必要なのである。


そのためにあたしが用意した罠、それが、スケジュール変更であり、皐月さんの投入なのだ。









皐月さんが、興奮気味に帰ってきた。

担当外の事件であるにも関わらず【犯人は、警察手帳を随時携帯している警察官だ】【うちらの管轄内に事件が集中しているから、警視庁内の可能性が高い】などの考えを巡らせていただけに、どうにも知的好奇心が押さえきれない様子だ。

鑑識課に入ってくるなり、

「夏世ちゃん、どっちかな……」

など、様々なことを呟きながら、事務所内を所狭しと右往左往している。


「皐月さぁん……、ちょっと落ち着いてください。


うっとうしいですぅ……」

思わず口に出してしまった。

「科捜研から結果が来れば判るんですからぁ、ジタバタしててもしょうがないですよぉ」

そう、否が応にも科学捜査研究所が【どちらかが潰し魔である】というDNA型鑑定の結果を持ってきてしまうのだ。

例えそれが、誰にも望まれていない結果であろうとも……。


初期の段階で荒居さんと加藤先輩が怪しいと睨んだあたしは、蛍子さん殺害事件の際に出てきた証拠のことを、一つ隠していたのである。

これが、あたしの決め球だ。


これから採取されるDNAの型が一致すれば、どのような知能犯でももう、黙るしか手はない。

状況的に、他人が偽装することは絶対に出来ないのだ。


ただ、解らないことがある。

二人揃って同じことを頼んできたこの状況だ。

何か、偽装工作でも施しているのだろうか。


思考の隙間に、

「もしかすると早百合か知秋ちゃん、分裂症かもしれないわね……。

だとすれば、多分潰し魔は知秋ちゃんだと思うけど」

という言葉が滑り込んできた。

「分裂症って……、何ですかぁ?」

あまり聞き馴染みの無い固有名詞に、思わず情けない質問が口を突く。

「精神分裂症。

俗に言う多重人格だよ。

人格がスイッチしてる間、前まで出てた人格は総てが途絶えてしまう。

つまり、【寝てるのと同じ状態】に陥っちゃうの」

「……、寝てる……」


確か依頼を受けたとき、荒居さんは寝て起きたら、右手の肉がえぐれていたと言っていた。


皐月さんの言う通り、荒居さんが怪しく思えてきた。

だが、まだ物証が出ていないのでは、動きの取りようもない。

全ては鑑定結果が出てからだ。




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