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subsistence  作者: 街尾 起
4/5

第四章

先生の計らいにより俺は委員長が分隊長を務める第七分隊に配属されること


となった。まあ、この世界での俺は死んでることになっているのだから、ド


ッグタグには偽名を使うことになったのだが。階級は二等陸士とかいうもの


だ。どれくらい偉いのかなんてわからない。まあ相当低そうではあるが。

さて、配属された第七分隊で早速訓練が開始されたわけだが、馴染みの面子


が揃っていた。というのも、クラスの奴らで構成されていた。何人か欠けて


いるようだが、そいつらは遠い戦地にいるか、戦死したらしい。

今何の訓練をしているかというと、人型戦術・・・だぁ長い、ETFの操縦訓練


だ。ど素人の俺に触らせていいのかという疑問は早くに浮かんでいたが、少


しでも戦力を増強しておくべきという委員長、もとい分隊長の判断だ。だが


、実をいうと訓練するまでもないんだなこれが。

「お前、相当素質あるな。実は乗ったことあるんじゃないか?」

と聞いてくるのは訓練の対戦相手である、駿河毅曹長。俺の世界じゃかなり


地味な奴で教室の隅で読書してるような男だったのだが、偉い違いだな。

「いや〜乗ったことがあるというか・・・」

ゲームセンターでいつもやってる某機動戦士の業務用機の動かし方となんら


変わらないんだよな。

「まあその調子じゃすぐにでも前線で活躍できるかな。」

「ちょっと、冗談言わないで下さい!」

「少尉殿、私は冗談で発言したつもりはございません。」

「いくら志願兵だからって、十分な訓練も積まない内に戦闘はさせられない


わ。」

「承知しておりますよ。少尉、」

「この部隊じゃ階級は抜きだって言わなかった?」

そうなのか?てか志願したつもりはないぞ。戦わざるを得ないから仕方なく


入隊しただけで、戦いたくなんてないからな。

「隙ありっ!」

駿河がいきなり突進してきた。くそ、こう近づかれては武器が使えん。

「おねんねしな!」

頭部ユニットに突きつけられる拳銃。やばい、ここで負けられるか。駿河機


は拳銃の反動を軽減するために脚部からバーニアを噴射している。つまり足


元は不安定だ。よし、これなら・・・

「もらったぁ!」

「なにっ!?」

はっはっは、駿河は驚きを隠せないでいるだろう。素人なら横か上に逃げる


だろう。だがそれでは拳銃のような飛び道具からは確実に避けられるとは言


えない。だから俺は敵から離れようとせず、逆に近づいたのだ。そしてタッ


クルのような形となり、駿河機は尻餅をついた。

「ま・・・参った・・・」

どうた、伊達にじむすりーを操ってないぞ。と隊長が通信を入れてきた。

「すごいわね・・・私でも三日はかけないと巧く操れなかったのに。前いた


ところにも似たような装置があったの?」

「まあそういうことです。」

「じゃあ休憩にしましょう。コーヒーを入れるわ。」

「おっ、良かったな新入り。少尉の入れるコーヒーは絶品だぞ。」

「は、はぁ・・・」

とにかくこれで一息つけるな。この駿河や隊長を見てもこの世界の人々は俺


の知ってる俺がいた世界の人々とは多少異なるようだ。誰がどう違っている


のか少し興味がある。

「北米前線からモカを仕入れたの。特別に豆から淹れて・・・」

駐屯地に引き上げようとしたその時だった。突然目の前が白くなった。

「な、なにっ?これは、まさか!?」

視界が戻った。何があったのかと辺りを見回す。足元に隊長がいた。何事か


とキョロキョロしている。

「隊長、無事ですか!?」

「え、えぇ。それよりも、今のは何なの?前が見えないの!」

どうやら先ほどの光で一時的に目がやられたようだ。いや、そんなことはど


うでもいい。それよりも問題なのは―


駿河がいなかった。代わりにそこにあったのは金属片と、それが元々付属し


ていたであろう物体を捕食している物体。

さながら百獣の王の如く金属片を貪る”それ”は、暴走した某メカを彷彿さ


せた。いや、吼えてるし。まんまエ○ァですか。

「も、もしかして・・・・あれも”アヌビス”なんですか?」

額に一筋の汗が流れる。俺はメドゥーサに睨まれたかのように動けなくなっ


てしまった。

「わからない、何も見えないの!!」

ヤバイ、こいつはヤバイぜジョニー。”それ”はこちらの存在に気付くと、


ゆっくりと近づいてきた。”それ”がどのような存在であるにしろ、殺るし


かないようだ。

「隊長!しばらく僕の後ろに乗っていてください!」

強引に拾い上げるとコックピットを開放し、シートの後ろ側に少し乱暴気味


に投げた。頭を抱えて痛がっているが、今は構っている暇はない。

なにしろ、食うか食われるかという状況なのだ。死ぬかもしれないという目


には先日もあったばかりである。落ち着いていられる自分の精神を疑うね。


普通ならそれこそ錯乱するだろう。だが、何故か俺はこの状況に落ち着いて


いられた。

”それ”が「グァァァッ」という唸り声を上げてこちらめがけて突進してき


た。あわててこちらも突進を仕掛ける。バーニアで加速する分こちらの方が


速い。”それ”は後ろに吹き飛ばされる形になった。だが、また起き上がっ


て襲い掛かってくるのも時間の問題だろう。

さて、ここでシンキングタイムだ。どうする俺。

1、逃げる

2、内臓武器で仕留める

勿論、ここは1を―選びかけて俺は自分の思考を罵ることになるのではない


かという神の声を聞いた。そうだとも、こいつから逃げ切れるという確証は


ない。仮に逃げ切れたとしても、こいつはまた更に犠牲者を増やすだろう。


そして、俺は臆病者の烙印を押されるのだ。

―臆病者だ?知ったこっちゃないね。そもそも俺はこの世界とは無関係な人


間なんだ。

果たしてそうか。確かに俺はこの世界の人間ではない。だが、少なからずこ


の世界には首を突っ込んでしまっている。だったら、最期まで成り行きを見


届ける必要があるのではないか。

「それもそうだな。始めたことは最期までやるのが俺の性分!とことんこの


腐った世界に付き合うとするか。」

ということで俺は2を選ぶぜ。残念だったな、臆病者の俺。

腰部に据えてあった拳銃を取り出し、”それ”に銃口を向けた。ふっ、最後


に笑うのは人間なのさ。怪物は怪物らしく撃退されな。

引鉄を引くと、”それ”はあっけなく沈黙した。やけにあっさりしすぎてい


る気がするが、その辺は流石先生の作った兵器であるというべきか。あの人


、俺の世界でも珍発明を繰り返していたからな。この世界に飛ばされる前日


、音だけで気絶させられる手榴弾を発明したから実験台になってくれと懇願


されたことはまだ記憶に新しい。確かに気絶した。十分ほどではあったが。


そういやお礼にといくらか貰ったが”アヌビス”にも効果あるのだろうか。


もし白兵戦になるような事があれば使ってみよう。さて帰ろうとしたら、

「ありがとう、助けてくれて。」

と隊長が俺を労った。当然のことをしたまでですと答えると、

「私の部隊じゃ階級は関係ないのよ。烏丸って呼んでくれて構わないわ。」

と俺の頭を撫でつつ答え返した。いいのか、そんな適当で。

「ああ、でもさっきは痛かったわよ。もう少し、優しく・・・」

優しく、なんですか?・・・応答がない。おーい。

振り向くと、烏丸が気絶していた。なんで今頃になって気絶するかね。

俺は苦笑しつつも引き返した。



烏丸が意識を取り戻したのはそれから五分後のことであった。その頃には俺


も第四駐屯地に戻っていた。先の出来事を先生に話すと、「やはりね・・・


」と呟いた。そして、

「でもこれでテストはパスしたも同然ね。あなたの戦力としての価値は評価


されたわ。とにかくおめでとうを言っておきます。」

と言うと神妙な面持ちで夕空を見上げた。

訓練が転じて実地試験になってしまったのは俺としてはあまり喜べるもので


はなかった。人の死を目の当たりにしたのはこれが初めてのはずだが、もう


何度も死に目を見て来たような気分である。今夜はいい夢が見れるとは思え


ないな。まあ、隊長のコーヒーは確かに美味かった。少し隠し味が混ざって


いたのはこの際目を瞑ろう。おそらく、こらえきれない悲しみが一滴落ちた


だけだと思うから。


さて、今までを思い返してみて、この時はつくづく甘かったなと思う。と同


時に、こんなことを思う余裕がある自分を罵った。何故なら、俺は今マジに


樹海で遭難しているからだ。

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