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貧乏男爵家の調査官日誌  作者: 林はるる


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献身的な彼


 セレク男爵家のルーシーは、婚約者のことで悩んでいた。


 金にがめつい父親に、売られるようにキュール子爵令息ワイアットと、婚約させられたのだ。

 ワイアットは瑕疵有り令息として有名だった。ワイアットには幼なじみのザラがいて、二人はまるで恋人のように仲が良いのだ。ワイアットの今までの婚約者は、ザラが原因で婚約を解消していた。


 ルーシーも、父親と行った初顔合わせで、当たり前のようにザラが出てきたのには、驚いたものだ。キュール子爵はあまり気にしていないようだった。


 その後、交流会やデートにまでついてこられる時もあり、そういった場合はその間ずっと、ワイアットはザラといちゃいちゃしていて、真面目なルーシーには理解できない世界が展開された。


 最近はルーシー宅の交流会は、何度もキャンセルされている。その理由が、ふるっていて、『ザラが熱を出したから』というものだ。ワイアットの理論では、幼なじみの大切なザラが熱を出したから看病したい、ついては欠席する、というものだ。


 幼なじみを看病する健気な人間を、どこぞにアピールしたいようだが、たいていの場合、交流会の終了時間間際に連絡してくる。もう最近では、遅刻は確定だし、欠席もほぼ確定というのがわかっていても、几帳面なルーシーは、時間通りに準備して待ってしまうのだ。あまりにも理解できない事態に、ルーシーの脳は麻痺していた。


 そんな時、図書館の心理学のコーナーで、『話が通じない人たち』という本を、元同級生のジュリウスが読んでいたのだ。


 ルーシーがぎろりとにらむと、命の危険を感じたのか、ジュリウスが、ばっと振り返った。


「驚いた。セレク男爵令嬢ではありませんか」


「ルーシーでいいよ。ジュリウス君。その本わかった?私も読んだんだよね。でもね。わかんなかった。だっておかしくない?遅刻して人を待たせているのに、不機嫌になるやつとか。いちいちマウント取らないと、会話できないやつとか。自分の話しかできないやつとか。それから」


 ジュリウスは黙って聞いていた。


「ジュリウス君は、どんなタイプに困っているの?」


「私は特には……。ただ仕事柄、こういった本を読む必要があって。いろんな人がいますし」


「どんな?」


 ルーシーはぎろりとまたにらんだ。


「えっと……。そう、ですね……。先日、園遊会があったのですが、その日はカップル方式ではなく、招待者はそれぞれ一名ずつのみというもので、招待状一枚につき一名しか入れないのです。ですが無理矢理二人で入ろうとした不届き者がいて」


 ルーシーは、ワイアットと二人で招待されたパーティなどに、ザラと三人で無理矢理入ろうとし、係員とワイアットがもめるのに、疲れていた。

 結局はごね得で、ザラは潜り込んでしまうのだ。そうするとパーティの間中、放っておかれてみじめな思いをしていた。だが時には厳しい係員もいて、二名までしか認めない。そういう時は、ルーシーが無理矢理帰されて、みじめな思いをするのだ。


 ジュリウスの話を聞いて、またしてもワイアットに対する苛立ちが、蘇ってきた。


「だから、二人は入れないと、ただ拒否したのです。ですが、とにかくごねまして。普通は招待状一枚につき二名だろうとか。一人ぐらいいいだろうとか。一緒にいる女性に恥をかかせる気かとか。頭が固い、など。とにかくあらゆる理由を、言い連ねて、帰ろうとしないのです。問題が起きてもいけないので、別室に閉じ込めて、以降は出入り禁止にしました」


 ルーシーの頬を涙がつたい落ちた。

 感動にむせび泣いたのだ。


 確かにワイアットとザラは質が悪い。ジュリウスの言うように、問題にならないように、なあなあの対応になる時もあるだろう。だが、やっていることは不正なのだ。だから本来は、もっと厳しく対応してもいいはずだ。


 ルーシーはずっと、そういった不満を抱えていた。どうして、あの、だらしないワイアットに、まわりは厳しくあたらないんだと、怒っていたのだ。


 ジュリウスが、あっさりと、『出入り禁止』にしたと言ったのを聞いて、ルーシーは胸がすく思いだった。ワイアットのような人間には、罰が必要なのだ。




「本当にすみません。ご迷惑をおかけしました」


 ルーシーはその後、クラスで数名の生徒に囲まれていた。


 ルーシーはワイアットとザラの件で、心労をため込みおかしくなっていた。

 目つきが怪しかったし、言動も怖い物になり、考え方が極端になっていたのだ。


 だから、図書館でジュリウスと話した時に、自分にはなんら関係のない人物が、罰せられた話を聞いて、急に泣き出してしまったのだ。驚いたジュリウスと近くにいた職員が外に連れ出し、通りがかったクラスメイトが、ルーシーの四クラスにまで、連れて帰った。


 その後のルーシーは壊れてしまい、ものすごい早口でワイアットとザラの愚痴を言いながら、時々奇声を発し、机を握りこぶしで叩くという行為を繰り返した。その姿は異様だったが、隣のクラスのワイアットの不品行は、学内にはよく知れ渡っていたので、同情するものが多かった。


 数人の残ったクラスメイトが、丁寧に話を聞いていくと、だんだんと様子は戻り、我に返ったルーシーが、真っ赤になって謝罪した時には、皆、達成感で一杯だった。


「しかし……、原因が変わらないなら、またストレスが貯まりますね」

「ジュリウス君。本当にわからないの。ワイアットやザラの考えていることが」


「まずどの辺が疑問なんですか」

「だってワイアットはザラと結婚すればいいじゃない。なんで私と?」


「……ワイアットのキュール子爵家は、意外に舵取りが難しい家なんです。ご存じと思いますが。主要な貿易路にまたがっていますから、神経を使うやりとりが多いです。つまり当主に能力が求められます。……率直に言ってワイアットには無理です。だから有能な婚約者が必要なのでしょう」

「だったら、その婚約者を大事にしないといけないでしょう? おかしくない?」


「おかしくありません」

「どうして?」


「ワイアットのようなタイプは、こう考えるんです。重要なキュール子爵家の、跡取りである自分は、結婚市場で求められている。だから好きなように振る舞っていいと」

「その考え方おかしいよ」


 ルーシーは泣きながら抗議した。まだ少し精神が不安定のようだ。だが教室のクラスメイトたちも同意した。


「ワイアットって、そういうやつだよ」

「実際、婚約の申し込みは、あるわけだし」


 ジュリウスは続けた。


「だから、ワイアットは自分には価値があると思っていて、ルーシーさんが自分に仕えるのは当然で、ザラさんと遊んでもいい。それが俺の権利だ、くらいに考えてます」

「おかしいって、それ。絶対におかしい」


 ルーシーはまたストレスを貯め始めた。一人のクラスメイトが進み出た。


「ルーシーさんって、下にご兄弟いないの? 年下の親戚は?」

「私が一番年下よ」


 ルーシーが答えると、その場にいた全員、ため息をついた。別の人が言った。


「友だちに、落ち着きがないやつとか、突拍子もないことをするやつは? なにも考えていなくて」

「そんな人いないわ。さっきからどういう意味?」


 クラスメイトたちは答えた。


「あのね。ルーシーさん。この世には、馬鹿がいるの。ルーシーさんは、たぶん、今まで出会ったことがなかったんだと思う。でも、ワイアットとザラは、愚か者なの。それで、そういった相手に理屈で考えても、意味がないの」


 ルーシーは初めて出会った愚か者が、自分の婚約者であることを知った。



◇◇◇◇◇◇



「お父様。何度も言っていますが、キュール子爵家との婚約は解消した方がいいです。ワイアットは、お父様の予想を上回る愚か者で、子爵家を手に入れるのは、馬鹿すぎて無理です」


 ルーシーの父親のセレク男爵は聞き流した。どうやって手に入れるかなんて、ルーシーが考えればいいのだ。男爵はただ命令するだけだった。だからワイアットを待って、応接室に座っていたのだ。隣ではルーシーが、ワイアットとの交流会の準備をしていた。今日は交流会と、新たな契約のためのやりとりを、ワイアットと行う予定だった。


 しかし二時間待っても、三時間待っても来なかった。


「だから言ったではありませんか」

「うるさい。遅れることだってあるだろう」


 男爵はワイアットをかばって言った。そして四時間を過ぎる頃に、ワイアットから、ザラの看病で欠席するとの連絡が来たのだ。同じ目にルーシーがあっても、なんとも思わないくせに、自分が待たされると、男爵は機嫌が悪くなった。


 一方、ルーシーはクラスメイトたちに、馬鹿とはどんなものかというのを実際に見せられると、急に視界が開け、気分が明るくなった。ワイアットの行動には、なにかルーシーにはわからない、深い意味があったわけではないのだ。ただなにも考えていないのだ。ルーシーは悩みから解放された喜びで、踊り出しそうだった。


 そして翌週も男爵は待たされたのだ。男爵はいらいらしているのを隠しながら、次はキュール子爵家で待ち合わせをした。ルーシーは当然、父親について子爵家に行くことを、ワイアットに伝えた。


 そして当然、面倒だと思ったワイアットは、その日帰って来なかったのだ。ルーシーの感覚なら、例え婚約者が苦手でも、契約相手が来るなら帰るだろう。いや、そもそもルーシーなら約束を守るが。だがワイアットの感覚では、面倒な相手が来るなら、たとえ契約相手が来ようと、面倒だという自分の感覚を優先するのだ。


 ルーシーの父親は、金にがめつく、娘を手駒にする冷酷な人間だ。だがしょせんは、真面目なルーシーの父親なのだ。セレク男爵は常識の通じないワイアットに、初めて不安になった。



◇◇◇◇◇◇



 ルーシーは歌劇場に向かっている。


 今日はルーシーの大好きなお芝居、『甘露姫』の再演をするのだ。前に見たものと内容は同じだが、キャストが少し違うのと、プロローグとエピローグが追加されると聞き、ファンにはたまらなかった。そのため思いっきり着飾ってきたのだ。


 以前なら、ワイアットも誘っただろう。だって婚約者なのだから、誘うのが常識だ。だが常識のないワイアットと、わざわざ過ごす気にはなれなかった。


 うきうきして馬車の窓から外をのぞくと、今日はやけにものものしかった。だが歌劇場について、人でごった返している中、馬車を降りると、なぜかそこにワイアットとザラがいたのだ。


「どうして、二人が?」

「だってお前、芝居好きじゃないか。今日もチケット持ってきただろう。早く寄越せよ」

「そうよ、中に入れなくて困っていたのよ」


 ワイアットとザラは、まるでルーシーが、約束していて遅刻でもしたかのように話した。そしてルーシーの手から、力尽くでチケットを奪ったのだ。そしてさっさと中にはいってしまった。ヒールのせいで、追いつくのに時間がかかったルーシーは、中に入ろうとして止められた。


「チケットを拝見します」

「それがさきほど、……婚約者に取られてしまって」


「……これは、セレク男爵令嬢。どうなさったのですか」


 入念に客の入りを見ていた歌劇場の支配人は、ただごとではない様子のルーシーに気がついて、話しかけてきた。ルーシーが事情を話すと、中に入れてくれ、既に座っているワイアットとザラに話しかけたのだ。


「失礼、こちらの席は、あちらのセレク男爵令嬢のものです」

「うるさいな。私は彼女の婚約者だ。なんの問題がある」


「ですが」

「体が弱くて可哀想なザラに、芝居を見せてやるのだ。それぐらいの気遣いもできないのか」


「お客様」


 ワイアットと支配人が話している横で、ザラは席の文句を言った。


「それにしてもしょぼい席。こんなに後ろなの」


 お芝居のチケットは二枚組だ。ルーシーは一人で来るつもりだった。だがさすがに女性一人は恥ずかしく、後ろの方を取ったのだ。奪っておいて、そんな不満を。


「もういいです」


 ルーシーは支配人に言った。すでに視線を集め始めている。ルーシーは女連れで来た婚約者にチケットを奪われた、負け組なのだ。みじめだった。これ以上恥をさらしたくなかった。それになによりこんな気持ちで、大好きなお芝居を観たくなかった。


「いけません。このような横暴を許しては」


 支配人はそう言ったが、ルーシーは首を横に振って、出口に向かった。後ろからついてきた支配人は、小声で言った。


「次回から彼らは出入り禁止です」

「……それを聞いて、胸がすくわ」


 暗い気持ちのルーシーは、なんとかその言葉を吐いた。

 しかし目の前に、ジュリウスと知らない老人が立っていたのだ。


「……クィンタス様」


 支配人が驚いてつぶやくのが聞こえた。


「ルーシー嬢。我らが姫君が、ご一緒なさりたいと仰っている。いかがかな」


 その時のルーシーは、あまりものを考えられる状態ではなかった。だから別の席で見られるなら、それもいいかな、というていどの気持ちで、ついていったのだ。ルーシーは特別なルートを進むと、王侯席に出たのだ。


 歌劇場の王侯席は舞台の下手(しもて)の続きにあり、十人ぐらいが座れる広いスペースだ。壁はなく、観客席から丸見えで、今、この国を支配しているのは誰かというのが、庶民にもわかるようになっている。


 そこに、お偉方が座っていた。そしてコルトナー侯爵家のグレンと、その婚約者ボウエン伯爵家のローズが座っていたのだ。騒ぎを聞いて憤慨していたローズは、気軽にルーシーを呼び寄せると、近くに座らせた。


「大変だったわね。今夜はゆっくり楽しみましょう」


 そう言われてルーシーは、緊張しきったまま頷いたのだ。後から考えると、夢のような時間だった。お芝居は文字通り目の前で上演され、時には役者がサービスの一環として、王侯席前で芝居をしてくれたりもしたのだ。音楽が流れる中でも、役者の衣擦れの音までもが、聞こえるほど近くで。


 それだけでルーシーの胸は一杯だった。だから自分の行動がなにを意味するのか、うっかりしていたのだ。


 翌日ルーシーは学院に行くと、大勢の人々に取り囲まれた。この学院に通う高位貴族ですら、王侯席に座ったことがある人などまずいない。ルーシーは次々にお茶会の招待状を渡され、夜会に来て欲しいと誘われた。ぜひ王侯席でのお話しを聞かせて欲しいと。


 一方ワイアットはまずい立場になっていた。ワイアットの言う、体の弱い幼なじみを大切にしているという建前は、筋は通っていた。だから面倒な時は「看病だ」とさぼり、遊びたい時は「滅多にない機会だから」と、強引に押し通せたのだ。


 しかし最近は、ルーシーからも、その父親からも、学友たちからも、なんの誘いも来なくなってしまった。そのため、招待状を寄越すように催促したが、なんの音沙汰もない。そして重ねて催促した所こう言われたのだ。


「ザラさんの側についていてあげて。看病で大変だろうからワイアットも休んだら?」と。


 仕方なくワイアットは、自分の父親に来る招待状を使って、ザラと出かけていたら、父親にも来なくなってしまったのだ。まあ当然ではあった。仕事の幅を広げようと、キュール子爵に招待状を送っているのに、仕事をする気もない子息ワイアットが、婚約者がいるにもかかわらず愛人を連れてきて、ただ遊ぶのだ。


 醜聞を恐れて、送らなくなる家は多かった。建前を振り回して、好き放題にしていたら、距離をおかれたワイアットは、孤立して初めて不安になった。


 そのため下手にでて、ルーシーに会いに行ったのだ。ルーシーは大勢の人に囲まれ、楽しくしていた。隣には最近親しくしている令息がたっている。その令息の家で園遊会をするという話で、盛り上がっていた。もちろんルーシーも招待されると。それを聞いてなぜかほっとしたワイアットは、そのまま引き返した。


 そして園遊会当日、意気揚々と、ザラと出かけたのだ。


 ワイアットはルーシーが招待されたのなら、当然婚約者である自分も参加していい。いつもの通りザラも連れていく。そういう風に考えていた。


 マール令息のシン子爵家の屋敷に着くと、入り口で押し問答が起こった。


「中に入って良いのは、ワイアット殿だけです。ザラ殿はいけません」


 ワイアットはいつもの通り、自分の持論を声高に主張し、中に入ろうとした。そこへ子爵令息のマールが通りがかった。彼はにこにこと気軽に言った。


「入れて良いよ。どうぞ、ワイアット君、ザラさん」


 ワイアットは鼻息荒く、中に入ると、マールについていった。案内されていった先は、大きめの会議室で、中にはたくさんの人がいた。シン子爵、令息マール。セレク男爵、令嬢ルーシー、そして父親のキュール子爵がいたのだ。キュール子爵はワイアットを見て、絶望的な表情をしていた。


「ワイアット君、今、君とルーシーさんの、婚約解消について話していたんだ」

「そんなことしたら、ルーシーが困るだろう」


 ワイアットは普通に言った。ルーシーは内心、「むしろ嬉しいです」と思った。以前、ジュリウスやクラスメイトたちが言っていた、ワイアットは自分に価値があると、思い込んでいる、というのは本当のようだ。


「ルーシーさんからの希望もあって……」

「そんなはずない」


 ワイアットは言下に否定した。話が進まないと思った、ルーシーの父親が口を挟む。


「セレク男爵家としても、この婚約は実りがないと判断した。約束を守らない。好きなように解釈する相手と、契約は結べないからな。いいですな。キュール子爵」


「これからはきちんと守りますから」


「先ほども同じことを仰いましたね。『今日から守ります』と。その約束も、たった今、破られましたが」


 セレク男爵は、婚約を解消するにあたって、キュール子爵側の非を指摘した。誠意がない態度をワイアットが取ると。今までの実例をあげて。だからキュール子爵は、今日から約束を守らせるから、少し猶予が欲しいと、引き延ばし作戦に出たのだ。


 しかしマールは罠をはっていた。でしゃばりのワイアットとザラは、園遊会のような話には飛びつくだろうと。


「私が招待したのは、ルーシー嬢です。ワイアット君には声すらかけていない。それなのに、自分は婚約者だからと乗り込んできて、挙げ句の果てには関係のないザラさんを連れている。とても約束が守れるとは思えない」


「では婚約解消の書類に署名を」


 キュール子爵は震える手で署名した。


「園遊会はいつ始まるんだ」


 ワイアットは呑気に言った。また新しい婚約者を、手に入れればいいと考えているからだ。


「この会議が終わった後だよ。君たちは入れないけどね」


 マールは冷たく言った。


「どうしてだ」

「君たちは招待していないから」


「俺はルーシーの婚約者だぞ」

「今、目の前で解消したじゃないか。いいか、君はもうルーシー嬢とは、なんの関係もないんだ。よかったな」


「よかった?」

「だって君……、彼女と理由をつけて、会おうとしないで、いつもザラさんとべったりじゃないか。お芝居も彼女を追い払ってザラさんと観たんだろう。これからは念願通り、ザラさんと二人っきりだ。今みたいにね」


 ワイアットとザラは、今、べったりと寄り添っていた。


「君の望み通り、ルーシー嬢とはなんの関係もなくなったんだ。君は自由だよ」


 あまりにもワイアットが、好き勝手に行動するので、周囲はそれを受け入れ、ワイアットとザラを二人っきりにしてやった。彼は自由なのだ。それなのにワイアットは、それを嬉しく感じることが、どうしてだか、ちっともできなかった。


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