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新人官僚、王女に遭遇する


第一章 初出勤

宮内局財務課、新人官僚フランツ・ミュラー。

23歳。本家国の官僚試験に合格し、本日が初出勤。

「緊張します」

先輩官僚のヘルマンが笑った。

「大丈夫だ。最初は誰でも緊張する」

「はい」

「ただし、一つだけ注意がある」

「何でしょうか」

ヘルマンは真剣な顔で言った。

「もし、エリザベータ王女殿下に遭遇したら……」

「はい」

「覚悟しろ」

「覚悟、ですか」

「ああ。あの方は……特別だ」

フランツは首を傾げた。



第二章 噂


昼休み、フランツは同期の新人たちと食堂にいた。

「エリザベータ王女殿下って、どんな方なんですか」

誰かが尋ねた。

先輩官僚たちの顔が、一斉に曇った。

「……まあ、優秀な方だ」

「しかし?」

「しかし……規定に異常に詳しい」

「それは良いことでは?」

「良いことだ。しかし、異常だ」

別の先輩が続けた。

「例えば、予算書の小数点以下三桁まで確認される」

「三桁……」

「様式番号を、すべて記憶しておられる」

「すべて?」

「ああ。千以上ある様式を、すべて」

フランツは驚いた。

さらに別の先輩。

「そして、矛盾を見つけると、放っておかれない」

「矛盾?」

「ああ。規定の矛盾、書類の不備、制度の欠陥。すべて見つけ出し、正そうとされる」

先輩たちは、遠い目をしていた。

「我々の部署だけで、過去三年間に17件の改革があった」

「すべて、王女殿下の提案だ」

フランツは、不安になった。



第三章 遭遇


三日目の午後。

フランツは、資料室で古い文書を探していた。

「えっと、1820年の予算記録は……」

棚を探す。

その時、声が聞こえた。

「それは、三列目の上から二段目です」

「え?」

振り向くと、若い女性がいた。

品のある服装。しかし、華美ではない。

手には、分厚い規定集。

「あの、どちら様ですか」

女性は微笑んだ。

「エリザベータです」

「エリザベータ……」

フランツの顔が、青ざめた。

「お、王女殿下!?」

慌てて一礼する。

「失礼いたしました!」

「構いません。資料を探しているのですか」

「はい、1820年の予算記録を」

「三列目、上から二段目です。左から五冊目」

エリザベータは、即座に答えた。

フランツは、指示通りの場所を確認した。

本当にあった。

「なぜ、ご存知なのですか」

「先月、読みました」

「……読まれた?」

「はい。古い予算記録は、参考になります」

エリザベータは、さらに言った。

「ところで、あなたは新人ですね」

「はい」

「名前は?」

「フランツ・ミュラーです」

「フランツ、質問があります」

「はい」

「財務課の業務規定、読みましたか」

フランツは正直に答えた。

「いえ、まだ……」

エリザベータは、残念そうな顔をした。

「では、読んでください」

「はい」

「特に、第12条から第18条は重要です」

「畏まりました」

エリザベータは立ち去った。

フランツは、その場に立ち尽くした。

「……何だったんだ、今の」



第四章 先輩の解説


フランツは、慌ててヘルマンのところに行った。

「先輩! 王女殿下に会いました!」

「ああ、ついに遭遇したか」

「資料室の場所を、正確に教えてくださいました」

「王女殿下は、宮内局のすべての資料の場所を把握しておられる」

「すべて、ですか」

「ああ。過去に三回、我々が見つけられなかった資料を、王女殿下が見つけてくださった」

ヘルマンは続けた。

「それで、何か言われたか」

「業務規定を読めと」

「ああ、やはり」

ヘルマンは苦笑した。

「王女殿下は、規定を読むことを、何より重視される」

「読まないといけませんか」

「読まないと、後が怖い」

「怖い?」

「ああ。王女殿下は、規定を読んでいない者に容赦ない」

フランツは震えた。



第五章 規定を読む


その夜、フランツは下宿で『財務課業務規定』を読んだ。

127ページ。

「多い……」

しかし、読まないわけにはいかない。

第1条から、丁寧に読む。

第12条。

予算編成における確認事項は、以下の通り……

「なるほど」

第13条。

前年度実績との比較は……

「確かに、重要だ」

読み進めるうちに、フランツは気づいた。

「これ、実務で使える」

王女殿下が言った通り、第12条から第18条は重要だった。

翌朝まで、読み続けた。



第六章 二度目の遭遇


一週間後。

フランツは、予算書を作成していた。

ヘルマンが確認する。

「よくできている。では、これを宮内局長に提出してくれ」

「はい」

フランツは、書類を持って局長室に向かった。

廊下で、またあの人に会った。

「フランツ」

「王女殿下!」

エリザベータは、フランツの持っている書類を見た。

「予算書ですね」

「はい」

「見せていただけますか」

「え、あの」

「2分だけです」

フランツは、書類を渡した。

エリザベータは、ページをめくった。

速い。

そして、止まった。

「ここ」

「はい」

「第3項の金額、前年度比の計算が合っていません」

「え!?」

フランツは確認した。

本当だ。計算ミス。

「申し訳ございません」

「いえ、今気づいて良かったです。修正してください」

「はい」

エリザベータは書類を返した。

「ところで、業務規定は読みましたか」

「はい、読みました」

エリザベータの顔が、少し明るくなった。

「第12条から第18条は?」

「特に注意して読みました」

「良いですね」

エリザベータは微笑んだ。

「これからも、規定を大切にしてください」

そして、去っていった。

フランツは、書類を握りしめた。

「助けられた……」



第七章 噂の真相


フランツは、執務室に戻った。

「先輩、王女殿下に書類のミスを指摘されました」

ヘルマンは驚かなかった。

「ああ、よくあることだ」

「よく、ですか」

「王女殿下は、書類を一目見ただけで、ミスを発見される」

別の先輩が続けた。

「一度、300ページの報告書を、10分で読まれたことがある」

「10分!?」

「ああ。そして、7箇所のミスを指摘された」

「すべて、正確だった」

フランツは呆然とした。

「人間、ですよね?」

「一応、な」

先輩たちは笑った。



第八章 会議


二週間後。

フランツは、初めて王女殿下が出席する会議に参加した。

「緊張します」

「大丈夫だ。発言を求められたら、正直に答えればいい」

会議室に、エリザベータが入ってきた。

全員、起立して一礼。

「お座りください」

会議が始まった。

議題は、次年度予算の配分方針。

各部署の代表が、説明する。

エリザベータは、静かに聞いている。

しかし、時々メモを取っている。

そして、質問が始まった。

「財務課、質問があります」

「はい」

ヘルマンが答える。

「第5項の配分基準、『前年度実績を参考にする』とありますが、規定では『前年度実績を基準とする』となっています。どちらが正しいですか」

「それは……」

ヘルマンは資料を確認した。

「……規定の通り、『基準とする』が正しいです。修正します」

「ありがとうございます」

エリザベータは、次の質問。

「第8項の『適切な額』という表現ですが、具体的な基準はありますか」

「それは……状況に応じて」

「状況に応じて、では曖昧です。基準を明確にしてください」

「畏まりました」

会議は、3時間続いた。

エリザベータの質問は、45個。

すべて、的確だった。



第九章 会議後


会議が終わった後、フランツはヘルマンに言った。

「王女殿下、すごいですね」

「ああ」

「あれだけ規定を覚えているなんて」

「王女殿下は、おそらく宮内局で最も規定に詳しい」

「官僚よりも?」

「ああ。我々よりも」

ヘルマンは続けた。

「そして、矛盾を許さない」

「はい、感じました」

「だから、王女殿下が出席する会議は、緊張する」

「でも……」

フランツは言った。

「悪い方ではないですね」

「いや、良い方だ」

ヘルマンは微笑んだ。

「王女殿下のおかげで、我々の仕事は改善されている」

「本当ですか」

「ああ。三年前、予算編成の手続きは混乱していた。しかし、王女殿下が改革してくださった」

「そうなんですか」

「今では、スムーズに進む。王女殿下に感謝している」



第十章 三度目の遭遇


一ヶ月後。

フランツは、資料室で作業していた。

「また、お会いしましたね」

エリザベータだった。

「王女殿下」

「フランツ、最近の仕事はどうですか」

「順調です。おかげさまで」

「それは良かった」

エリザベータは、資料を探している。

「何をお探しですか」

「1845年の予算編成記録です」

「お手伝いします」

二人で資料を探した。

「ありました」

フランツが見つけた。

「ありがとうございます」

エリザベータは資料を開いた。

「フランツ、質問があります」

「はい」

「なぜ、官僚になったのですか」

フランツは考えた。

「国の役に立ちたいと思ったからです」

「国の役に立つ、ですか」

「はい」

エリザベータは微笑んだ。

「良い動機ですね」

「ありがとうございます」

「では、規定を大切にしてください」

「規定、ですか」

「はい。規定は、国を動かす基盤です。それを理解し、守り、そして必要なら改善する。それが、国の役に立つことです」

フランツは、深く頷いた。

「肝に銘じます」



第十一章 初めての「やらかし」目撃


二ヶ月後。

フランツは、宮内局長室の前を通りかかった。

中から、声が聞こえる。

「局長、この予算配分、おかしくないですか」

エリザベータの声だ。

「王女殿下、これは慣例でして」

「慣例は、規定ではありません」

「しかし」

「規定第34条では、『効率性を優先する』とあります。この配分は、効率的ではありません」

「それは……」

「改善案を作成しました。ご確認ください」

沈黙。

そして、局長の溜息。

「……拝見いたします」

フランツは、急いでその場を離れた。

執務室に戻ると、ヘルマンが言った。

「また、王女殿下が何か提案されたようだな」

「なぜ、わかるのですか」

「局長室から聞こえてくる。『おかしくないですか』というお声が」

フランツは笑った。

「王女殿下は、本当に妥協しませんね」

「ああ。それが、王女殿下だ」



第十二章 深夜の遭遇


三ヶ月後。

フランツは、残業をしていた。

午後10時。

宮内局は、ほとんど人がいない。

「疲れた……」

休憩しようと廊下に出ると、明かりがついている部屋があった。

「誰かいるのか」

覗くと、エリザベータがいた。

一人で、規定集を読んでいる。

「王女殿下!?」

エリザベータは顔を上げた。

「フランツ。まだ、仕事ですか」

「はい。殿下こそ、こんな時間に」

「規定を読んでいます」

机の上には、5冊の規定集。

すべて開かれている。

「5冊も……」

「新しい改革案を考えているんです」

「こんな時間に?」

エリザベータは微笑んだ。

「規定は、いつ読んでも面白いですから」

フランツは、呆れた。

しかし、同時に尊敬した。

「王女殿下は、いつ休まれるのですか」

「休んでいます。月に一度、『はっちゃける日』がありますから」

「はっちゃける日、ですか」

「はい。その日は、規定を読みません」

フランツは笑った。

「それが、休息なんですね」

「はい」



第十三章 フランツの成長


半年後。

フランツは、予算編成の中心メンバーになっていた。

ヘルマンが言った。

「フランツ、成長したな」

「ありがとうございます」

「王女殿下の影響だな」

「はい、そうかもしれません」

フランツは、今では規定集を常に携帯している。

わからないことがあれば、すぐに確認する。

矛盾を見つければ、報告する。

「王女殿下の姿勢を、学びました」

「良いことだ」

ヘルマンは微笑んだ。

「ただし、王女殿下ほど極端にならないように」

「はい、気をつけます」



第十四章 一年後


フランツが宮内局に入って一年。

彼は、エリザベータの改革案作成チームに選ばれた。

「フランツ、よろしくお願いします」

「はい、王女殿下」

チームは、5名。

全員、規定に詳しい官僚。

「今回の改革は、予算執行の透明性向上です」

エリザベータは説明した。

「現在の制度では、執行状況の確認が困難です」

「はい」

「改善案を作成します。フランツ、第15条から第20条の分析をお願いします」

「畏まりました」

フランツは、一生懸命働いた。

三ヶ月後、改革案が完成した。

そして、承認された。

「やりましたね」

エリザベータは、チームメンバーに言った。

「皆さんのおかげです」

フランツは、達成感を感じた。

王女殿下と一緒に、国を良くする。

これが、官僚の仕事だと理解した。



第十五章 フランツの感想


ある日、同期の新人が尋ねた。

「フランツ、王女殿下ってどんな方?」

フランツは考えた。

「規定に異常に詳しい」

「それは聞いた」

「矛盾を許さない」

「それも聞いた」

「改革への執着が半端ない」

「それも」

フランツは微笑んだ。

「でも、本家国で最も国を思っている方だと思います」

「本当に?」

「はい。規定を読み、矛盾を正し、制度を改善する。すべて、国のためです」

フランツは続けた。

「最初は、怖かったです。でも、今は尊敬しています」

「そうなんだ」

「ただし」

フランツは付け加えた。

「規定は読んでおいた方がいい。そうしないと、容赦ない」



第十六章 ある会話


二年後。

フランツは、エリザベータと二人で作業していた。

「フランツ、この条文、どう思いますか」

「少し曖昧ですね」

「そうですね。明確にしましょう」

二人で、改善案を考える。

作業が終わった後、フランツは言った。

「王女殿下、質問があります」

「どうぞ」

「なぜ、そこまで規定にこだわるのですか」

エリザベータは少し考えた。

「規定が、国の基盤だからです」

「基盤、ですか」

「はい。規定が正しく機能すれば、国は円滑に動く。しかし、規定に矛盾があれば、混乱が生じる」

エリザベータは続けた。

「私は、混乱を防ぎたい。そして、人々が困らないようにしたい」

フランツは頷いた。

「理解しました」

「フランツも、同じ気持ちですか」

「はい」

フランツは微笑んだ。

「王女殿下に学びました」



第十七章 その後


フランツは、財務課の主任になった。

そして、新人の指導を任された。

新人「フランツ先輩、王女殿下って、どんな方ですか」

フランツは笑った。

「ああ、その質問か」

「はい」

「規定に異常に詳しい」

「はい」

「矛盾を許さない」

「はい」

「でも、本家国で最も尊敬すべき方だ」

「そうなんですか」

フランツは続けた。

「ただし、規定は読んでおけ。特に、業務規定の第12条から第18条」

「はい」

「そうしないと、後が怖い」

「怖い、ですか」

「ああ。でも、それは王女殿下が厳しいからではない」

「では?」

「王女殿下が、規定を大切にしているからだ」

新人は頷いた。

「わかりました」

フランツは、かつての自分を思い出した。

初めて王女殿下に会った日。

資料室で、規定を読めと言われた日。

あの日から、すべてが始まった。


終わり


エピローグ:

フランツ・ミュラーは、宮内局財務課長になった。

そして、エリザベータ王女の改革パートナーとして、数十件の改革に関わった。

ある日、新人研修で彼は語った。

「エリザベータ王女殿下は、私の師です」

「規定の大切さを、教えてくださいました」

「矛盾を許さない姿勢を、示してくださいました」

「そして、国を思う心を、見せてくださいました」

新人たちは、真剣に聞いていた。

「皆さんも、いつか王女殿下に会うでしょう」

「その時、覚悟してください」

「規定を読んでいなければ、容赦ありません」

新人たちは震えた。

「しかし、恐れる必要はありません」

フランツは微笑んだ。

「王女殿下は、厳しいですが、公正です」

「そして、何より、本家国を愛しておられます」

「その姿勢を、学んでください」

新人たちは、深く頷いた。

そして、その日から、規定集を読み始めた。

エリザベータ王女の影響は、こうして次の世代へと受け継がれていった。

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