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一匹狼は月を識る  作者: 小春凪 水花
第一章「君と僕」
6/10

EP1「はじめまして」

前略、生きているかどうか分からないお父様とお母様へ。

僕は今異世界に放り出され空から落ちています。


「このクソ神ィーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


ああ、もううるさいな!こっちはどうやって着地するのか考えてるのに、耳元で騒がれても困るの!!

ってこの叫び声僕のじゃないか!こんな上空に、しかも雲の上から落ちる体験をしている人間が僕以外に居てたまるか!!!

地上からの距離は目算2500mちょっとって所だね...つまり僕に死ねと?????????

お、おち、落ち着くんだ、大丈夫、人間には知恵と5点着地がある、そう!5点着地とは着地時の衝撃を分散させ怪我のリスクを下げるために生み出されたもので6-8mの高さから落ちても大丈夫...って勝手が違い過ぎる!こんな高さ想定されてないに決まっているだろう!ああ〜、もう無理だ〜...ここで僕は死ぬんだ...

なんでこんな訳の分からないところで落下死なんか...というかなんで人頼んでる立場で精神操作なんかしてるのさ!?確かに、違和感はあったよ!?あまりにも綺麗な事が口から出てくるなーとは思ったけどさあ!

なんなのさ『僕と似たような人間だって無限に送り込むんだ!?

...それがわかっていて、自分だけ逃げるのは...彼女に顔向けできない気がする。(キリッ)』って!そういうキャラじゃないだろう僕は!!!

ああ、変な頼み事を無理やり引き受けさせられて放り投げられる...散々だ、あの神は絶対に悪神とか邪神の類だろう、そうに決まっている。

地上が近付いてきた...もう無理だ...


てっきり落下時の衝撃でミンチにでもなるかと思っていたけれど、しかし思っていたような衝撃はいつまで経ってもこなかった。


「あっ!」「うっ!」「げっ!」「ぐぁっ!」「ぐえっ...」


...非常に情けない、仮にも生物学上女性としてあげるのが(はばか)られる声を上げながら僕は地上に降り立ち...いや、落下した。

どうやらあの邪神もそこまで非情ではなかったらしい。どうやったのかは知らないが地上に落ちる寸前で急に落下速度が落ちたので、建物約1階分の高さから落ちた衝撃だけで済んだ。


「はぁ...はぁ...な、なんとか助かったのかな...土まみれだ。」


あ、水だ。いや、湖か。少し顔でも洗わせてもらおう。

飲めるかどうかは怪しいからちょっと放置するしかないんだけど。

ちゃぷん、と手を水面に差し込み冷水を顔に掛ける。

ふう、少し意識がはっきりしてきた。まずは野生動物に気をつけながらまず森を抜けないと。

そう言えば、何か「体を改造しておく」とかかなり不穏な事を言われた気がするけど今僕はどうなっているんだろう?


そうして、凪いだ水面に映し出されるのは変わり果てた僕の姿だった。


「な、えあっ、耳!?」


最初に目に入ったのは、眩い程に煌めく銀髪とそこに並ぶようにピンと立つ動物の耳。

目の色も青色ではなく今は光り輝く金色に変わっていた。

...顔は、うん、パーツは変わってない。...耳は、うん、上以外にない。...後は...尻尾!?

そう、あるべき場所に耳はなくあるべきではないものが僕の身体にはついていたのだ。

垂れてもいないし、真っ直ぐで水平、これは狼?ちょっと待てくれ、完全に人間の姿じゃない。

最初は全体のインパクトに気を取られていなかったが、手もよくよく見てた爪が伸びている、かなり鋭くてこれだけで人を切り裂けそうだなんて思ってしまう程に。

なんなんだろう、これは...狼?



「きゃあああああ!!!」

「た、助けてくれ!!!!!」

「誰か!誰かいないのか!?」

「ヴゥゥゥゥ....グオーーーー!!!」


どうやら自分の姿見について考える時間すらもらえないらしい。

唸る男性のような声、あれは熊だな。申し訳ないけれど、僕には関係ない事だし、そもそも勝てる訳がないので逃げさせてもらおう。早くこの場から離れないと。

まあ、災難だったな、あの人達も。


「あっ!そこの人!助け...獣人!?」

「え?今僕の事呼ん...って、こっちに来ないでよ!?」


うわ、嘘でしょ!?熊引きつけて僕の方まで来たよこの人達!?

いや、ここまで熊から逃げて来たなら疲労困憊だろう、貪り食われてる間に僕は離れるしかない。

...しかないのに、ガサリガサリと草木を掻き分け出てきた熊は僕の方を明らかに見つめている気がする。

あれ、どう見てもロックオンされてるよね?

ヒュッ!と風を切る音が聞こえて目の前に鋭い爪が映る。


「うわぁ!?」


間一髪、顔を傾ける事でどうにか回避することが出来た。人間その気になれば案外やれるんだな...と、感動する間もなく次の攻撃、左右のお手手で上下左右から絶え間ない攻撃を浴びせられる。

間一髪で避け続けているが、何時まで生き残る事が出来るだろうか、この畜生風情が...!

10秒にも満たない時間、それが僕にとっては研究所からの脱走中の時の次に長く感じた。

死にたくない、いつ止まるんだ!そんな事を考えながら避け続けて行くうちに違和感を覚えた。

なんで僕は攻撃を避けられている?いや、さっきからやけに周りの景色がスローだ。僕の方を見て口をだらしなく開ける革鎧を身につけた金髪の男性も、少し小太りで無地のシャツに身を包む男性も、金髪碧眼で人形のように美しい少女も、全て見える。右、右振り下ろし、左で避けたスペースに突き刺し、躱されたところを右下から薙ぎ払い。

わずか3秒の攻防、普通なら避けられずに最初の攻撃で死んでいるだろう。

ああ、なるほど、これがあの邪神の言ってた「支援」ね。OK、わかりやすくて助かるよ誰が人間辞めさせろと言ったさ。

ああ、腹立たしい、僕を産んだ親も、僕をただ奴隷として扱い続けた忌々しいあの施設も、一方的に要求だけ伝えてくる邪神も、こんな熊を引きつけてきた人間も、僕を執拗に攻撃し続けるこいつも!全てが!!僕を苛立たせる...!!!!

なら、少しはこの怒りを晴らさせてもらおう、八つ当たりだ。謝罪はしないよ、残念だったね、熊野郎。

反撃開始だ。


「ハアッ...!」


拳を握るのではなく、五指を開いて通り過ぎるように熊の隣を通り過ぎる。

一拍の静寂の後、熊の悲鳴があがり頬に鋭い爪痕が出来る。


「グオオオオオオオ!?!?!?」


どうやら僕が避けるだけだったのを見てこちらに有効打はないと判断していたらしい、だから手を突き出す僕の不可解な行動も無視して攻撃に移ろうとした。

はっ、どうやら上位者として君臨していたせいで忘れていたらしいね、どんな者にも訪れる死を。

血を流す感覚はどうだ…いい!?

 

「くっ…!?この!そこで進んでくるか!」


どうやら攻撃を当てて油断したのは僕もだったらしい。

先程まで躱せていた大振りの一撃をモロに受けた。両腕でガード出来ていなかったら吹き飛ばされるか、木に叩き付けられていたかもな…


…逃げるか?

そんな考えが僕の頭を過る。しかし出来ない。先程まで悪態をついていたが僕はこの森の抜け方を知らない。もしかしたらこの三人なら知っているかもしれない。ここで別れれば森の中で餓死してしまうかもしれない。だから、必ずこの三人を僕の為に助けなきゃいけない…

さて、どうにかしてこの熊に勝たなければいけなくなった訳だが、どうしたものか…

長期戦は僕が不利だからね、ワンミスで死ぬかもしれない以上狙うは一撃での決着しかない。

しかし、そう上手くは行くのかな。先ほどのは相手が油断していたからこそ通った不意打ちみたいなものだ。もう既にこちらを警戒してじっくりとこちらを睨みながら虎視眈々と隙を狙っている。

こうも警戒されたら攻撃を通す事も難しいよね。

さて、どうしたものか...僕が奴に勝っているのはなんだ?力はないだろう、先程吹き飛ばされかけた。

ならば、速度か。希望はあるな、奴の攻撃は見えないほどでもなかった、というか僕が余裕で避け続ける事ができる程度だった。なら、視界外から一撃で仕留めさせてもらうとしよう。...幸い、ここは森だ、足場なら幾らでもある。


「じゃあね!」


そう言いながら、木々を蹴り枝の上を飛び回り、葉が揺れる音でカモフラージュしながら縦横無尽に木々の上を駆け回り続ける。早く、もっと早く...今だ!!!


「グオッ!!」


その瞬間、熊の爪が貫いた。

少女の悲痛な叫び声が響き渡る。

その爪に突き刺さっているのは何だ?


「残念だったね、僕はこっちだよ。」


反応される事なんて想定済み、だから丁度良い木の枝を切り裂いて投げ付けた。結果は予想通りだった、面白い程に引っかかってくれたよ。

さて、君は終わりだ。


「おやすみなさい、ありがとう。」


そう呟きながら首元に爪を突き刺す。

最後に幹を蹴り加速しながら突き出した貫手は喉元を突き破り、首と血飛沫が宙を舞い...着地した僕に降り注ぐ。銀と赤が混じり合う不思議で恐ろしい幻想的な光景。

ただ一つ、少女の声が漏れる。


「綺麗...」


なんて。

不思議な子だな、もっとさっきみたいに叫ぶべき場面じゃないのだろうか、目の前で命が失われたのに。


「ね、ねえ!貴女の名前は?わ、私はセレナ!!」


ええ!?…な、名前?そうだ、僕はもう自由なんだから...好きに生きていいなら、名前を持っていいなら...あるべきだよね……

ええと〜…、462番...は、違うか、文字合わせ...狼、銀色...462番?

シルバーウルフ...縮めて...


「し、シルフ。これが僕の名前。よろしく。」


セレナに差し出したシルフの血に塗れた手は握られた。

...どうしようもないほど、その手は温かった。

第一幕、ようやく戦闘シーンと名前を得るシーンを描くことが出来ました。

シルフちゃんの冒険は始まったばかりです!

この物語に興味のある方はブックマークやレビュー、下にある星マークで評価を下さると作者が泣いて喜んでモチベが上がります。

もう既にしているよ、という読者様はこれからも【一匹狼は月を識る】をよろしくお願いします。

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