転(知秋が巡らせる思考と策略)
あたしは考える。
なぜ早百合先輩が右手に包帯を巻いているのかを……。
あたしは考える。
なぜ蛍子さんが、なす術無く殺されてしまっているのかを……。
それは、蛍子さんの高い戦闘力を無効化する悪魔の魔法を戦闘開始前に発動したからだ。
問答無用で相手を萎縮させることができるもの……、警察手帳。
刑事の早百合先輩も、勿論持っている。
なにか、なにか先輩を潰し魔であると断定できる証拠はないだろうか、なにか……。
……、……、無い。
今、あたしも右手に包帯を巻いている。
先輩はあたしを疑っているのだろうか。
今あたしが先輩が潰し魔である証拠を探しているように。
なんとしても、証拠を見付け出さなくてはならない。
また潰し魔が出て来る前に。
先輩はなにやら深く考え込んでいる。
恐らくは、どうやってあたしを潰し魔に仕立て上げるかだろう。
あたしだって先輩を潰し魔にしようとしているのだ。
それは、仕方のないことなのかもしれない。
先輩は突然、蛍子さんの遺体の上から何かを手袋をしている左手で拾いあげ、あたしに向かって今まで見せたことのない般若のような笑顔で歩み寄って来る。
その様子は、宛ら追い詰めた獲物をいたぶるために近付いてくる殺人鬼のようだ。
刑事は、犯罪者を社会的に抹殺する狩人とも言える。
あながち殺人鬼と言う表現も間違いではない気がする。
「知秋ちゃん……。
これ、蛍子ちゃんのお腹の上にあったんだけど、なんだと思う?」
縮れた毛。
潰し魔の愛液によって大きな染みが広がっているお腹の上にあった縮れ毛。
その問いに対する答えはもはや、1つしか無い。
「潰し魔の……、隠毛?」
位置からしても、形状から見ても、それしか無いようだ。
先輩は続ける。
「これで潰し魔も捕まるわね。
うちには、潰し魔の汁付きの被害者達の衣服もあるんだし、この毛と汁のDNAの型が一致すれば、決定打になる。
早速鑑識に回して来るわね」
先輩は、なんのつもりでいちいちそんなことをあたしに報告しに来たのだろうか。
まさか、本人特定の基本を知らない訳でもあるまいし。
ハッタリをかまして、被疑者の反応を窺うつもりだったのだろうか。
その必要は無いと信じつつ、DNA鑑定の基本を先輩に説明する。
「もし一致しても、それは潰し魔のDNAサンプルが1つ増えるだけで、特定には到りませんよ?
直に被疑者から抜いた訳じゃないんですから」
と。
「あっ……」
見付けた。
見付けてしまった。
先輩を潰し魔にできる根拠を。
まだそこには無いが、羽沢先輩の力を借りれば引っ張り出すことが出来る。
あたしは早速、先輩へと電話をかけた。
〈続く>




