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一匹狼は月を識る  作者: 小春凪 水花
第一章「君と僕」
8/10

EP3「何も変わらないよ。」

「ええ?身分証もないガキでしかも獣人?いやぁ、危なっかしくて街に入れらんないよ。獣臭いし...」


嘘でしょ?早速街入れなくなった...?

今、僕は門前払いされそうになってます。何もそこまで言わなくても...というか別に臭くはないでしょう。

はあ〜?何です?やはり強行突破するしか...


「まあ待ってくれよ、こいつはついさっきそこらで捕まえてきてな。そこらで暴れてるよりは治安維持して野垂れ死んでくれた方が良いだろ?それにほら、何だったか、通行料を払えば通すって制度なかったか?」

「いや、まあ...あるにはあるがテイル、お前それで良いのか?」

「まあその分は働いて返してもらうよ。先行投資って言い方も出来るな。まあこんな弱っちい奴が使い物になるかわからないけどな!」

「うわっ」


か、革鎧さん!?...じゃなかった。テイルさんって言うんだ。

なんて感心してたら首根っこを掴まれた。ちょっと苦しい...

庇ってくれてるんだろうか、どういう風の吹き回しだろう。

どうやらニックさんやセレナさんも目を丸くしている。そんなちょっとした間に手続きは済んで僕とテイルさんだけ先に通され、2人がくる少しの間に彼はこんな事を言ってきた。


「まあ、悪かったな。」

「え?何が?」

「いやほら、無視してた事や助けてもらったのにお礼も言えなかった。」

「いやあ、具体的に何をしてたのか、どう言う思いだったのか言葉にしてくれないと僕には伝わらないなぁ...」

「本当に生意気だな...まあ、良いさ。何だか誤解してた気がするよ。俺は生まれも育ちもこの国だからさ、獣人ってのはもっと野蛮で人間離れしてるイメージがあったよ。」


...第一印象というのは、中々変え難い。

僕も、前の生では施設の人間は全員的だと思っていた。いや、敵ではあったんだけれど。

そのイメージが一度定着してしまえば必要なのは時間である筈なのに。


「じゃあ、なんで今僕と普通に話してるのさ。」

「命の恩人だし、単純に身寄りのないガキだってのもある。それに、友達が欲しいんだろ?」

「なっ!?そ、それは...うるさい!黙れ!僕はそういうつもりで言ったんじゃ「そこで、お前もただの人間なんだなってわかった。」え?」

「ただ、ちょっと俺とは姿が変わってるだけじゃないか。」


彼の顔を見上げる。無視されて、睨まれていたから僕もテイルさんの顔を見ていなかった。

いや、見ようとしていなかったんだろうね。

茶髪で普段は精悍な顔立ちをしているのだろう、20代前半の男性が少しこちらを心配そうに眺めている。

この人は僕の過去の事なんか知らない、知ってたとしたらもっと心配してくれてるのかもしれない。優しい人なんだな、こんな差別意識のある国に生まれて僕よりも先にお互いが何も変わらない事に気付いていたんだ、僕の方が知識はあるかもしれないけれど賢いのは間違いなく彼だ。

おかしいな、答え方を知っていて問題が解けないってさ。それが少しおかしくてクスクスと笑ってしまう。


「な、何がおかしいんだよ。」

「ちが、ちょっと待ってよ。いや、ただ僕って馬鹿だなあ...って思って。」

「何のことを言ってるかわからないけど、子供はただ大人に守られて時々馬鹿やって叱られて学べば良いんだ。」

「...そうだね、だから誰かがその生活を守ってあげなきゃいけないんでしょ?良い仕事だね、冒険者って。」

「ああ、俺はこの仕事に誇りを持っている。名前からして碌でなしの就く仕事って思われがちだけどな。」

「僕もそうなれるように、努力するよ。よろしくね、先輩。」

「は?それってお前...」


その先を言い切る前に後ろから間延びした声が聞こえてきた。


『こっちも入れたよ〜!シルフちゃ〜ん!』

「...あっちも来たみたいだよ、ほら、行こ?」

「あ、ああ。」


そろそろ夕陽も落ちきり星が輝き始める夜。

この世界に来てから後悔した事も、学んだ事も多い。

もう少しだけ生きて良いかもしれない。いや、やり直しても良いのかもしれない。

鎖に繋がれた462番じゃなくて、僕はシルフなんだから。料理ってどうやってするんだろう、友達って何なのかな。勉強もしてみたい。

自由になれたかな。

そう考えながらただ4人で街を歩いていく。人と話すのが、初めて楽しかった。



■■■



その後は少し歩いた後にハワイにある豪邸みたいな建物にリックさんが住んでいる事を知ったり、リアルなメイドさんを初めて見たり、そのまま今日は泊まっていったらどうかと提案されてセレナさんと焦りながら全力で断っただとか、その後ならこれだけでもと色々な硬貨が入った袋を押し付けられただとか、騒がしい1日だったと思う。

...え?ハワイも豪邸もメイドも見た事ないだろって?僕もそう思うけど、それを言うのは野暮って物でしょ。

テイルさんは宿に泊まっているらしく途中で別れた。

そうして僕達はと言えば


「ど、どこも泊まれない...だって!?」

「あはは...行く先々でシルフちゃんの姿見た人は断ってくるよね。私だけなら泊まって良いだなんて酷いよね。一緒にいる子は野宿でもしてろって言いたいのかな。」

「ま、まあまあ...そう怒らないで。」


そう、泊まる所がないのだ。

偉そうに言える事じゃあないね、これ。

口調は落ち着いているが、異世界での初めての夜を野宿で過ごす事になりそうで僕はいま落ち込んでいる。

困ったなぁ...セレナさんだけなら宿に送る事は出来るんだけど...


「あ、あそこも宿屋じゃない?」


え?ああ、本当だ、いやでもどうせ断られるんだろうなぁ...

面倒だなって思ってるのに腕を引かれて無理やり連れていかれる。

セレナさんは、意外と自分勝手で力と押しが強いという事がわかったし、それにされるがままの僕は押しに弱いんだろうと言う事がわかったよ、頼まれれば何でもやっちゃいそうだけど...僕ってちょろいのかな?

現実逃避で性格について考えていたら、ガチャリと扉を開けてセレナさんと共に宿の中に入る。

中は穏やかな雰囲気で木の香りが漂い、年季を感じられる薄暗さを伴った宿屋だった。

眼鏡をかけた性格のきつそうなお婆さんが1人、カウンターに座っている。

紙束を読んでいたようだが、こちらの存在に気付くと顔を上げて対応してきた。


「2人!泊まっていきたいんですけど良いですか!?」

「ん?あぁ...獣人のお客さんも居るのかい。」


その一言にまた少し気落ちしたような怠さが体に回る。

セレナさんも同じらしい、少し目を伏せていた。


「何泊だい?」


だからだろうか、そんな予想外の言葉が出てきた時に2人して「えっ」と声をあげてしまった。

だ、だってさっき獣人って………


「と、泊めてくれるんですか?」

「宿は人が泊める為にある物だよ。通りの馬鹿共は知らないけどねぇ。」

「じゃあ…取り敢えず5泊分で………」

「はいよ、うちは後払いだから支払いは今度にしてくんな。2人部屋でいいかい?」

「お願いします…」


な、なんだろう?話が通じる?

やっぱり年寄りだと思う所もあるのかな。


「今アタシの事年寄りとか思っただろう。」

「えっ、そうなのシルフちゃん?」

「いっ、いえ…そんな事は…」

「良いんだよ隠さなくて、事実だからね。…まあ、強いて言うなら人だ獣だってわける事が馬鹿らしくなっちまったからだろうねぇ…疲れちまったんだよ。」


なにか、訳ありって雰囲気だな。流石にセレナさんもこの状況で騒ぐ気はないらしい。

これ以上は空気も悪くなるだけだし、相手に不快な思いをさせてまでその話を聞きたい訳でもないからその場は解散となり僕達は部屋に案内された。

僕ら以外は誰も居ないから騒いでくれても良いらしい。まあ、僕は静かなタイプだけど。

内装は意外と普通みたいだ。

木製の机に時計や椅子に2人分のベッド、それとトイレがあり、風呂があり……いや明らかにおかしいな。これがあの邪神が言ってた人物が作った物だろうなとすぐに分かった。文明レベルが一つだけ違うとこうも浮くのか。凄い目立っている…

でも、これが普通なのか他の人は反応しない。

なるほど。意識ってのは環境で決まるらしい。

元の世界の僕基準だと違いは分かってもここじゃあ常識が違うからね、そこも突き詰めていかないと。

そんな事を思いながら少しお風呂に入ったり、歯磨きをした。

次は何を………ふわぁ……いや、まずは…寝ようかな。

来ていた服を脱ぎ去り、お婆さんが持ってきてくれた部屋着に着替えてベッドに腰掛ければ柔らかな睡魔が襲ってきた。

どうやら僕は疲れていたらしい。

思えば今日は忙しい1日だった。施設からの脱走を企て絶望し、唐突に別の世界に連れてこられ、熊と戦い森を歩いて知り合いができた。

かなり濃密な1日であったと言えよう。

その知り合いはと言えばご機嫌な様子で風呂に入って着替えてでてきた所だった。


「ねね、シルフちゃん!あのおばあさん良い人だったね!」

「そうだね、半分諦めてたけどなんとかベッドにありつけてよかったよ。かなり眠かった…というかクタクタみたいで、気絶寸前。」

「あ、そっか…ごめんね、長話しちゃって。今日は助けてくれてありがとう、明日から2人で頑張ろうね!」

「うん、よろしく。色々教えてもらうから。」

「頼りにしてて!友達だから!」


…………


「どうしたの?」

「いや、…何でもないよ。明日からよろしくね。セレナ。」

「うん!」


確かに、嬉しかったな。

友達、って言われた時に感じた胸の温かさ…これが多分喜びなのかも。知らない事だらけで、色んな人がいる。僕を嫌う人も好いてくれる人も。意外と、世界って面白いんだね。

2人笑いあい、静かに眠りについた。

頭上に輝く月と星がやけに綺麗だった。

この物語に興味のある方はブックマークやレビュー、下にある星マークで評価を下さると作者が泣いて喜んでモチベが上がります。


もう既にしているよ、という読者様はこれからも【一匹狼は月を識る】をよろしくお願いします。

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