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一匹狼は月を識る  作者: 小春凪 水花
第一章「君と僕」
7/10

EP2「夕日のせい」

「...シルフ?妖精さんの名前なんだ。...愛されてるんだね。」

「あ、それは...」


あっ、唐突にそんなこと言われたせいでちょっと呆けてた。

血がベトベトして気持ち悪いな。

もう一回洗いに行きたい。


「助けていただきありがとうございました!!盗賊に襲われ命からがら逃げてきた所をブラッディベアに見つかりもう駄目かと思っていたんです!」


えっ、な、なにその聞いてるだけで恥ずかしくなってくる名前。この小太りのおじさん、もしかしてまだそういう時期なのかな?

それに感謝されるような事はしてないよね。最初は見捨てようとしてたし。

まあ、良いかな。多分この人なら案内してくれそうだし。


「うん、危なかったね。僕としても目の前で人が死ぬのを見るのは心苦しいし。」


嘘だけどね。内心、舌を出しながら話してる気分だ。


「いやはや...こんな獣人差別が根強い国で人間に対してもその心意気...まさに聖人のようなお方だ。私はリック、リック商会という小さな食品店の長をやっています。護衛を冒険者に頼んだのですが...いや、盗賊の数が思ったより多くてほぼ全員やられてしまいまして。いや!話がズレましたな!お礼がしたいのでどうか我が商会まで一度足を運んでもらえないだろうか。」

「ぼうけんしゃ?え、っと...獣人?何それ。」

「おや?ご存知ないのですか?...ふむふむ、よく見てみればまだ幼いではありませんか。むむむ?失礼ですが、親御さんは何処に?」

「...あー、えー?...どこだろう。わからない、かも...」

「そうですか...きっとお辛い事があったんでしょう。多分、それで記憶を失ってこんな所に...良いでしょう!私が聞きたい事を教えてあげましょう。」

「うん、助かるな。確かに、まだ混乱してるみたい...忘れたい記憶の中にお父さんやお母さんも...ご、ごめんなさい...こんな話しちゃって。一般常識の擦り合わせからで、良い...かな?」


涙目で震えながら言えば、リックさんも涙ぐんで...あっ、視界の端でセレナさんもちょっと泣いてる。

ちょっと罪悪感が湧いてきたけど、取り敢えず色々と話が聞きたかったんだ。

暫くショックで記憶を失った可哀想な子供のふりをしよう。

まあその子供は一人で熊の首が取れる子供なんだけど。

ん?なんか、もう一人の革鎧さんは睨んでくるな。僕は何かしちゃったかな。

...獣人差別って単語に関連してるのかな、聞いてみようかな。


「あの、リックさ「ここは危ないんだから、さっさと離れるぞ、きっと血の匂いで魔物が寄ってきてる。リックさんと嬢ちゃん、手を貸そうか?」」


...邪魔されたかな。やっぱり嫌われてるみたい。

まあここから離れる事には同意かな。あの、ブラッディベア?に勝てたのも半分マグレだし。


「そうだね、ここから離れるついでに歩きながら話そうか。ええと、街ってどっちにあるか分かる?」

「ええ、大丈夫です。現在地も今確認致します。とは言え、かなり近い筈ですが。...行きましょう。街はあちらです。」


あ、コンパスみたいなの出した。

多分、方角あれで分かるのかな?



■■■



その後は一度水を被って血の匂いを落とし、歩きながら話した。

国の事、人種の事、職業、動物、かなり話し込んだ気がする。

まずは分かった事を簡潔にまとめていこうかな。

この世界には大まかに、人間、獣人、動物、魔物という4つの生物がメジャーだそうだ。

人間、特徴がないのが特徴。何もないなりに知恵を振り絞って発展してきたそうだ。

獣人、平均的に身体能力が高く生まれ持った魔力の平均値が低い事で有名。動物の特徴を持っている存在だからか飛べる奴もいるらしい。

動物、地球に存在してた豚とか牛とか。特に得られる情報はなかったので割愛。

魔物、どこから生まれてきているのか不明。繁殖活動も見られるが明らかに繁殖だけでは説明がつかない程に数が多いらしい。あと人間を食べる。...あとで片付けるには物騒すぎるな。さっきのブラッディベアも魔物の一種であるとされているんだとか。

それを踏まえて現在地の話をしていこう。


ここは、ヴルーリィ王国。未だ王政が続いている人間至上主義中世的な国らしい。いや、これが普通なんだけど。

何でも隣国の獣人至上主義のタビティ王国とは数百年前からバチバチらしい。

諍いの発端は諸説あるらしいが、やれ人間側が余分な動物の特徴は魔物と交配した証だとか因縁ふっかけた説と獣人側が身体能力で劣る人間側を見下し始めた説が有力らしい。

僕から言わせたらしょうもない事で数百年単位も争ってるのは国民にとって迷惑だろうしやめてあげたら良いのにと思う。

話がズレたね。そんな理由でこの国では僕のような獣人は珍しいらしい。同様に、リックさんやセレナさんのような差別意識があまりない人間も。

一般的には命を助けてもらっても中々友好的には接してもらえないらしい。革鎧さんめっちゃ睨んでくる...


「ふーん...なるほどね。思ったより変な所に居たんだね。僕。」

「ええ、この辺りの獣人の村は10年ほど前に全て焼かれた筈ですし、別の国から追われてきたとしても、この国に向かわせる理由が一切ありません。なので不思議なのです。もしかしたら高貴な生まれの御方だったのかもしれませんね。」

「僕が?冗談やめてよ。そういうのって、ほら、立ち振る舞いでわかるでしょ?僕にはそんなの一切無いからさ。」

「それもそうでしたね、失礼。」


ははは、と(なご)やかに笑い合いつつ、考える。

金もない、身分証明もできない、しかも国の中では被差別種族。

中々とんでもない立地に僕を寄越しやがったなあの邪神。

まあ、何にせよ...


「まずは金かなぁ...」

「お金?」

「え?セレナさんか...うん、そうそう。僕って身分の証明もお金もないからまずはそこから始めようかなって思ってさ。」

「ならさ!冒険者、やってみない?」

「んーと、さっきから聞いては居たけどさ、それ何なの?」

「魔物とただ戦う仕事!犯罪者以外なら誰でもなれるし、身元も本部?の人達が保証してくれるんだって!」

「ふーん...」


戸籍とまではいかなくても、本人証明とか...あー、仕事って事はお金ももらえるんでしょ?

今僕が求めてる仕事じゃないのか?


「リックさん、どう思います?ほら、差別とかもあって断られそうですけれど。」

「私は良いと思いますよ。冒険者はそもそもヴルーリィ発祥の職でもありませんからね。まあ、この国にいる冒険者は差別意識も持っているかもしれませんが、職員の方々は公平です。信用できるでしょう。私としては、貴方は命の恩人ですし強さも信用できる。私の用心棒として雇いたい所ですが...」

「え〜?シルフちゃん、一緒にやろうよ〜。私ね、冒険者になる為に村を出て来たんだ。リックさんの荷馬車に飛び乗ってさ、抜け出してきたの!」

「」


ええ...待って、この子怖い...

思わず絶句してしまった。親子かと思ったら無理やりついてきてるだけなの!?

ええと、あっ駄目だ、リックさんにも僕を嫌ってるかもしれない革鎧さんにも目を逸らされた。これ本当っぽいな!?


「いや、まあ...やるのは良いけどさ、君は元居た場所に帰った方が良いんじゃない?」

「...うう〜、どうしても帰りたくないの!お願い!」

「はぁ、分かったよ。まだ僕もわかってない事も多いし良いよ。...それに、友達も欲しいし。」

「え?なんて?」

「何でもない!!」


あ、危ない...なんだろう。口から急に出てきた気がする。

そんなまさか...いやいや、何を考えているんだ僕は。

違う!あくまで情報を提供してくれる人が欲しかったからこんな事言っただけだ!

はぁ...リックさんも、ああ、これ革鎧さんにも聞かれてる...

やめろ!そんな生暖かい目でこっちを見るなよ!恥ずかしいじゃないか!


「ほ、ほら!街が見えてきたよ!この話はまた後でね!」


日が暮れてくるまで歩いた時に、ようやく街が見えてきた。

そう、疲れているから。夕陽が落ちかけてオレンジ色に染まっているから。

側から見た時に僕の顔が赤くなっている様に見えるのはきっとそのせい。

この物語に興味のある方はブックマークやレビュー、下にある星マークで評価を下さると作者が泣いて喜んでモチベが上がります。


もう既にしているよ、という読者様はこれからも【一匹狼は月を識る】をよろしくお願いします。

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