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Friday after school

作者: よつば

 部屋の遮光カーテンを開けて朝日を浴びる、その前に一階の洗面所に直行する。冷たい水でバシャバシャと顔を洗い、寝癖だらけの髪を丁寧に櫛で梳かす。

 完全に目が覚めたところでダイニングに顔を出す。テーブルに肘をつきながら食パンを齧っている一つ下の弟が一人と、私の分の朝ご飯がある。

 私が椅子に座ると弟が話し掛けてきた。

 「おはよ。今日も母さん仕事で遅いって。カレー作っておいたから温めて食べてってさ」

 「ん。了解」

 牛乳多めのコーヒーを飲みながら返事をする。

 『今日の占い~♪』

 テレビから軽快な音楽が流れて星座占いが始まった。

 『……座、十位はおうし座、ラッキーアイテムは……』

 ――十位か……

 ソーセージをフォークで突きながら心の中でがっかりした。昨日は十一位で、一昨日は八位、その前の日は九位。

 ――気分下がるなぁ。最近下位ばっかりでついてないな。

 でも、と思いカレンダーをちらりと見る。今日は金曜日。薄くにやりと笑う。

 ――明日の学校は休み。今日の部活も無し、と。

 今度はにやにやと笑う。

 「姉貴キモい」

 隣に座っている弟がデリカシーもへったくれもない言葉を吐いた。

 「うっさい。別にいいじゃん。今日、久しぶりに部活が休みなんだもん」

 「あっそ」

 残りのコーヒーをぐいっと飲んで椅子から立ち上がる。食器を流しに置いて二階の自室に戻る。のろのろと制服に着替えてから遮光カーテンを勢い良く開ける。朝日を目一杯浴びてから、

 「今日も一日頑張ろう」

 小さく呟いた。

 ――放課後はちょっと遊んで帰ろう。

 そう考えていつもより多めにお小遣いを持って部屋を出た。



 ――はいっ! 今日も一日頑張りました。

 校門をくぐりながら自分を褒める。

 午後一番の社会の授業はもちろんぐっすり寝ました! でも数学はちゃんと集中しました!

 ――さぁてと、何をしようか?

あれよこれよと寄り道のプランを考えて、足取り軽くスキップしそうな勢いで駅に向かう。

 

プラン一 『ポストカード屋――カードガーデンメモリーズ』

 小ぢんまりしていて、五人も入れば狭いと感じるくらいの小さなお店。センスの良いカラフルなポストカード達が壁一杯に置かれていて目を楽しませてくれる。手作りの可愛い雑貨も置かれていて、店が小さな宝箱のようになっている。

 緑色のドアを開けるとチリンとベルが鳴った。左の棚のカードに目をやり、目当てのカードを探す。奥のレジから「いらっしゃい」と声が掛かった。

 「こんにちは」

 笑顔で軽く会釈をする。

 「あの人の新作なら、右側の棚の中盤にあるよ」

 店主のおじさんが笑顔で右を指す。

 「ありがとうございます」

 店には私と店主のおじさんしかいない。店内にはゆったりとした音楽が流れていて、この店だけ時間が止まっているような感じだ。

 右の棚に回り、言われた通り中盤を探す。

 「おっ!」

 ポップだけど、水彩で描かれているため柔らかい印象を与える絵柄が目に入った。

 ――これだこれ!

 二枚目あたりのカードを手に取り、眺める。

 口の端を少し上げ、満足気になる。

 ――もう二、三枚くらい買っていこう。

 それから店内をきょろきょろしながら移動する。気に入ったカードを手に取り、今度は雑貨の棚を見回す。そこからキラキラしたヘアゴムをチョイスしてレジに持っていく。

 「今日は帰りが早いね」

 「今日の部活が休みになったんです」

 「部活はなんだっけ? 写真だっけ?」

 「そうですよ」

 レジを打っているおじさんと何気ない会話をする。

 お金を払っておじさんにさよならを言った。

 ――また明日も来ようかな?



プラン二 『カフェ――かふぇらって』

『かふぇらって』は私のお気に入りのカフェ第一位だ。ログハウスのような自然と調和した店構えと、個性溢れる店員が私のお気に入りの理由。

目的はもちろん、おいしいスイーツに最近メニューに登場したラテ・アート。猫のイラストが私のお気に入りだ。そして、もう一つ。

「おおぅ! カプチーノ! 今日も可愛いね!」

入口の横でちょこんと行儀よく座っている猫――カプチーノ。その名の通り、毛足が長くコーヒーのカプチーノのようにふわふわしている猫だ。

「よしよし」

喉のあたりを触ってやるとゴロゴロと気持ち良さそうな声で鳴いた。

「またあとでね」

カプチーノの可愛さを堪能してから、そう言って私は店の中に入った。

左にカウンター席があって、右にはテーブル席。迷わずに、いつもの指定席であるカウンター席の奥から二番目に座る。

「こんにちは。今日はいつものにモンブラン?」

眼鏡をかけた人当りの良いお兄さんが聞いた。お兄さんと言っても、きっともう三十近いと思うけれど。

「はい!」

――もちろんですとも!

「ちょっと待ってて。浅井!」

お兄さんがテーブル席に向かって声を掛けた。

「はい」

テーブル席の方で、他のお客さんのオーダーを取っていた大学生くらいのお兄さんが、こっちを向いた。

「ラテ・アート、よろしく。いつものね」

「OKです。いらっしゃいませ」

お兄さんが私を見て会釈。それに倣ってこっちも会釈。

間もなくしてお兄さんがカップとミルク、要するにラテ・アートを作るための材料を手に、カウンターに入った。

お兄さんがラテ・アートを作っている間、店内をきょろきょろしてみる。いつもより店内が静かだ。

――オーナーが、いない?

「あの、オーナーは?」

「あの人、奥さんと喧嘩しちゃって店を追い出されちゃったんだ」

下を見たままお兄さんが言った。

「え⁉」

「あ、ごめんね。嘘」

 私があまりにも驚いたから、お兄さんがパッと顔を上げて謝った。

――なんだ。遂にあのオーナーがお山に帰ってしまったのかと思ったよ。

思ったことをそっくりそのまま言うと、お兄さんがクスクスと笑った。

「いやいや、今ちょっと買い出しに行ってるだけ」

ガチャッとドアが開いた。そこからぬぅっと、熊みたいな巨体が入ってきた。

「おかえりなさい」

噂をすればという奴だ。オーナーが店に帰ってきた。

「いらっしゃいませ」

野太い声でオーナーが挨拶をする。

それに対して会釈。

色黒に巨体、そしてスキンヘッド。その姿はお山にいる熊。クマさんじゃない。熊だ。

そうこうしている内に、私の目の前にラテ・アートとモンブランが登場した。

「おおっ! カプチーノだ!」

真っ白いミルクの泡の上にあのカプチーノが描かれていた。

「いただきます」

お兄さんにそう言って、フォークを持ったときにもいただきます、と言った。

まずは一口コーヒーを。

本物のコーヒーの味が舌に広がる。

――あぁ。やっぱり本物のコーヒーは違う。家のインスタントなんかとは全然違う。美味しいなぁ。

そしてお次はモンブラン。

ちゃんと栗の味がするクリームに濃い味のホイップクリーム。

――う~ん! オーナーの奥さんが作るモンブランは絶品だ! 最高だ!

心の中でこのモンブランへの賞賛の言葉が嵐のように吹き荒れる。

「いらっしゃいませ」

三口目のモンブランを口に運ぼうとした時、新しいお客さんが店に入ってきた。ピンク色の花柄のワンピースを着た綺麗な女の人。

――あのワンピース可愛いなぁ。

モンブランをモグモグ食べながら思った。

――なんか、あのワンピースどっかで見たことある気がするんだけど……

五口目のモンブランを口に入れた瞬間、

「あ……」

思い出した。

――あのワンピース、この前、いつもの服屋で欲しいと思ったやつだ!

店の壁掛け時計を見る。六時。

――ぎりぎりか?

このカフェから服屋まで歩いて十分。走れば五分。閉店の六時半までには間に合う。でも油断は禁物。

少しペースを上げてモンブランとコーヒーを交互に口に運ぶ。

「ごちそうさまでした」

お釣りが無いようにお金を払って店を出た。

「じゃね、カプチーノ!」

カプチーノに別れを言って店の中をちらっと見る。オーナーとお兄さん二人が手を振ってくれた。こっちも笑顔で手を振る。

モンブランとコーヒーをゆっくり味わえなかったのが残念だったけど、でも美味しかった。今度来たときにはもっとゆっくりしよう。



腕時計を見る。六時二十分。

速足ペースをマラソンペースに変える。

「ねぇ、君可愛いね。これからどこ行くの?」

 急停止。おっと、つまずきそうになったのを何とか堪える。後ろにはイマドキの格好をした若い男が二人。

「ごめんなさい、急いでるんです」

キーを少し高くして答える。

「え~、そんなこと言わないでさ」

――む。こいつらしつこいな。

「一緒に……」

――しつこい男は嫌われるぞ。

マラソンペースを徒競走ペースに変える。男の声がどんどん小さくなる。

――足には自信があるのだよ!

そのまま疾走して目的地を目指す。

待っていろ! 私のワンピース!



プラン三 『服屋――good Friday』

本当に閉店ギリギリで店に滑り込む。店員のお姉さんが店のワゴンを仕舞おうとしているところだった。

「いらっしゃいませ」

お姉さんは、閉店ギリギリにも関わらず笑顔で挨拶をくれた。人の良い店員さんでよかった。

店に入り、早速目的のワンピースを探す。

「あった!」

レジに近いラックにそのワンピースはあった。

ピンク色の花柄でシフォン生地のふんわりしたワンピース。Mサイズを選んでレジに持って行く。

「ありがとうございます」

さっきのお姉さんがレジに入って会計をする。

お金を払ってお釣りを受け取る。長居をするのはさすがに迷惑なのでさっさと店を出た。

「ありがとうございました!」

背中越しにお姉さんの声を聞いて振り返る。

――いえいえ。こちらこそありがとうございました。



空が茜色から藍色に変わって、駅は人が多くなっている。

――そろそろ帰ろうかなぁ? でも、明日学校無いしな……

駅に貼ってある映画の広告が目に入った。

――あ! 今日は金曜ロードショーがあるんだ!

なら、もう帰ろう。宿題はさっさと終わらせて、お風呂も早く済ませる。

――今日何やるんだっけ? そうだ! 『プラダを着た悪魔』だ! アン・ハサウェイ可愛いよなぁ~……

そんなことを考えて家路を急いだ。足取り軽くスキップしそうな勢いで。





部屋の遮光カーテンを開けて朝日を浴びる。土曜の学校が無い日はまずこうする。それからカレンダーを見て、今日が土曜日だということを確認する。

「ん?」

やだ。寝ぼけてるのかな? 

もう一度、今度は近くでカレンダーを見る。今日は土曜日。

「『部活で展覧会へ! 時間厳守』……――」

バッ振り向いてと壁にかけてあるハート形の時計を見る。午前八時。

「うっそおおおおぉぉぉぉ!」

頭が覚醒して色々なことを思い出す。確か、集合時間は午前十時。集合場所は家から二時間掛かる。

「やだぁ! 殺されるぅ!!」

過去最高の速さで制服に着替える。

写真部の顧問――相手は学校のラスボス綾崎だ! 

「私副部長なのにぃ! もう綾崎に殺されちゃうよぉぉぉぉおおお!」

部屋を飛び出し洗面所に直行。身なりを整える。

そして朝食は食べないで、必要なものをバックに詰め込んで家を飛び出した。


さぁ。今日も一日頑張ろう。


初投稿です。ほんわかした作品になっていると思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんか可愛い~こんな女の子になりたい~ [気になる点] あるはずがない~ [一言] 明日金曜日なので、私もモンブラン食べに行きます。お店が見つかればwww
[一言] 確かにほんわかした作品ですなぁ・・・ これはかなりいいっ!!
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