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第三話 救済

思えば、さっきの彼らの言葉は全て、プレイヤーだった俺への仕返しだったのかもしれないな。


「こんなむさ苦しい大男がメインアタッカーなんて嫌だなぁ。限定の美女アタッカー来たら絶対引いてチェンジしてやる。」

と思いながら使ってたシュミット。


「汎用性高い!見た目は微妙だけど。」

と思いながら使ってたベローチェ。


「早くアリス使いたいなぁ」

と思いながら使ってたエメリア。


そして——

ゲーム開始早々、画面をスクロールしてスカートを覗き、しっかりスパッツを履いていることに失望しながら動かし始めた、アスナ。


「ゴミ」

と言われても、当然だな。

でも、いきなり異世界から召喚される側の方が色々と迷惑を被る可能性高いんだからさ、名乗るのは、そっちからでも良いんじゃないかなぁ……


ガブ。


おや、どうやらゴブリンらしき魔物が俺の腹を食い始めたようだ。

もはや何も感じない。

着実に、意識が遠のいていくばかりだ。


少なくとも、ここでは死ぬのは確定だな。

そしたら、現実に戻るのだろうか?

戻ったとて、20段ほどの階段から派手に落ちたであろう俺は、果たして生きているのだろうか?

まあ、もうどっちでも良いや。

だけど……


「母さん……ごめんなぁ……」


やはり、母を残して先に行くのは、本当に申し訳ない。

けれども、弟よ。

どうか母に同情して、「店を残す」という大義っぽい名分に騙されず、お前はエリートサラリーマンの道を突き進んでくれ。

その立場から、母さんを支えてやってくれ。

どう考えても、それが正解だ。


ムシャムシャ。


今、どこ食われてるんだ?

まあ、どこでもいいわな……


こうして、俺の意識は閉じた。






そして目を開けると、そこには——


「あ!目が開いた!大丈夫ですか!?大丈夫ですか!?」


目に涙を浮かべながら、俺の手を握る少女の姿があった。


「君……は……?」


「私は、アリス・B・ライトと申します!この森で杖造りのための枝を集め終えて、帰ろうとしていたところ、ゴブリンに襲われている貴方を見つけて……よかった……本当に……良かったぁ!!」


そうだ。

間違いない。

美しい白銀の髪。

白を基調にした丈短めの衣装に、青いマント。

そして、優しさに満ちた碧い瞳。


——アリスだ。


「アリス、さん……。ごめん、俺の方から名乗るべきだったね……。俺は、真田奈依。……ろくでもない、人間です」


なぜだろう。

涙が、溢れてきた。

止まらない。


そんな俺の情けない言葉を受けて、アリスは首を横に振る。


「あなたの素性は知りませんが、本当にろくでもない人は、泣きながらそんなこと言わないと思います!とにかく、ここは危ないので、一緒に私の町に来てください!立てますか!?」


傷も体力も、回復しているようだ。

アリスが、回復技で癒してくれたのだろう。


「うん。お陰様で、立てる。っっしょと」


「良かった!では、ついて来てください!」


こうして俺は、アリスの後を追い、彼女の住む町に向かっていく。


森を抜け、町へと続く舗装された道に出ると、アリスはホッと一息吐いた。


「ここから先は、魔物は出ません」


「そっか。良かった。ありがとね」


「いえいえ。あの……奈依さん?あなたは、どうしてあの森に?」


異世界から飛んできたなんて話は、ここで歩きながら言う気にはなれないな。

彼女も困惑するだろうし。

そのことについては、もう少し落ち着いてから、またこういう話をする機会があった時にでも話そう。


「仲間と旅してたんだが、あそこで喧嘩別れしてしまってね」


「そう、だったんですか……」


「うん。ごめんね、重いよね。冷静に振り返ると、俺に彼らへの誠実さが欠けてたんだと思う」


「……そういうことは、人と関わり合いながら生きていく限り、誰にでも起こり得る思います。けど大事なのは、奈依さんみたいに、自分の非から目を背けないことだと思います。だから、やっぱり奈依さんは、少なくとも私からしたら、ろくでもない人間なんかじゃありません!」


あぁ……

なんて心の綺麗な子なんだろう。

こんな見ず知らずの、薄汚い作務衣を着たおっさんを助けてくれた上に、ちゃんとどんな人間か見ようとしてくれてるなんてさ。

ヤバい、また泣きそうだ……

アリスちゃん。俺は、ろくでもない人間さ。

でも、君を推した目だけは、間違っていなかったようだよ。


「そうかな……でも、ありがとう、アリスちゃん。なんだか、元気が出てきたよ」


「本当ですか!?良かったぁ!!」


その笑顔は、あたかも暗雲の隙間から差し込む救済の光のように、俺の心を浄化してくれるようだった。

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