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第四話 そばの力

アリスの町に着いた。

「ワンダラ」という町らしい。

こんな町は、ゲーム上にはない。

少なくとも、現バージョンでは。


「奈依さん。私の家に行く前に、少し寄り道させてもらっても良いですか?実は、武器屋の前で兄と待ち合わせしていて」


「もちろん。俺のことは、何も気にしないでくれ」


「そういうわけにはいかないよ!でも、ありがとう」


アリスと共に武器屋に向かった。

武器屋の前では、黒髪で高身長のイケメンが立ってた。

なんという美男美女兄妹。


「お兄ちゃん!お待たせ!」

「俺も今来たところだよ、アリス。枝の方は無事に見つかった?」

「うん!お兄ちゃんの方は?」

「バッチリさ」


そう言うと、兄は袋から赤い宝石を取り出した。


「綺麗!それが、ルビライトなのね……」

「ああ。これを杖の先につけてもらえば、還暦祝いに相応しい素敵な杖の出来上がりさ!……ところで」


兄は俺を見る。


「この方は?」

「この人はね——」

「あ、アリスさん、自分から挨拶させてください。申し遅れました。自分は、真田奈依と申します。森でゴブリンに襲われていたところを、アリスさんに助けて頂きました」

「おお!そうでしたか……アリス、よくやった!」

兄は妹の頭を撫でる。

「えっへへ」

妹は嬉しそうに笑う。

「僕はソルト。アリスとは義理の兄妹で、これから、僕たちを今日まで育ててくれた、義理の父への贈り物として、ここの鍛冶屋の親方に杖造りを依頼するところなのです。素材を渡したらうちに帰るから、良かったらあなたも来てください。大したもてなしはなにもできませんが」


なんて素敵な兄だろう。

親と娘を大切に思い、俺という見知らぬ男にまでこんなに優しくしてくれる。

それにしても、血の繋がりはないとは言え、いや、ないからこそなのかな、普通の家族よりもよほど絆が深そうだ。

美しい。


「ありがとうございます。では……お言葉に甘えて」


「とんでもない!では、少しこちらでお待ちください。僕らは素材を渡して来ますので」

「ごめんなさい、奈依さん。すぐ終わりますので!」

二人は武器屋に入っていった。


数分後——


「奈依さん、おまたせしました!」

アリスが笑顔で店から出てきた。


ああ、なんて可愛いんだろう。

天使より天使っぽいわ。

天使見たことないけど。


「お待たせしました。では、我が家へ行きましょう」


「はい。ありがとうございます」


こうして、二人の後ろについていき、アリスの家が見えてきた。

が——ドアがぶち壊されている。

嫌な予感しかしない。


「お兄ちゃん!!」

「……っ!急ごう!!」


俺も二人を追って走る。


家の中では、巨大な獣人型の魔物が老人の首を掴んで持ち上げられている。


「おい、ジジイ。いい加減吐けよ。召喚体の女はどこだ?」

「知らん……本当に、知らんのじゃ……お”あ”ぁ……っ……」


ザシュ!


右手に突如として現れた剣で、ソルトは魔物の背中を切った。


「ぐあっ!!」


叫び声と同時に、魔物の手から老人が落ちる。


「お父さん!!」

アリスが絶叫する。


ソルトは続け様に斬りかかる。


しかし、魔物が振り向き様に剣を左手の爪で弾き、右手の爪でソルトの腹を刺す。


グサッ!!


「ガハッ……!!」

「お兄ちゃん!!」


ソルトが腹から血を流しながら倒れる。

アリスがすかさず回復へ向かう。

これは、まずい。

アリスが回復スキルを続けないとソルトが死ぬが、その隙にアリスはやられるだろう。

……俺しか、いないか。


「お前が召喚体か……一人で家で留守番でもしていればお前だけ食ってこいつらは無事に済んだだろうに。残念だったなぁ……まあ、どの道この町の人間全員食ってやるがな。ぐっへっへっへ」


魔物はよだれを垂らしながらアリスをいやらしい目で見つめる。

魔物というより、まるで人間のような卑しい目つきだ。


「召喚体…?私、が?」


「ああそうだ。お前は召喚体だ。おめでとう、選ばれし者よ。"俺様の餌"として、選ばれし者だがな。召喚体を食うとな、進化するんだぜぇ?ありがとうよ……んじゃ、頂くぜぇ!」


意外と、脚は震えたりしなかった。

さっきシュミットにボコボコにされて、ゴブリンに喰われたからかな?

怪物もアニメ調だからかな?

まあなんにせよ、アリスのためなら、命なんか惜しくもなんともないってのは、間違いなさそうだな。


俺はアリスの前に出て、いきなり右手に出現した日本刀で、魔物の爪を防いだ。

この無空から武器が突然現れる仕様は、ゲームと同じなんだな。

それにしても、そば切り包丁じゃなくて良かった。

あれでは、そば以外は切りたくない。


「なんだキサマは?」

「知る必要ないよ。すぐ死ぬんだから」


さっきソルトがつけた背中の切り傷に、スキル3を当ててやる。

HP満タンだとアレルギー付与不可ってのは、腑に落ちる。

要するに、傷口への抗原侵入によるアレルギー発症っていう、現実と変わらない仕組みってことだよな?

100倍ってのは、アレルギー症状の悪化速度だけではなく、抗原バリアの機能低下速度にも掛かってるってことだろうな。

確率ってのは、その傷口に入るかどうかって話しだろきっと。

だから、それを理解してる人間からしたら、スキルレベル1でも100%にできるんだよ。

そして何より良いのは、スキルレベル1だろうが10だろうが、100倍には変わりないってところだな。

くらえ!


「100倍そばアレルギー付与!」


左手からイメージ通りにそば粉が舞う。

そのままそば粉は魔物の背中に振り注ぎ、傷口に入る。

よし。


「あ?なんだこりゃ?やる気あんのか?てめぇ。さっさと死ねや!!」


ドシュッ!!


腹が刺された。

血が溢れる。


「奈依さんっ!!」

泣き叫ぶアリス。


「まずはお前を前菜として食ってやろう!うまくなさそうだがな!」


魔物の顔がでかい口を開いて俺を喰いにくる。


「前菜の前に、お通しをどうぞ」


左手を、そばがきを生成しながら、魔物の口に突っ込む。

噛まれると同時に、生成途中のそばがきは魔物の口内で左手から落ちた。

100倍なら、こんなもんでも十分致死量だろ。


手首が食いちぎられる間際、魔物はピクリと止まり、全身に発疹と痙攣が起こる。


「ナニ……ガ……ア"ア"ァ……ッ……!」


呼吸が止まり、白目を剥き、泡を吹きながら、魔物は死んだ。

するとすぐに、燃える新聞のように消えていった。

死骸が残らないんだな。

これもゲームと同じ。

良かった良かった。

んで、お決まりの…"素材"を……おとし……て……


腹と手首から血を流しすぎた俺の意識は、そこで途絶えた。

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