命の判子 ~産まれる前のこと~
判子を押すと命が産まれる。
命は人生の判子なのだから。
「わたしの判子は貴女が押して」
小学生の女児は、笑顔で言った。
そして、翌日。
「産まれるのか、いいなー」
「でしょ? やっと産まれるの、わたしも」
誇らしげに言われる。
自慢する女児、だが残念、中身は私と同じくらいの年齢なのだ。多分。ちなみに、私は高2、一番楽しい高2で事故にあい死んだから、17歳。
椅子に座り、向かい合っている。
間にはテーブル。
それと、大量の判子。
「けど、産まれる前に、わたしは貴女と話がしたいな」
「なに、嫌味でも言うつもり?」
「思い出作り、かな」
「思い出作り」
「貴女は、わたしのことを覚えていないと思うけどね」
また、その言葉。
思い出作り、ね。どうせ、産まれたら、ここのことはすぐ忘れてしまうのに、何でそんなこと。産まれる前のことをずっと覚えている人もいるらしいけど、ほとんどの人はすぐに忘れる。
どこに転移し、何をさせられるか。
「たくさん話、しよ?」
「判子を押させてくれるなら、いくらでも。けど、私はアニメや漫画しか知らないんだけど」
「それでも、いいの。
わたしは、貴女と話がしたいから」
「変わった奴だ」
そして、話をした後。
「楽しかった、貴女と話ができて」
「そう? なら、いいけど。本当にアニメとかの話しかしなかったんだけどな」
「だから、貴女と話がしたかったんだって」
「よくわからん」
この女児と、何かあったのだろうか?
前の、生きていた頃の世界で。
「じゃあ、判子押して」
「わかった。
どの名前がいい?」
わたしは大量の判子を女児に見せる。
その名前で、産まれる家が決まる。
姓だけ、世界に1つだけの姓はないから、そこはランダムになるんだけど。でも、産まれる家の姓は選べる。
「じゃあ、これで。死ぬ前と同じ姓」
「はーい」
私は指された判子を取る。
そして、私は、その姓を、じっと見る。
「どした」
「いや、何でもない」
首を橫に振る。
やっぱり、思い出せない。
幼稚園か、小学校か、何かあったのだろう。何があったのだろう。わからない。
私は朱肉をつけ、紙に判子を押す。
女児の姿が、どんどん薄くなっていく。
笑顔の女児。これから産まれるからだろうか、この世界の仕事は楽だったはずだ、この子の判子は1つだけだったのだから、なぜかその1つをなかなか押さなかったけど。
私は、微笑んで女児の顔を見る。
結局、思い出せなかったけど、この世界では仲が良かったから。
「ありがとう、救ってくれて」
その言葉を残して、産まれていった。
命が1つ、誕生した。
「本当、思い出せなかった」
救った? 私が? アニメや漫画にしか興味がない私が?
まあ、いいや。
「あと92本押さないといけない。
アニメが観たい、漫画読みたい。
まだ8本しか押してないよー、うわーん」
ありがとうございました。




