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貧乏男爵家の調査官日誌  作者: 林はるる


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32/65

伝えたかったもの


 ジュリウスは公園でチェスをしていた。


 祖父のゲイアスと散歩をしていた所、チェスをしている人たちが何組もいたのだ。楽しそうな風景を眺めていたら、老齢の男性が声をかけてきた。チェスをしないかと。その時まわりの人たちが、妙に心配そうな顔をしていたのに気がついたが、まあ、チェスくらい、と勝負を受けた。


 始まってしばらくすると、男性はこう言ってきた。


「坊ちゃん。ちょっと賭けないか?」

「今、あまり手持ちは……」


「そうは言っても持ってはいるだろう」

「気が散るので」


「固いこと言うなよ」


 ジュリウスが断りの文句を出しても、しつこく食い下がってくる。ジュリウスの頭の中で危険信号が鳴っていた。こういう我を通そうという人間は、なにか企んでいることが多い。


「なあ、一局、これでどうだ?」


 男は指を三本出した。


「レートは? 単位は?」


 ジュリウスが、その三本が三シリングなのか、ポンドなのか確認した。


「……言わなくてもわかるだろう」

「わからないな」


 ジュリウスは早めに終わらせようとしたが、男はなかなか手強く、勝負は進まなくなった。そして賭けようと誘ってくる。


 よくある手口だ。最初は弱いふりをして、相手に賭けさせ、その後で実力を出すのだ。


 結局、賭けずに勝負が終わると、男は不機嫌になり、あからさまに舌打ちした。そしてまたジュリウスのようなカモを探しに行った。まわりの人たちが声をかけてくる。


「えらいのに捕まっちまったな」

「あの爺さん。いつもああなんだ」

「とにかく金にがめつくてさ」


 男の名前はブランドンと言った。


 ここで賭けチェスをやっていて、あくどいやり方で勝負をしているらしい。事情を知らない新顔を騙して、あの手この手で高額をむしりとるのだ。公園でチェスをする常連には嫌われていた。


 ジュリウスはブランドンのことが印象に残り、その後、街中でよく目に付くようになったのだ。路上で物乞いをして稼いでいたり、市場で値段をまけろと、店主に絡んでいたり、本当に迷惑な男だ。街中から嫌われている。


 一番よく会うのが、夜警姿で日当を得ているブランドンだった。ジュリウスは不思議だった。


「一体、なににそんなに、お金が必要なんだ?」


 職業柄、少し気になったのだ。


「ブランドンさんねえ。嫌われ者だよ。とにかく金にがめつくてさ」

「どこに住んでいるだい。家族はいるのかな」


「奥さんは早くに亡くなっちまったけど、子どもが五人いるよ。みんな結婚して家を出て行っちまった」

「どうしてだい」


「ブランドンさんが、家のお金を使い込んじまうんだよ。そのせいで、子どもたちはいつもひもじい思いをしてさ。みずぼらしくて、哀れなもんだったよ。そんな中、稼ごうとした長男が初任給を持って帰ったら、それもせびろうとしたって。それがきっかけで全員出て行っちまって」

「……なるほど」


 ジュリウスは王都の上流階級が住む地域を訪ねた。この辺りは見晴らしがよく、訳ありの高級マンションが建ち並んでいる。


 後ろ暗い理由で、警備が厳重な住民たちが住んでいるのだ。


 ある一区画を訪ねて中に入る。通された部屋は、玄関を入ると、豪華な絨毯が敷かれた長い廊下がまずあり、その奥に続いている突き当たりには、舶来もののタンスが置かれていた。まるで貴族の屋敷のようだ。突き当たりを曲がった所に、豪華な応接間が見え、ジュリウスは帽子を脱いで、主人のギャリックに挨拶をした。


「初めまして。私はジュリウス・ラムレイと申します。少しお話しを伺いたくて……」


 籾手をして、借用書を書かせようとした悪徳高利貸しのギャリックは、失礼にならない程度にジュリウスを観察した後、言った。


「客じゃない?」

「はい。すみません」


 あからさまにがっかりしたギャリックは、社交辞令の仮面をかなぐり捨てた。


「ああ、時間と笑顔を損した」

「お礼はしますから」


「お礼と言われても。情報が欲しいなら買ってもらいたいものですなあ」

「ブランドンさんのことをご存じですよね」


 それまで傲慢で、どこかへらへらとした笑みを浮かべていたギャリックは、急に無表情になった。


「なに、あんた。なにもの?」

「何者というほどでは。少し気になりまして。ブランドンさんはこちらに大きな借金があるとか」


「好奇心は猫をもころすって聞いたことない?」

「耳が痛いです」


「済みませんが、お引き取り願えますか」


 ギャリックは、玄関を手で指した。ジュリウスはちらりとギャリックの目を見た。本気の目だ。こういう時は逆らわない方がいい。


「残念ですが、失礼いたします」


 ジュリウスは帽子をかぶると、玄関へ向かった。長い廊下を歩き、玄関扉に手をかけようとした所、向こうから開いたのだ。外からブランドンが入ってくる所だった。ブランドンはジュリウスの顔を覚えていないのか、陽気に会釈して入ってきた。


 陽気? いつもがめつく意地汚い顔をしているブランドンが、なにがあったのか、ほがらかだ。まるで酒でも飲んでいるかのように、鼻歌を歌いながら、廊下を進んでいった。ジュリウスは足音を忍ばせてついていった。


「あれ、ブランドン。どうしたんだ。ご機嫌だな」


「それが今日はついていてさあ。物乞いすれば、お貴族様が大金を恵んでくれるわ。チェスをすれば、諦めの悪いやつから三回戦分、ぶんどれたわで、お大尽なんだよ。俺」


 ブランドンは、小銭まじりの札束を、テーブルの上にぶちまけた。


「おっと、これはすごいな。ブランドン。借金の返済も大分進んだぞ」

「そうだろう。そうだろう」


 二人は仲良く盛り上がっている。とても悪徳高利貸しと、借金持ちに見えない。


「そうだ。さっき借金の返済に来た奴が、利子だって言って、ロールパンを大量に持ってきたんだ。いらねえって言ったのによお。昼飯に食べてけよ。ブランドン」

「おっと、助かるね。飯代が浮くよ」


 機嫌のいいブランドンを、ギャリックは伺うように見た。


「………………お前さあ。もうあらかた返済し終わったんだから、これ以上、無理しなくてもいいんじゃないか。俺、もう、金に困ってねえし」


「ギャリック。それじゃあ、俺の気が済まねえんだよ。借りたものはきっちり返さねえと。恩知らずになっちまう」


「そんなに固く考えるなよ。もうお互い、いい年なんだ。無理すると体壊すぞ」


「丁度いい。俺、遺言状に俺の遺体を献体するって書いてるんだ。いい値段になるだろうなあ。買取金額で最後の借金も全額、返せる算段さ」


「ブランドン……」


 暗くなってしまったギャリックを見て、調子に乗ってしまったと気がついたブランドンは、帽子をかぶり直した。


「悪い。今日のところは帰るよ。でも、俺の葬式で、残額きっちりと取り立ててくれ。それが俺の願いだ」

「おい、ちょっと待て。パンは持って帰れ。そして食べろ。本当に体壊すぞ」


 ギャリックは布に包まれたパンを、ばたばたと足音を立てて取りに行き、もう帰ろうと廊下を歩き出したブランドンに押しつけた。


「ちゃんと食べるんだぞ」


 そういってブランドンを送り出したのだ。




「どうやって降りよう」


 その頃、見つからないようにバルコニーに逃げ出したジュリウスは、途方に暮れていた。扉は外側からは開かないようだった。




「おや、コートが破れているね。どうしたんだい」

「……ちょっと」


 まるで家畜小屋の寝わらに、飛び込んだようなジュリウスは、リックに照れ笑いをした。


「……よかったら、相談してみないか。私に。答えられることもあるかもしれない」

「金にがめついことで有名な、町民のブランドンについて調べていて」


「知らないなあ」

「そうですよね。ただの町民ですから」


「他には」

「……悪徳高利貸しのギャリックなどは」


 リックはすぐに思い当たったようだった。


「知っている。街の高利貸しだな。ただ、悪徳ではないが」

「そうなのですか」


「昔は確かにそうだったらしい。だが最近はかなり良心的だ。彼がなにか」

「その……ブランドンが、ギャリックに金を借りていると」


 リックは少し考え込んだ後、すらすらと話し出した。


「……高利貸しのギャリック。アダーニ一家が後ろ盾で、不動産業も営んでいる。結構羽振りが良いそうだ。独身で馴染みの愛人がいる。昔は相当がめつかったと聞くが、だが、悪い噂は聞かないね。なんでも近郊のウファ村出身らしい」


「……ウファ村」


 リックの情報を聞いて、ジュリウスは思い至った。


「雑貨屋の店主が、ブランドンは、ウファ村の出身だと言っていました」


 人口が二百人程度の小さな村だ。同世代のブランドンとギャリック。親しくて当たり前だ。同郷の出身なのだ。この大都会で、協力して生きてきたとしたら。


「そういえば……不思議ではありませんが、それにしても、どうしてギャリックのことをご存じなのですか」


「不思議な形で、誘拐事件にかかわったことがあるんだ。だから印象に残っていた」


「誘拐事件?」


「なんでも町民の子どもが、間違って誘拐された事件があって。その時に、ギャリックが身代金を工面したんだ。理由までは覚えていないが。なにせ昔の記録だったし」


「その資料、どこにありますか」


 ジュリウスが調べた所によると、三十年前に、ブランドンという名前の町民の子どもが誘拐された。五歳の女の子で、教会で一緒にいた富裕層の少女と間違えられたらしい。犯人からは、巨額の身代金が要求された。


 富裕層の少女の親は、関係ないからと我関せず。ブランドンは身代金を用意せねばならなくなったが、土台無理な話だった。


 王都では遺体は需要があり高価だ。献体など様々な用途に使われるため、身代金が払えなかった場合、無事に戻ってくる確率は、とても低かった。


 そのため、ブランドンは同郷のギャリックを頼ったのだ。返せる当てもない大金を貸して欲しいと。他の人間だったら、ギャリックも貸さなかっただろう。だがブランドンは返すと言ったら、必ず返す男だった。だから、貸したのだ。実際の所、全額返してもらわなくてもいいとも思っていた。


 だがブランドンは、三十年間、こつこつ返し続け、完済まであと一歩だった。


「この誘拐犯は、捕まったのか」


 ジュリウスとリックの質問に、当時を覚えている捜査員が答えた。


「別件で、半分くらいが捕まりました。でも、金は……」

「それじゃあ、払い損か」


「まあ、そうなんですが、この話を新聞記事で読んだ奇特な夫人が、結構な大金を警ら隊を通じて被害者に寄付しましてね。だからブランドンも、生活自体はなんとかなるはずだったんですが。それを全部、金貸しのギャリックに渡してしまったらしいんです。まあ、だからギャリックの商売は一息つけたでしょうね。でもブランドンと子どもたちは……」


「子どもは無事だったんだな」

「……まあ、命は無事でした」


「どうして記録にきちんと載っていないんだ」


「……ブランドンが頼み込んだそうです。誘拐されたのは、女の子でしたからね。詳しいことが新聞記事に載ってしまったら、嫁に行けなくなってしまうと。必死に頭を下げて回って、見ていられなかったそうです。だから当時の記録に、ぼかして書いた捜査員が多かったって、聞きました」


 ジュリウスは考え込んだ。身代金という借金を抱えた、律儀なブランドン。娘のために誘拐事件をなかったことにしたのだろう。


 彼の子どもたちは、事件のことを覚えていないし、知らされていないのだ。だから、どうして自分の家が貧乏なのか、父親ががめついのかわからない。


 そしてブランドンは、ひどい恐怖にさらされ、ショックから誘拐の記憶がおぼろげな娘に、それを絶対に思い出して欲しくないのだ。


 奇特な夫人の寄付があり、おそらくギャリックは、金貸しの商売にそこまで影響は出なかった。だから、借金の返済にあまりこだわっていないのだろう。


 ジュリウスたちの横を、同僚が早足で横切ろうとした。


「なにかあったのか」


「なんでも、公園でチェスの勝負をめぐって、喧嘩があったそうです。巡回に行くので、見てこようと」


 妙な胸騒ぎがしたジュリウスは、ブラック号を出して、公園まで急いで見に行った。


 人だかりができており、ブランドンが口から血を流して倒れていた。まわりの人たちが取り囲み、近くに住む医者が、白衣を着ながら駆けつけている。


 ジュリウスは人々を整理し、医者に仕事をさせやすいようにしたが、ブランドンの口から、とぷとぷと溢れる血を見て、なんとも言えない気持ちになった。




 ブランドンは遺言状に、葬儀を希望せず、献体を望むと遺してあった。葬儀費用と、献体費用は、高利貸しのギャリックに渡すようにと。


 残された子どもたちは、父親が理解できず、理由もわからず泣き叫んだ。そしてずっと父親につきまとっている、悪徳高利貸しのギャリックを憎んだ。他のことはともかく、父親の遺体を、高利貸しのギャリックに、渡すことが耐えられなかったのだ。


「どこまで搾り取れば気が済むんだ。この悪魔が」

「父さんを返して」


 用心棒を連れて、ブランドンの家に乗り込んだギャリックは、薄ら笑いを浮かべて、金の催促をした。


「なぜこんなことをするんだ」

「理由なんてない。ブランドンの野郎は借金をした。だから返済してもらうだけだ」


「なんのために借金をしたの」

「そんなの知るか」


 ギャリックは高圧的にふるまった。しかしブランドンの死で、人が集まっていた。多勢に無勢で、ギャリックが少し焦っていた所へ、ジュリウスも乗り込んだ。


「借用書はあるんだ。ギャリック()()に金を渡しな」


 高利貸しと裏でつながりのある役人のようにふるまい、威圧的に遺族に圧力をかけた。


 役人の権力には逆らえず、子どもたちは泣く泣く金と遺体を渡してきた。


「ギャリック……、お前のことは絶対に許さない」


 長男にそう言われたギャリックは、ニヤニヤしながら、ブランドンの遺体を持って、その家を出た。




◇◇◇◇◇◇



「さて、と」


 ギャリックは、遺体を売り、大金を得た後、借用書に完済の署名をした。


「返済に何年かかったんですか」


 ジュリウスは年季の入った借用証を眺めた。ギャリックとブランドンの、二人三脚の歴史が刻まれている。


「三十一年五ヶ月と十日だな。ブランドンは約束は破らねえ男で、やると言ったらやるんだよ。まったくうっとうしいほど、頭が固い男でさあ。もっと柔軟に生きればいいものを。だが、だからこそ、とんでもない金額の金を貸そうって思ったんだよなあ」


 ギャリックは、まるで自分のことのようにブランドンについて自慢げに話し、そんな彼をジュリウスは見ていた。


「いろいろとお邪魔しました。これにて失礼をば」


「ああ、あんた。ついでだから昼飯を食べて行けよ。あれこれ世話になっちまったし」


「いいんですか。急に来たのに」


「いいんだ、いいんだ。買っておいたロールパンが、余っちまったからさ」


 ジュリウスは有り難く、バターたっぷりのロールパンを頂いた。ジュリウスの質問に、ギャリックはぽつりぽつりと話し始めた。


「お二人が住んでいた頃の、ウファ村はどんな感じだったのですか」


「閉鎖的でさあ。ひねくれ曲がった奴らばっかだったよ。ブランドンみたいな真っ直ぐな奴は、つらかったろうな。だから王都で金貸しをしてた叔父貴のところに、俺が上京するって言ったら、ついていきたいって言ってさあ。最初は断ったよ。生き馬の目を抜くような場所だ。俺たちみたいな田舎もんには生きづらいって。だからすぐに逃げ帰るだろうって思ってた。でも奴はそこそこ勉強できたんだよな。工場で働きだしたら、すぐに収入のいい事務仕事に回されてさ。現場も知ってる、技術も持ってる、ってんで、割と重宝されてた。その内、真面目な所が気に入られて、責任者の娘さんを嫁にもらってさあ。見ている奴はちゃんといるんだなって思ったよ」


 ジュリウスは、ギャリックがそういうのを聞いて、「そんなブランドンさんを、心配で見ていたんですね」と思った。ギャリックはまわりがあくどい連中だったとしても、それなりに合わせられる器用さを持っている。そうでなければ高利貸しなんてやっていられない。だからこそ、実直なブランドンを見ると、ほっとするところがあったのではないか。


「子どもも五人生まれて、あの頃が奴の幸せの絶頂だったなあ。でも奥さんが、流行病であっけなく逝っちまって。残された子どもを大切に育てようと、懸命だったよ。そんな中、下のアン…………、子どもの一人が誘拐されてさ。あんた、それ調べたんだろう」


「はい。記録が残ってて」


「見てられなかったねえ。警察に話しを聞かれた後は、寝ないでふらふらと街を探し回って、金策に駆けずり回って、何日も徹夜してさあ。寝ないと体がもたないって、無理に横にさせても三十分もすると、悲鳴を上げて起きちまう。寝るのが怖いって。それで、ずっと娘に謝るんだよ。俺がついていてやれば良かったって。もっと早く迎えに行けばって。飯食えって言っても、そんなの怖い思いをしている娘に悪いって、食わないし」


「娘さんが保護されて良かったですね」


「あれ、警らの資料に残ってないのか」


「ブランドンさんが、記録を消して欲しいと、言って回ったそうで。怪我をした状態で保護されたとだけ……推察はできますが……」


「…………ひどいもんでさ。傷だらけで、口もきけなくなっちまったんだよ。暗闇を極端に怖がるし、物音にも怯えて、父親以外の男は寄りつかせないし。だからブランドンは医者に相談して、事件のことをなかったことにしたんだ。娘には遊んでいて怪我をしたんだって、繰り返し言い聞かせて、怖いことはすべて夢だったんだって。半年近くずっと娘の側にいて、その記憶を塗り替えたんだ」


「大変でしたね」


「ああ。俺は子どもたちの、知りたいっていう気持ちはわかるんだ。あのままじゃあ、つらいだろう。だけど、懸命に記憶を塗り替えた、ブランドンも知っているから、絶対に教える気はない」


 決意をこめたギャリックの顔を見て、ジュリウスは頷いた。



 気の毒な状況ではある。


 だがジュリウスは、絶望的な気持ちにはなっていなかった。


 なぜなら、ブランドンは世間では、「金にがめつい強突く張り」となっている。だが、子どもたちが、本心から父親のことをそう評価していたら、もっと冷淡な態度を取るのではないか。


 ブランドンがどれだけ、金に意地汚くふるまっても、その人間性は伝わっていた。そして愛情ももちろん伝わっている。だからこそ子どもたちは、父親が理解できなくて苦しんでいる。


 だがその苦しみこそが、彼らが父親から、たくさんの愛情を注がれた証拠なのだ。


 父親から愛情を注がれた。


 それ以上に大事なことはあるだろうか。ジュリウスはそう思った。


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